第2話 奴隷商人を辞めてモブになりたい

「ご主人様ぁ? ぼーっとして、どうかしたのー?」


 TEの裏ボスに転生している事に気付いて茫然としていると、イザベラが近付いてきて、不思議そうに小首を傾げる。

 とりあえずイザベラは、胸が強調されまくっているその服を何とかしてくれないだろうか。


「……イザベラ。悪いが俺の名前を言ってくれないか?」

「え? アルフ・バッテン様だよ?」

「うーん、やっぱりかぁ。でも、実は同姓同名とか……」

「ご主人様は世界に数人しかいない外道魔法の使い手で、奴隷商人として財を築き、二十五歳という若さでこの街の領主となった凄い人で、私の事を愛してる……他にもまだ、ご主人様のお話が必要ー?」


 そう言って、イザベラが「まだ寝ぼけているの?」とでも言いたげに見つめてくる。

 しかし……やっぱり俺は、本当にあのアルフなのか。イザベラが言った事は、TEの設定とも合っているし。

 ただ、アルフがイザベラの事を愛しているかどうかは知らないけど。


「こ、細かい説明まで、ありがとう」

「えへへー。ご主人様に褒められたー」


 そう言って、イザベラが嬉しそうに微笑むのだが、アルフがユーザーから嫌われている理由の一つがこれだったりする。

 というのも、イザベラは古代の魔法王国の末裔で、本来ならばTEの主人公サイドで強力な仲間として活躍するはずなのだが、アルフが隷属魔法を使い、自身の奴隷にしてしまった。

 その結果、イザベラはアルフにそそのかれて魔王の力を得てしまい、本作の主人公たちによって倒されてしまうからだ。

 ……って、ここはTEのゲーム開始前の世界とかじゃないのか! 既にイザベラがめちゃくちゃアルフに服従しているし、愛されてるとか言っているんだが。


「このままではマズいな……もうメインストーリーが始まっている感じだよな」

「ん? ご主人様。何か言った?」

「あー……イザベラ。大変申し訳ないんだが、俺は奴隷商人を辞めようと思うんだ」


 このままだと主人公たちに攻め込まれて、俺は確実に死ぬ。

 なので、クリア後の「元凶の奴隷商人を倒せ」のストーリーが始まらないように、奴隷商人を辞め、何処か辺境の田舎でスローライフを送ろう。

 イザベラの奴隷化も解除して、俺から離れて自由に暮らしてもらえば、更に俺が主人公に攻められる可能性が下がるはずだ!

 よし! 魔王と離れて、田舎でモブ生活だ!

 今後の方針が決まったので、早速イザベラの奴隷化を解除しようとしたのだが、思わぬ所から待ったが掛かる。


「……ヤダ! そんなのヤダ!」

「え? いや、イザベラも俺の奴隷ではなくなって、自由に生きられるんだぞ?」

「私はご主人様のしもべ! ずっとご主人様と一緒だもん!」

「いやいや、俺なんかと一緒にいても碌な事には……」

「ヤダったらヤダっ! ……≪封印≫! 奴隷解放魔法を使用禁止!」


 突然イザベラが何か叫ぶと、俺の身体を紫色の光が包み込む。

 ……そういえば、TEのラスボスって、スキルや魔法を封じてくる嫌な奴だったな。


「……って、何してんの!? イザベラ、今のを解除するんだ!」

「ご主人様が私のご主人様じゃなくなるなんてヤダっ! ≪封印≫! 封印解除魔法を使用禁止……えへへ。これでもう、ご主人様の奴隷解放魔法の封印は解除出来ないもん」


 嘘だろ……イザベラが、自分で自分に封印魔法を使ったんだが。

 TEのラスボス戦でのイザベラは……あ、うん。敵味方関係無しに広範囲魔法連発するヤバい奴だったわ。


「……待った。イザベラは俺の奴隷なんたろ? それなのに、どうして俺に封印魔法を掛けられたんだ? 隷属魔法の効果で、奴隷は術者に危害を加えられないはずなのに」

「私がご主人様に危害なんて加える訳が無いでしょ? ご主人様が、寝ぼけて奴隷を解除するのを防いであげたんですよー。つまり、私はご主人様の為に、良い事をしてあげたんでーす」


 マジか……隷属魔法を掛けられた相手は、絶対に術者へ危害を加えたり、裏切ったり出来ないのだが、イザベラは今のを心の底から俺の為だと思ってやがる。

 え、待って。じゃあ、奴隷化を解除出来ない以上、見た目は良いけど、言動が残念すぎる上に、いずれ魔王に覚醒するイザベラと、俺は生涯一緒に居るって事!?

 つまり裏ボスとして主人公たちからフルボッコされるのか!?

 ならば、イザベラと離れられない代わりに、俺が主人公たちから逃げるんだっ!


「辺境……辺境に行こう。誰も来ないような、ド田舎へ」

「ご主人様、旅行に行くの? うふふ、楽しみー!」


 いや、当然のようにイザベラも着いて来るのかよっ!

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