第7話 帰ってきた領主の屋敷

 南に向かってトコトコと馬に歩いてもらっていると、獣人の村から結構離れた所で、


「あぁっ! ご主人様っ! ご主人様ぁぁぁっ!」


 突然誰かが馬に飛び乗ってきて、抱きつかれた。


「この声と金色の髪は……イザベラか?」

「うんっ! ご主人様が無事で良かったぁぁぁっ!」

「心配を掛けてすまないな。死に掛けている人を放っておかなくてな」

「ううん。ご主人様が無事だったから、それで良いよーっ!」


 イザベラが泣きじゃくりながら、俺の胸に顔を埋めてくる。

 どうやら、俺が思っていた以上に心配させてしまったみたいだ。


「イザベラさん。アルフ様から少し離れて下さい。治癒魔法を使います」

「セシリア、ごめん。早くご主人様に治癒魔法を!」

「アルフ様。失礼します…… ≪ロー・ヒール≫」


 イザベラが馬から飛び降りると、今朝起こしてこれた銀髪メイドさんが俺に初級の治癒魔法を掛けてくれた。

 さっき気絶した時とは違い、少しだけど元気が湧いてきた気がする。


「セシリア、ありがとう。助かるよ」

「初級の治癒魔法しか使えず、すみません。完全回復とはいかないでしょうが、応急手当てにはなるかと」


 そう言って、セシリアが更に数回治癒魔法を使ってくれる。

 しかし、この銀髪メイドさんはTEに出て来ないキャラなので、先にイザベラが名前を言ってくれて良かった。

 これで、名前は何だっけ……なんて言ったら、流石に引かれそうだしね。


「アルフ様。ひとまず私に出来るのはここまでです」

「ご主人様! 今すぐお屋敷に帰りましょう! 私は冷え切ったご主人様のお身体を温める為に、密着しなければならないから、手綱はセシリアに任せるね!」

「いやあの、別に身体が冷えたりしていないし、セシリアのお陰で元気なんだが」


 一応、言ってみたものの、再びイザベラが逆向きで馬に乗り、離れないと言わんばかりにギュッと抱きついてくる。

 その一方で、セシリアはジト目を俺たちに向けながらも、馬の手綱を引いて歩き出す。

 そんな状態で暫く歩くと、森を抜けて白い屋敷が見えてきた。


「アルフ様。お湯と食事と寝床の用意が出来ておりますが、いかがなさいましょうか」

「……お風呂に入りたいかな」

「承知しました。では微調整を行ってまいります。イザベラさん、後は任せますよ」


 敷地内へ入ると、セシリアがあっという間に屋敷の中へ入っていった。

 わかっていたけど、メイドさんって大変だよな。

 それから一緒に風呂へ入って俺の身体を洗うというイザベラの申し出を丁重に断り、軽めの食事を取って、かなり早いが就寝する事に。


「ご主人様。ベッドメイクは済んでおります。それでは、失礼致します」


 三人のメイドさんたちが部屋を出て行こうとして……一番最後に出ようとしたのが、今朝イライザが連れて来た、新入りの少女だった。


「待ってくれ。最後の君は今朝来たばっかりだったな」

「はい。何か?」

「あぁ。こっちへ来てくれ。あと、他の者は全員部屋から出てくれ……イライザもな」


 そう言うと、「バレちゃったかー」と呟きながら、ベッドの下に潜り込んでいたイライザが出てくる。

 いや、念の為言ってみただけなんだが、なんてところに潜んでいるんだよ。


「じゃあ、貴女……今晩はご主人様の事、任せたからね」

「え? 今晩? ……えっ!? えぇぇぇっ!?」

「出来る事なら私と代わって欲しいけど、ご主人様のご指名だからねー」


 そう言って、イライザが部屋から出て行った。

 さて、これで俺と新人メイドさんの完全な二人きりだ。


「さて、君に残ってもらったのは他でもない。実はメイドとは別の仕事があるんだ」

「あ、あの、ご主人様。私、実はまだそういった経験が……で、でも、お給金がいただけるなら、頑張ります」

「もちろん、メイドとしての給料とは別で、報酬は出す」

「わ、わかりました。未熟だとは思いますが、不肖ドロシー……ご主人様に捧げます!」


 ドロシーと名乗った新人メイドさんが、何を思ったのか突然服を脱ぎだした。


「すまん。何をしているんだ?」

「え? あ……着たままの方がお好みでしたか」

「……何を言っているかわからないが、俺は仕事の話をしたかったんだが」

「は、はい。夜伽のお話ですよね?」

「……どうしてそうなるんだ?」

「え? だって私だけ残して、全員部屋から追い出されたので……」


 あー、言われてみれば、そう勘違いされても仕方ないのか。

 悪役領主で奴隷商人のアルフだもんな。

 ひとまず誤解を解き、ドロシーへの特別任務について話す事にした。

 この仕事をきっちりやってくれれば、獣人族の村で始める俺のモブ生活に一歩近づくんだ!

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