おまけ『高校声優ラジオ』


白 烏「紡椿白烏と」


かぐ沙「竹詠かぐ沙の」


白烏・かぐ沙「高校声優ラジオ!」


白 烏「みなさん、ハモイオ! 声優の紡椿白烏です!」


かぐ沙「みなさま、はじめまして。声優の竹詠かぐ沙です……ところで紡椿さん、今のハモイオというのは?」


白 烏「『はじめまして、もしくはいつも応援ありがとう!』の略じゃん」


かぐ沙「……そう、なのね」


白 烏「この番組は日本ではじめて声優科の設置された高校で、偶然にも同じクラスの私たちプロの声優の二人が、これからどしどし新しい才能がやってくるこの業界で先輩としての威厳を保っていくため、様々なチャレンジをやっていこうというていの番組です」


かぐ沙「…………」


白 烏「ほらほらバブマロ、喋って喋って!」


かぐ沙「え? 台本には何もないけど──あと、ここでもその名前で呼ばれるの?」


白 烏「じゃあ今回だけカグツチで、来週からはバブマロね」


かぐ沙「ラジオを聴いてくれている方の大半は何のことだか理解できていないと思うのだけど」


白 烏「それがラジオのいいところだよ」


かぐ沙「寛大なのね、ラジオは」


白 烏「それで冒頭でもお伝えしたように、なんと私たち、同じ学校でクラスも同じで、それから部──」


かぐ沙「ちょっと待って、そこまでプライバシーを公開しなければいけないの?」


白 烏「別にいいじゃん」


かぐ沙「よくありません」


白 烏「照れ屋さんだなあ」


かぐ沙「照れてません。台本を進めてもいい?」


白 烏「OK」


かぐ沙「ラジオをお聴きのみなさまもご存じの通り、今年からいわゆる芸能法が施行され、全ての人たちに芸道への門戸が開かれました。それは私たちの所属するこの声優業界も同じです」


白 烏「容赦なく牙をむいてくる新人さんたちに負けないよう、毎週いろんなチャレンジをやっていくよ」


かぐ沙「他にも高校生だからできる企画やコーナーなども準備中です」


白 烏「私たち二人にやってほしいこと、喋ってほしいこととか、おハガキやFAX待ってるからね」


かぐ沙「さてそれでは記念すべき第一回目はこんなチャレンジをやっていきたいと思います──『十分間、略語禁止でフリートーク』」


白 烏「え!」


かぐ沙「みなさまもよくご存じの通り、こちらにいらっしゃいます紡椿白烏さんは非常に言葉を省略することに長けておられます。しかし私たち声優は言葉を扱うのが仕事。その一つ一つに常に丁寧でありたいものです」


白 烏「これから略語使っちゃダメなの?」


かぐ沙「そうです」


白 烏「そんなの私マシンじゃん!」


かぐ沙「マシン? 機械?」


白 烏「『マジ死んじゃう』の略だよ」


かぐ沙「生命への執着がなさすぎる……まあつまり、これから十分間はそういう言葉は使わないで喋ってもらいます。違反すれば罰ゲームが待っているそうです。もちろんこれは紡椿さんだけではなく、私にも適用されています。それから十秒以上黙ってしまった場合も罰ゲームだそうです──それでは、スタート」


白 烏「……ええ、なに話そうか」


かぐ沙「そういえば紡椿さん、今度料理の腕をふるってくれると言って、昨日もたくさん食材を買っていたみたいだけど、あれは何の材料なの?」


白 烏「お、いい質問だねカグツチ。あれはねえ、私特製のペペロンチーノだよ」


 紡椿、アウト──!


白 烏「え? 今のなに? アイの声だったよね?」


かぐ沙「このように、略語を喋ってしまうと警告のメッセージが流れます。ちなみに今の素敵な声は同じ声優科のクラスメイト、愛々愛与さんに協力してもらいました」


白 烏「私、略語なんて喋ってないよ!」


かぐ沙「ペペロンチーノ、正式にはパスタ・アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノなので、ペペロンチーノだけでは立派な略語です」


白 烏「そんなの誰も知らないよ!」


かぐ沙「私は知ってます」


白 烏「うそだ! 今そこで作家さんに耳打ちしてもらってたじゃん!」


かぐ沙「それでは罰ゲームお願いします」


白 烏「え、なにそれ、なにそれ」


かぐ沙「あなたもよく知ってるデザートでしょ」


白 烏「知ってるけど、普通はそんな色してないでしょ。自然界にはない色だよ、それ」


かぐ沙「特製の漢方薬がたっぷり入って健康にいいそうですよ」


白 烏「刺激臭がすごいっていうか、この距離からでも目が痛いんだけど──」


かぐ沙「とりあえず、スプーンで一口食べてください」


白 烏「じゃあ……あーん………………☆〆§※↑↑↓↓←→←→♂♀!!!」


かぐ沙「……おいしい、ですか?」


白 烏「おいしいわけないじゃん、なにこのソフトクリーム」


 紡椿、アウト──!


白 烏「え? 私、何か略した?」


かぐ沙「ソフトクリーム、正式にはソフトサーブクリームなので略語です。ちなみにソフトクリームは和製英語で一般的にはソフトサーブと呼ばれているそうです」


白 烏「ええー」


かぐ沙「それではもう一口、どうぞ」


白 烏「まあ、食べるけどさあ……ううっ、なんかこう、まばたきがとまらなくて、目からレーザーとか出そう……」


 紡椿、アウト──!


白 烏「はあ?」


かぐ沙「レーザーはライト・アンプリフィケーション・バイ・スティミュレイテッド・エミッション オブ・ラジエーションの頭文字をつなげて作った言葉なのでこれも略語です」


白 烏「それもう、略語とかいう次元じゃなくない?」


かぐ沙「それでは特製のソフトサーブクリームをもう一口召し上がれ」


白 烏「うぅう……ああ……なんか、体がびくんびくんしてきた……ちょっとそこのボールペンかしてもらってもいい? 今度から喋る前に一度紙に書いてチェックして喋るから」


 紡椿、アウト──!


白 烏「え? ああ! ちょっと待って今のなし! もう一度言い直していい?」


かぐ沙「──はい、スタッフさんからやり直しの許可がおりましたので、言い直してください」


白 烏「そこのボールペンシルかしてもらってもいい?」


 紡椿、アウト──!


白 烏「ええ! なんで?」


かぐ沙「ボールペン。正確にはボールポイントペンです。ちなみにシャーペンはエバーレディーシャープペンシルの略です」


白 烏「……なんだろう、これ食べてると、だんだん気持ちよくなってきた……」


かぐ沙「ここでちょっと休憩の時間みたいです。スポンサー様から果物の差し入れがあるみたいですよ」


白 烏「わあ、おいしそう! 食べてもいいの?」


かぐ沙「もちろんです」


白 烏「私、大好きなんだよね、マスカット」


 紡椿、アウト──!


白 烏「はいい?」


かぐ沙「マスカット。正式名称はマスカット・オブ・アレキサンドリア」


白 烏「マスカットってそんな偉そうな名前してるの?」


かぐ沙「そうです。では、ソフトサーブクリームをどうぞ」


白 烏「こんなの罠じゃん……うぅ、どうしよう、ちょっとこの味、クセになってきた」


かぐ沙「──はい。ではこのくらいで。初回放送ということで今回はスタッフの方が考えて下さったのですが、このコーナーもリスナーのみなさまからのアイデアを募集しています。私たちがプロとしてより高みを目指せるようなチャレンジを──」


 竹詠、アウト──!


かぐ沙「え? というか、どうして私のメッセージは恋芽さんの声なの?」


白 烏「はいアウト──! プロはプロフェッショナルの略ですよ。そんなこともわからないんですか、竹詠かぐ沙ともあろうお方が!」


かぐ沙「あ、ああ──」


白 烏「それじゃあ、かぐ沙ちゃん、ソフトサーブクリームのお時間ですよお」


かぐ沙「ちょ、ちょっと待って、こういうのって本当に食べなくても──演技でもいいのよね?」


白 烏「いいわけないじゃん。私はちゃんと食べてたでしょ。それに演技って案外バレバレなんだよ」


かぐ沙「大丈夫よ……私、演技には多少覚えがあるから」


白 烏「往生際悪いよバブマロ──ほら、あーんして、あーん」


かぐ沙「お願いだから待って、それ本当に刺激臭で目が痛いんだけど」


白 烏「大丈夫、大丈夫。痛いのは最初だけで、だんだん気持ちよくなるから」


かぐ沙「それ、デザートをすすめるときに使うような言葉じゃないでしょ、お願いだから、いや……いや──」


 以上が、後に伝説の番組と語り継がれることとなる『紡椿白烏と竹詠かぐ沙の高校声優ラジオ』の初回放送前半パートである。

 伝説呼ばわりされる発端となったできごとは後半に訪れるのだが、それはまたの機会にでも。

 なお、このラジオを収録した翌日の二人は漢方薬効果で、すこぶる体調が絶好調であったという。

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