挿話1 アルフの一番の奴隷を自負するイザベラ

「≪反転≫! 体力吸収魔法の効果」


 ご主人様が死に掛けの奴隷を助ける為に、自らの生命力を分け与えてしまった。

 この奴隷の少女は、さっき私が倒した狼の魔物に攻撃されて、血が流れ過ぎている。

 ご主人様が死んだりする事なんてないハズだけど、危険な事に変わりはない!


「屋敷から誰か呼んで来るっ!」


 一気に顔から血の気が引いていくご主人様を見て、全力で屋敷へ向かって走る。

 ご主人様は、魔法の授業が上手く行かず、その悩みから解放してくれた。

 進むべき道に迷った時は、いつも進むべき道を示してくれた。

 そして、私の知らなかった事を沢山教えてくれた。

 そんなご主人様が、もしも死んだりしたら……考えるのも嫌っ!


「誰か、薬の知識がある者はっ!? ご主人様が瀕死の少女をお救いになられたが、その代償として生命力を消耗しているっ! 頼むっ! 誰か……ご主人様を助けてっ!」


 全速力で屋敷へ戻り、大きな声で叫ぶ。

 屋敷の中が静まり返り……


「ご、ご主人様がっ!? く、薬っ! 薬箱は……まだるっこしいので、薬屋を買収して来ますっ! エリクサーをご主人様に!」

「待って! この街の薬屋に、国宝級のエリクサーがある訳ないでしょ! それより、冒険者ギルドでヒーラーを募りましょう! 特別報酬を積んで、最上位のヒーラーを連れて行くのよっ!」

「いいえ! 冒険者ギルドに都合良くヒーラーが居るとは限らないわっ! ギルドへ行って、ヒーラーは皆出払っています……じゃあ、洒落にならない! だから、教会に居る聖女を拉致した方が確実よっ!」


 みんな私と一緒でご主人様の事が大好きだから、蜂の巣を突いたような騒ぎになった。

 とりあえず、一番良さそうな案は聖女の拉致ね。

 ご主人様を治療させたら、そのままご主人様の奴隷にしてしまえば、似た様な事が万が一起きたとしても対応出来て一石二鳥だ。

 という訳で、早速教会へ行こうとした所で、銀髪メイドのセシリアから待ったが掛かる。


「待ちなさい! 聖女様を無理やり連れて行っても、治癒してくれなかったり、手を抜かれてしまえば意味がないでしょう」

「だったら、どうしろって言うのよ!」

「私が……やるわ。初級の治癒魔法しか使えないけど、全力で治療にあたる事を約束するわ」

「セシリアが!? ……本当に治癒魔法が使えるの!?」

「えぇ。使う機会がなかったから、アルフ様も知らないでしょうけど」

「治癒魔法が使えるなら何でも良いわ! 急いで来て! 案内するからっ!」


 再び外へ向かおうと思ったところで、


「貴女はアルフ様のベッドの準備を! あと、何かあった時の為にポーションの類を買い揃えておいて!」

「それから、目覚められた後は大した物が食べられない可能性もある! いつもよりも味を薄めに! あと、スープやリゾットをお出し出来るように!」

「あと新入りの貴女は、誰かに教えてもらってお湯の用意を! いつでもアルフ様がお身体を温められるように、準備を!」


 セシリアがテキパキと指示してから、私に続く。

 流石はメイド長ね。私と三歳しか違わないのがウソみたいだけど、今はとても頼もしい。


「セシリアは馬に乗れる? ご主人様が乗っていた馬は置いて来てしまったから、新しい馬を……」

「問題無い。一通り、何でも出来る」

「そう。じゃあ、行くわよ!」


 一人なら、私は走った方が速いけど、セシリアを連れて行かなければ意味がないので、駿馬を二頭借りて早速屋敷の裏手を駆ける。

 ご主人様……どうか間に合って!

 ……そうだ! 無事にご主人様を助けられたら、セシリアに治癒魔法を教わろう。

 私が治癒魔法を使えるようになれば良いんだ! そうすれば、今回みたいな事態でも対応出来る。そして攻撃も回復も出来て、夜伽も出来る最強の護衛として、ご主人様のお傍に置いてもらうんだっ!

 大急ぎで馬を走らせ、少女が襲われていた場所へ。

 地面には大量の血が流れているので、場所は間違っていないのだが……誰も、居ない!?


「ご、ご主人様っ!? ご主人様ぁぁぁっ!」

「落ち着いて! ここにアルフ様の馬も置いて来たんでしょ? という事は、アルフ様が治療した相手が、恩人であるご主人様を安全な場所へ連れて行ったと考えられるわ」

「でも、どこに!? この辺りには、安全な場所なんて……」

「それは……こっちね。馬が通った、新しい足跡がある」

「そんな事までわかるの!? セシリア。ご主人様の所へ……ご主人様の所へ連れて行って」

「善処する」


 今すぐ駆けだしたいけど、唯一の手掛かりを荒らしてしまっては元も子もないので、逸る気持ちを何とか押さえつけ、地面を調べながらゆっくりと進むセシリアの後をついて行く事にした。

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