第3話 怯えられる外道領主
「ごちそうさま」
TEの主人公たちに殺されないように、この街から離れ、どこか辺境の村でこっそり暮らす事にした。
……が、それはそれとして、食堂で朝食をしっかりいただき、食後のコーヒーを待つ事に。
というのも、仮にTEのメインストーリーが始まっていたとしても、主人公たちがイザベラの所へ来るのはラストだし、俺のところへ来るのはクリア後の後日譚だ。
なので、せっかく用意してもらった食事を食べないというのは失礼だし、食材も勿体ないしね。
「お、お待たせしました。ご、ご主人様……こ、こ、コーヒーをお持ち致しました」
「ありがとう」
「は、はい。あ、アルフ様にお礼を言われるなんて……こ、これはやっぱり死罪なので、最後に優しくするという事なのでしょうか」
震える手でコーヒーを運んで来てくれたメイドさんにお礼を言うと、顔を真っ青にして怯えられる。
はい? いや、お礼を言ったら殺される……って、どうしてそういう発想になるんだ!?
「いや、死罪って……君は何もしていないだろ?」
「で、ですが先輩から、ご主人様が優しくしてくれた人から殺されるって。何か仕事をしたら罵倒されるのが当たり前だから、慣れろと……」
いや、流石にそれはどうなんだ?
外道領主と呼ばれるアルフが良い奴な訳はないとしても、罵倒が普通っていうのは無いだろ。
その先輩メイドっていうのは、朝に俺を離れた場所から起こしてくれた、あの銀髪の女性だろうか。
俺が転生する前までのアルフの行動が酷すぎたんだろうな。
「……って、君はさっきの女の子か! いきなり奴隷にさせられ、しかもメイドとして働かせる事になってしまって、本当に申し訳ない」
「ご、ご主人様っ!? あ、頭を下げるだなんて……えぇっ!? こ、これはどういう事ですか!? 一族郎党皆殺しとかですかっ!?」
「そんな訳ないだろ。諸事情で君を奴隷から解放する事が出来なくなってしまったが、その分しっかり給料は支払わせてもらうので、どうかそれで許して欲しい」
「えぇっ!? お、お給料が貰えるんですかっ!?」
「いや、当たり前だろ」
「……わ、私頑張ります! 身寄りもスキルも、何も無い私のような者を雇っていただき、本当にありがとうございます!」
今朝、イザベラに連れて来られたという少女が、次のお仕事をしてきますと言って、嬉しそうに食堂から姿を消した。
おそらく奴隷にされたという事から、一生タダ働きさせられると思っていたのだろう。
この家に何人奴隷が居るのか知らないが、後でちゃんと調べて、相応の給料を支払わなければ。
TE内でアルフは相当な金持ちという設定だったし、領主をしているくらいなのだから、問題ないはずだ。
「……イザベラ。彼女は、どこから連れて来たんだ?」
「スラム街だよー。何か今にも死にそうな感じだったから、パンを与えた後、ご主人様のお屋敷に連れてきて、お風呂に入れたんだー」
「そ、そうか」
背後でニコニコしているイザベラに尋ねてみたが、今朝言っていた「拾った」というのは、そういう意味か。
普通に歩いていた少女を無理矢理攫ってきたのかと思ったけど、ギリギリセーフ……なのか?
TEでは、主人公たち聖王国の騎士隊が敵国を倒していき、後半から魔王軍との戦いになるのだが、他の国の文化や風習などは描かれないからな。
このアルフが治める街に、スラム街がある事すら知らなかったしさ。
「さて……じゃあ、行ってくるよ」
「うん。私も行くー!」
「ひ、一人で……いや、何でもない」
将来魔王になるイザベラから離れて、一人で辺境へ行きたかったのだが、物凄く暗い表情になったので、とりあえず一緒に行く事にした。
また変に暴走して、俺の為……と言って、行動を制限されたら困るからな。
「あれ? ご主人様。馬車で行かないの?」
「え? 逃亡……こほん。き、今日は馬に乗りたい気分なんだ」
い、言えない。逃亡先を探しに行くから、目立つ馬車では移動したくない……なんて。
とりあえずTEに登場しない、戦火に巻き込まれないような名もなき辺境で、不便でも良いから自給自足で暮らしていけるのどかな村を探そう。
イザベラに案内してもらい、馬屋から大人しい馬を選ぶと、屋敷の裏門から出発した。
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