第5話 目が覚めたら知らない場所?

 目が覚めると……ロッジハウスといった感じの、丸太で作られたような屋根が見えた。

 俺の家はボロいアパートだけど、天井は灰色だったような……


「あっ! 気が付きましたかっ!?」


 ぼやけた視界で天井を眺めていると、視界に可愛らしい少女の顔が飛び込んで来た。

 中学生といった感じだろうか。

 化粧も何もしていなさそうなのに肌が綺麗で目が大きく、可愛らしくて、オレンジがかった明るい茶色の髪が真っすぐ腰まで延び、その上には同じ色の猫耳が……


「えっ!? まさか獣人族!?」

「は、はい……その通りです。本来は私たちのような半端な姿をお見せすべきではないのですが、命の恩人である貴方様をお助けしたくて……」


 驚いた。獣人族が姿を見せるだけでなく、俺を助けてくれるなんて。

 というのも、TEは主人公を中心とした人間の王国と、同じく人間の帝国軍との戦いで、ゲーム終盤からはイザベラをトップとした魔王軍と戦う事になる。

 そして、サブストーリーの中で獣人族の事が話に出てくるけど、人間よりも身体能力が優れているが故に、魔王軍に狙われていて数が少なく、戦闘パートでは一切登場しない。

 つまり大きな戦いの中に居て、村が壊滅するような被害を受けず、見事に隠れ切った種族……そう、俺が目指すモブ生活として、最も相応しい種族だ!


「せっかく助けていただいたのに、獣人なんかですみません」

「な!? 何を言っているんだ!? 獣人族は俺の求める理想の種族だ! 『獣人なんか』……じゃない!」

「えっ!? ですが、貴方様は人間族ですよね? それなのに、獣の血が混じった下等な種族と思ったりは……」

「バカな事を! そんな事は一切思わない! むしろ俺たちに無い身体能力をもっていて、とても優れているじゃないか! この大きな耳も可愛いし……近くで見ても良いか?」

「ふぇ!? は、はい……どうぞ」


 そう言うと、猫耳の少女が恥ずかしそうに頭を下げ、猫耳を見せてくれる。

 さっきはどうやって助けるかを必死に考えていて、猫耳に気付いていなかったけど……モフモフだーっ!

 この猫耳を見ていると、実家で飼っていた三毛猫のムギの事を思い出す。

 頭を撫でて、そのまま背中からお尻を撫でてあげると喜ぶんだけど、尻尾を触ると怒るんだよね。


「ふぁぁぁっ! そ、そこは……い、いえ。私は命を助けて貰った身。あ、貴方様がお望みとあれば、好きなだけ……」

「……ん? あっ! ご、ごめんっ! つ、つい、可愛過ぎて……本当に申し訳ない!」


 少女の猫耳を撫でていたら、実家で飼っていた猫の事を思い出し、気付いたら頭だけではなく、お尻を撫でてしまっていた。

 いや、前世の猫の事を思い出してしまっただけで、本当にエロい事をしようとした訳じゃないんだっ!


「こ、こほん。と、ところで、ここは?」

「んっ……こ、ここは獣人族の村にある私の家です。その、両親は隣の家ですので、大きな音を出さなければ、先程の続きをしてくださっても……」

「ち、違うんだっ! うっかりというか、いや、君が可愛過ぎてつい……じゃなくて、そうだ! その獣人族の村の場所を教えてくれないか?」


 どんな言い訳をしても、ダメな方に話が進んでしまいそうなので、大きく話を変えると……少女が困った表情を浮かべる。


「えっと、すみません。人間族の地理が分からなくて、どう表現すれば伝わるか……」

「なるほど。そうだな……例えば、バッテン領とかって聞いた事はある?」

「あ、それなら知っています。そのバッテン領っていう地域の最奥にあるらしくて、ここから南に行けば、領主様も住む人間族の街があるそうです」


 バッテン領……つまり、アルフが治める土地の領地内にあるのか。

 最奥で、南に街があるという事は、屋敷の北側にある森の奥といった感じだろう。

 とりあえず屋敷の裏口から真っすぐ北へ向かっただけだったのだが、意外に正解だったんだな。


「あれ? じゃあ、獣人族はバッテン領の領民って事なのか?」

「い、いえ。実は、我々獣人族はこっそり住まわせてもらっているので……ですから、出来れば貴方様も、この村の事は言わないでいてくださると、ありがたいです」

「わかった。口が裂けても言わないから、安心して欲しい。だけど……君の名前を聞いても良いかな?」

「あっ! 命の恩人の貴方様に名乗りもせず……失礼しました! 私は、リアと申します」

「俺はアル……アルフィというんだ。よろしく頼む」

「はいっ! アルフィ様」


 流石にアルフの名前はマズいと思って咄嗟に少しだけ変えたが……俺はこの村でモブとして暮らすんだっ!

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