第4話 辺境の村を目指す外道領主
馬の背に乗り、トコトコと林の中を進んで行く。
馬で草原を駆け抜け、一気に辺境の村へ辿り着く……そんな夢を見ていた事もあったけど、馬に乗って五秒で諦めた。
だって俺、日本で馬に乗った事なんて無いし! 今時、テレワーク環境も無いブラック企業へ毎日満員電車に揺られて通っていた社畜だし!
アルフもスキルは外道魔法しか持っていなくて乗馬スキルなんて無いから、馬を走らせたりなんて出来ない!
という訳で、イライザが馬の手綱を持って歩き、その馬の上に俺が座っているだけなので、移動速度は徒歩と同じ。
一体、いつになったら辺境の村へ行けるのだろうか。
「あ、ご主人様。こっちへ行こー!」
「え? どうして?」
「んー、この先で魔物に襲われている人が居るんだよねー。ご主人様を危険な目に遭わせる訳にはいかないしー」
「……って、襲われている人が居るなら、助けないとっ!」
「えっ!? ご主人様っ!? ……あ、そういう事ですねっ! わかりましたっ!」
ゆっくりと歩く馬から飛び降りて走り出すと、イザベラが俺の意図を理解したようで、手綱を握ったまま俺の横を走り抜けていく。
……いや、その速さで走れるなら、俺が馬から降りた意味が全く無いというか、むしろ遅くなっているんだが。
とはいえ、俺の先を行く馬に飛び乗る事なんて出来ないので、全力で走ると、
「えーいっ!」
イザベラの声と共に、バキバキと硬い木々が折れる音が聞こえて来た。
見た所、どうやら人を襲っていた魔物を吹き飛ばしてくれたようだ。
だが、その魔物たちに襲われていたであろう少女が大量の血を流して倒れている。
「ご主人様……襲われている人を助けて奴隷にする作戦は失敗だねー。流石にもう助からないよ」
「そんな作戦ではないが……イザベラは治癒魔法を使う事は出来ないのか!?」
「うん。残念だけど、どうしようもないよー」
イザベラは完全に諦めてしまっているようだ。
確かに、医者でも治癒魔法が使えるヒーラーでもない俺たちにはどうする事も出来ないのかもしれない。
だけど、目の前で人が死に掛けているというのに……本当に手がないのか?
俺が使える魔法は、外道属性と呼ばれる魔法のみ。この外道魔法を使って、アルフは大勢の人間を奴隷にし、裏ボスとの戦いでは強力な奴隷を召喚して自分を護り、治癒魔法が使える奴隷によって、護衛たちを回復させ……
「そうだ! イザベラ。奴隷の中に治癒魔法が使える者は?」
「え? 居ないよー?」
くっ! 奴隷召喚で治癒魔法が使える者を呼び寄せるというのは出来ないのか。
となると、やはりアルフの力で何とかしなければ……アルフが何を出来るのかは、裏ボス戦を思い出せ!
アルフは、自分自身は弱いけど、大量の奴隷を使って主人公たちと戦わせる嫌な奴だ。
近付けば強制的に奴隷化させられ、仲間が主人公を襲うようになるから、耐隷属魔法の防具を身に着けている者しか攻撃出来ず、遠距離魔法に対しては反射魔法で常時身を守っているから、魔法使い系は攻撃不可。
その一方で、ステータスダウン系のスキルを使うと、反転魔法で逆にステータスがアップしてしまうクソボスで、遠くから弓矢で削るしかない為、とにかく倒すのに時間が掛かる。
しかも、反射魔法を使っているから治癒魔法が使えないと思わせておいて、マップに居る奴隷の生命力を奪って、自身の体力を回復するという、正に外道……
「待て! そうか……これなら! ……≪隷属≫」
俺の言葉で、瀕死の少女を黒い何かが包み込む。
これで、この少女は俺の奴隷になったはずだ。
「ご主人様ー。こんな死にかけの女の子を奴隷にしても仕方がないよー。助からないもん」
「いや、助けて見せる! ≪体力吸収≫」
少女に向かって、緑色の光が飛んで行く。
TEの裏ボス戦で見た演出の通りで、ゲームだと奴隷の生命力が減ってアルフの生命力が回復するのだが、
「≪反転≫! 体力吸収魔法の効果」
俺が使用した生命力を奪う魔法の効果を反転させた。
その直後、身体から力が抜けていくというか、急激な疲労に襲われる。
「ご、ご主人様っ!? な、何て事を……や、屋敷から誰か呼んで来るっ!」
イザベラが大慌てで屋敷に向かって行ったが、
「あ、あれ? 確か魔物に襲われて……えっ!? あの、大丈夫ですかっ!?」
どうやら少女が意識を取り戻し、起き上がれるまでに回復したらしい。
良かった……と思ったところで、俺は意識を失い、視界が真っ暗になってしまった。
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