第八話

「……はい?」

 相手の言葉は全て理解できているのに、何を言っているのか全く解らない。

 薙寅なとら副会長は窓際に置いていたハードカバーの本を手に取り、それを開いて、中に挟んでいた一枚の写真を抜き出して、恋守に見せた。

 微かに色褪いろあせたポラロイド。そこに写っているのはベッドの上で上半身を起こし、ハードカバーの本を手にしている少女。肩に届くくらいの黒髪。それはちょうど、目の前にいる副会長をそのまま幼くしたようにも見える。

 おそらく、この少女が副会長の妹なのだろう。

「その、どういうことですか?」恋守は慎重に慎重を重ねる。「妹さんを、天国に、とか」

「驚かせるような言い方をしてごめんね、もっと言葉を選ぶべきだったかも」

 ぜひそうしてほしかったです、と胸の中で相づちを打つ。

「この子は私の妹で美馬みまっていうの。美しい馬と書いて、美馬。午年うまどしに生まれたからってだけの理由で両親がつけたんだけど、でもいい名前でしょ?」

「はい」

「この子、もうすぐ死ぬの」

 言葉を選んでくれるんじゃなかったのか、それとも選んでそれなのか。

「……ええっと」

 大声を上げて、外にいる愛与に助けを求めたくなる衝動を何とか抑える。

「あっ、ごめんなさい、また言い方がよくなかったわね。うちの妹、生まれつき体が弱くて、たぶん長くは生きられないって言われてて、それでもまだ生きてくれているし、姉としても、ちょっとでも元気になってほしいって願っているの」

「妹さん、おいくつなんですか?」

「もうすぐ十歳になるわ」

「それで、その……」ポラロイドの少女を見ながら恋守は訊く。「妹さんのことと私にどういう関係が?」

「この子の持ってる本、知ってる?」

 薙寅副会長は写真の中の少女が手にしているハードカバーを指さす。

 はっきりと見えないけど、記憶にないデザインだったので、恋守は首を横に振る。

「これと同じ本がこれなの」

 そう言って、手にしていたハードカバーを掲げる。

『テーラー・ジェントル』と踊るようなフォントで印字されたタイトルの下に、服で囲まれた場所で何か作業をしている白髪の男性のイラストが描かれていた。

 はじめて見るタイトル。イラストに見覚えもなく、やはり知らない本だった。

「その本がどうしたんですか?」

「この本にはつづきがあって、私も妹も、どうしてもそれが読みたいの」

「どうして読めないんですか?」

「この本の作者は、ジャック・キャメロンっていうんだけど──」

 聞き覚えのある名前だけど、すぐに思い出せない。

 考えが顔に出ていたのか、薙寅副会長は、こう付け加えた。

「アルバート・アルメイダシリーズと同じ作者ね」

「ああ──」そこにつながるんですねと、恋守は、やんわりと納得する。

「続編があるのにどうしていつまで経っても出ないんだろうって思っていたら、続編には朗読CDがついてくるらしくて、でも日本版は主人公の仕立屋の役を演じる予定だった一云一さんていう声優さんが亡くなったから、原作者が納得する声優が出てくるまで本は発売されないらしくて、なにそれ意味がわからないって──」受け入れがたい理不尽を冷笑でごまかすような表情。「だから、恋芽さんが一さんの後継者になってくれたら、本も発売されるのかなって」そこに希望の光がさす。

「あの、いくつかお訊ねしたいことがあるんですけど、いいですか?」

「ええ、何でも訊いて」

「どう言えばいいのかわからないんですけど、その、妹さんの余命みたいなのは、わかっているんですか?」

 薙寅副会長は小さく首を横に振る。

「わからない。もしかしたら今日かもしれない。いつお別れがきてもおかしくないって言われていたけど、まだちゃんと生きてるわ。私がこの学校に転校するまでは持たないって言われてたこともあったけど、でも、妹はしっかり生きてくれているの」噛みしめるように告げる。

「副会長はこの学校に転校してきたんですか?」

「ええ、去年の秋に東京の学校からね。それがどうかした?」

「いえ、なんでもないです」この次に言う言葉を切り出しにくくて、会話を遠回りさせていた。「それでこれは仮に、仮にの話なんですけど、仮に私が一云一さんの跡を継ぐとして、その本が発売されることになったとしても──」

 出版についての知識など何一つ持ちあわせていないけれど、わかりました、では二十四時間以内に書店に並べます、という流れにはならないことくらいわかる。

「本が発売されることになったとしても、そのとき妹が生きてる可能性が低いから、意味はあるのか? って訊きたいのね」

「……まあ、はい」

「それなら大丈夫よ」

「どういうことですか?」

「私が読むから」

 目を細め、思考を巡らせ、副会長の言葉の真意を探ろうとした。

「──副会長が?」それが何の解決になるというのだろう。

 薙寅副会長は言う。「私と妹はね、つながってるの」

「──?」

「妹は、もう自分で本を読むことができないの」

「────」数秒間、恋守の思考と呼吸はとまる。

 副会長の妹さんの病状についていくつかの憶測が浮かぶけれど、それを訊ねる気持ちにはならなかった。

「だから家に帰ると、私が本を読み聞かせてる」

「……そうなんですか」

「正直、妹もこの本のつづきが読める日がくることはないって覚悟はしていたみたいなんだけど──」花が太陽の方角を向くように、薙寅副会長は恋守を見つめる。「恋芽さんがあらわれてくれた。だから、希望を持ってしまった」

 恋守は薙寅副会長から目をそらすように、自分の右肩を見た。そこには何もないはずなのに、不自然な重さを感じる。

「もし恋芽さんが一さんの後継者になって、この本の続編が出版されるとわかったら、例え妹が生きている内に読むことができなくても、いつか私がそれを読んで、それを心で妹に聞かせてあげることができる。だから恋芽さんは私たちの──」

 ふらっと糸が切れたみたいに、薙寅副会長の体は前方に崩れる。

「どうしました?」

「ごめんなさい、ちょっと目眩めまいがしただけ……」明らかに声が弱っていた。

「副会長も、あまり体調がよくないんですか?」こんな天気のいい日にわざわざ保健室のベッドにいる人に向かって、今さら何を言っているんだと、恋守は発言を後悔した。

「……そうね、たぶん、こういうところも妹とつながっているのね」

 肌のつやも血色も良好で、健康そうに見える。

 だけど、声は苦しそうだった。

「……私は読んだことないですけど、その本、そんなに面白いんですか?」

 何か気晴らしになるような話題を選んで、恋守は訊いてみた。

「ええ。この本のおかげで、私と妹は世界を好きになれたの」

「世界?」急に大きくなる話の主語に恋守は戸惑う。

「本に興味のなかった私たちを本好きにしてくれた。この物語の舞台やテーマである洋服やファッションも好きになった。街を歩くだけでわくわくするようになった。道行く人たちの着ている服を見て、その人たちの人生にどんな物語があるのか想像するのが楽しくて、それが生きる喜びにつながった」

「なるほど」

 誰かの命にかかわる話題でなければ、ちょっとその本お借りしていいですかと言って、しばらく読書をしたい気持ちになった。

 自分のじくとなるような作品との出会い。それは恋守にはまだ未経験のものだった。

 人生のしるべとなった作品につづきがあると知れば、当然それは何としてでも手に入れたいだろう。不当な理由でそれを楽しめないとわかれば、きっとやるせないだろう。しかし、それを開放できる誰かが現れたとしたら、その誰かに力をかしてほしいと迷わず懇願こんがんするだろう。

 薙寅副会長がやっているのは、つまり、そういうことなのだ。

 誰かを深い悲しみから、自分だけが救うことができる。

 そんな物語の主人公みたいな場面に遭遇すれば、勇敢に立ち上がる。

 幼いころ、そんな空想によくふけっていた。

 空想の中の自分は万能で、いともたやすく事態を解決に導き、人々から称賛を受けていた。

 これはその、空想のように簡単なことなのだ。

 昨日、祥子さちこ専務からもらった名刺に書いてあった番号に電話して、伝説的な男性声優の跡を継ぎますと言えばいいだけなのだから。

 そうすればよくわからない決まりで日本での流通がとめられていた数々の名作が世に出て、みんな笑顔になる。

 例え何年かけても叶えてみせると決意した声優への道も開ける。

 祥子専務は約束してくれた。

 半年後には日本中のテレビから自分の声が聞こえるようになると。

 いくらなんでもそんなうまい話あるわけないだろ、と空想からも鼻で笑われるようなできごとが現実に起こっている。

 それなのに、ちっとも喜べないのはどうしてだろう。

「だから本当にありがとう、恋芽さん」まっすぐな、感謝の言葉。

 妹さんには申し訳ありませんけど、私は一云一さんを継ぐ気はありません。

 と、校庭の桜の開花具合でも語る感覚で伝えられたらどんなに楽だろう。

 幼い少女の願いを踏みにじる人でなしと思われるのがこわい。

 声優科に入っておいて声優になりたくないのかと糾弾きゅうだんされるのもいやだ。

 どうしてこんなことになってしまっているのだろう。

 いくつもの言葉や感情が洗濯機に入れたみたいにぐるぐるまわる。ポケットの中の紙に気づけなくて、頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。

「あの、今は困ります」

 外が騒がしい。

「でもここにいるんでしょ? 大丈夫、すぐ済むから」

 聞き覚えのある聞きやすい声の持ち主が、扉を開けた。

「こがしこ、発見!」

 紡椿白烏だ。

「紡椿さん?」

「紡椿さんなんてタニギョーじゃん、こがしこ」白烏は顔をしかめる。言葉のニュアンスから推測するに、タニギョーとは他人行儀の略だと思った。「白烏しおって呼んでよ」

「じゃあ……どうしたの? ……白烏」

 ラジオ、アニメ、雑誌。そういえば昨日は白烏の日だったなと思い出す。

「えっとね、谷内っちが職員室まで連れてこいって」

「先生が? 職員室に?」

 教師に職員室に呼ばれて、何か良いことがあるだろうか。ない。きっと、ない。

 思いあたる節といえば、今日、遅刻したことだけれど、特に言及されなかったので、大目に見てもらえたのだと思っていた。そうではなかったのかもしれない。

「あっ、副会長だ」と白烏は薙寅副会長の存在に気づく。自分は副会長のことを知らなかったのに、白烏は既に知っていたようだ。「こんにち!」と微妙に省略した挨拶をする。

「こんにちは」副会長はゆったりと返事をする。

 白烏は言う。「副会長ってさ、ウッキーだよね」

「え?」薙寅副会長は少し困惑する。「うっきー?」

「私、ウッキー、嫌いじゃないよ」と発言した白烏は笑顔だ。

 間違いなく何かの略語であるその言葉について、恋守は思考を巡らす。

 お猿さんの鳴き声を連想させる言葉なので、薙寅副会長は猿に似ていると言いたいのか。しかし、副会長の顔を動物に例えるなら、リスに近い気がした。だとしたら他にはなんだろう。バナナが好きとか、そういうのだろうか。

「おっと、谷内っちになるべく早く連れてこいて言われてるんだった。それじゃ、いこっか、こがしこ」

 白烏は恋守の背後に回り、肩を掴んでくるりと反転させ、体の向きを出口にあわせ、しゅっぱつしんこーと歌い出すように言い放ち、背中を押す。

「あ、あの……とりあえず、今日は失礼します」と首だけ振り返って、恋守は薙寅副会長に別れを告げた。

 心の中の正直な気持ちとしては、難しい課題を先送りできたので、白烏に感謝していた。


「呼び出して、すまない」

 職員室にて。谷内先生の表情は読めないけど、とりあえず、叱られそうな気配はまだない。

「えっと、どういったご用件で?」

 とはいえ、緊張はとけない。

「昨日の件で祥子──はじめプロダクションの専務が謝罪したいと言ってきた。幹部の暴走だそうだが、実際のところはわからん。それでまあ常識的に考えれば向こうがこっちにくるべきなのだが、私が向こうを出禁にしたから、こちらから出向くことにした。放課後、予定がなければ私の車でお前を送ろうと思うのだが、どうだ? 不安なら部屋の中まで私も付き合うが」

「そのことだったんですか」ようやく恋守は安堵する。「それでしたら本当に気にしてないんで、謝るとかそういうのはいいですよ」

「……お前がそういうなら別にかまわないが」

 どことなく不満そうな谷内先生の顔を見て、もしかして先生が祥子専務と会いたかったのかな、と感じた。

 それとは別に、思うところあって、せっかくなのでぶつけてみることにした。

「ところで先生、お訊ねしたいことがあるのですが、いいですか?」

「なんだ?」

「一云一さんがいなくなったことで、一云一さんが関わる予定だった海外の作品のいくつかが日本で発売できなくなってるんですよね?」

「ジャック・キャメロンの作品だな。それがどうした?」

「例えば──例えばなんですけど、仮に、仮に私が一云一さんの後継者になって、私が一云一さんになったとしたら、発売が止まってる作品が元に戻るのって、どれくらいの時間がかかるものなんでしょうか?」

「私は出版社の人間でも、映画業界の関係者でもない。しがないただのボイストレーナーだ。知らんとしか答えようがないことだな。すまん」

 言われて気がついた。能面に笑うコツを訊ねるような場違いな問いだった。

「……すみません、変なこと訊いて。そもそも私が一さんになれるわけないですよね、声がちょっと似てるってだけで……」

「なんだ。今朝のニュース見てないのか?」意外そうに谷内先生はもらす。

「はい?」もちろん恋守は見ていない。その時間はぐっすりと眠っていたから。

「ジャック・キャメロンがお前の声を聞いた感想をニュースのインタビューで答えてたぞ」

「なんて言ってたんですか?」

「愛する日本のファンに作品を届けられる日が近いことを嬉しく思う、そんな感じのことだ」

「そんなことが……」

 己のあずかり知らないうちに進行していく状況に、恋守は暗澹あんたんたる気持ちになっていく。

「それからお前は一つ勘違いをしている」

 谷内先生の言葉に、恋守は首をかしげた。

「お前の声は一さんの声と似てるわけじゃない」

「え?」何か、大きな前提がくつがえされた気がした。「そうなんですか?」

 そうだ、と谷内先生は首肯する。

「まあ、それについては追々おいおい話すとして、それとは別に、お前に二つ、アドバイスがある」

 おもむろに、谷内先生はそんなことを口にした。

「なんですか?」

「『誰かのために』ってやつは勇気にも呪いにもなる。あまり背負って自分を追い込むな」

 ズキっと肩に軽い衝撃が走る。「聞いてたんですか?」保健室での一件を。

「何も聞いちゃいないよ。ただお前の様子を見ればなんとなく想像はつく。文芸科や映像科の生徒がお前に期待してるみたいな話は小耳に挟んでるしな」言いながら腕を組む。「自分にしかできないことで誰かを助けられるのは名誉なことだが、それは義務じゃないし、自分を犠牲にしてまですることでもない。困難に立ち向かうことが必ずしも美徳とも思わない。少なくとも私はな。まあ、決めるのはお前だが話し相手がほしいときは相談にのる。話すだけで、あっさりと整理がつくなんてことは案外あるもんだぞ」

 その言葉とそのあたたかさに、なんだか救われた気持ちになる。

 やっぱりこの先生、いい人だ。

「ありがとうございます。それで、もう一つのアドバイスというのは?」

「ああ、そのことだが──」どこかでツマミを調節したみたいに谷内先生の声の温度が下がる。「昨日いろいろあったから大目に見てやったが、また遅刻したら次からは減点だからな」

「……はい」

 恋守はきもめいじた。


 夕食をとったあと部屋に戻ると、恋守は代筆の作業をはじめた。

 およそ一時間が経過して、ちらりと愛与のいる方に目をやる。

 床に正座をして、自分の前に人気声優雑誌、声優レビューを開いて置いている。そして手にテレビのリモコンを持って何やら操作をしていた。

 一体なにをしているのかわからないけれど、これはチャンスだと、ある人に書いた手紙を、代筆の完了した手紙たちと一緒にダンボールに入れて、しっかりと梱包して、寮の外に出て、時間通りに到着した運送業者に渡す。

 部屋に戻ると相変わらず愛与は雑誌を見ながら、せっせとリモコンを操作していた。

「なにしてるの?」

 愛与は自分の隣に置いていたフカヒレのスイッチを押す。

【録画予約】サメ型カセットプレーヤーから説明を受ける。

「どうやって?」

 愛与からの身振り手振り、筆談とフカヒレを用いた解説によると、以下のことが判明した。

 声優レビューには向こう一ヶ月間のアニメや声優の出演する放送を紹介することに特化した番組表がもうけられており、それぞれの番組の番組コードも記載されているのだという。

 番組コードとは基本的に八桁の数字の羅列であり、それに対応しているビデオ機器などにその数字を入力するだけで、簡単にお目当ての放送を録画予約してくれるというシステムだ。

 これによって、これまでのように一つの番組を録画予約するために、何度も何度もリモコンを操作する気の遠くなるような作業を強いられなくて済むのだ。

 幸運なことに、恋守と愛与の部屋にあるビデオ内蔵型テレビは番組コードに対応していた。

「へえ」いぶし銀な声で感慨深い声を上げる。「便利な世の中になったねえ」

《恋守は、何か見たい番組ある?》

 と愛与が文章で訊いてきたので、番組表を吟味ぎんみする。

「あ、日曜日に桜名詩織おうなしおりさんの番組がある。私、この人好き!」

 その名前は愛与も知っている。いくつものアニメでヒロインを演じている今を代表する人気声優の一人。やっぱり、ああいう声に憧れているんだな、と思った。

《じゃあ予約しとくね》愛与はコードを入力する。

「ありがとう、アイアイ」恋守は、にっこり笑う。

 声優の番組の録画は、あくまで副次的ふくじてきなことだ。

 愛与の目的は深夜アニメを録画することである。

 できることなら放送開始と同時刻に見たいけれど、そうすれば遅刻はまぬがれない。だから録画して時間のあるときに視聴することを考えたのだ。夜はよく寝るべきなのだ。

 そうして一ヶ月分の深夜アニメと気になる声優の出演作品の予約を完了させ、恋守と愛与は夜の十時にベッドに入る。


 そこはかとない音と光に目を覚ますと、暗い部屋でテレビがつけられていた。

 ブラウン管の中では正義のロボットと悪のロボットが戦っている。

 わざわざ録画予約しているものをどうして。

 眠れないから恋守が見ているのかと愛与は思ったものの「あれ? アイアイ、アニメ見てるの?」と、上のベッドから声がする。

 どういう理由かわからないけれど、勝手にテレビがついていたらしい。

 部屋の電気をつけて、テレビの上に置いてあった説明書を読んで納得。

 録画予約をすると、その時間になるとテレビのスイッチが自動で入って、番組終了と同時に自動でオフになるのだそうだ。

「なにそれ」と恋守はこぼす。

 愛与も同じ意見だった。理解に苦しむ仕様だ。

 とはいえ故障や怪奇現象の類いではなかったことに安心して、ベッドに戻ろうとする愛与だったが、恋守は床に腰をおろして、正義のロボットの応援をはじめていた。

《知ってる? それ今、録画中なんだよ?》

「知ってるよ。でも今見たいじゃん」

《また寝るのが遅くなっても知らないからね》

「アイアイが起こしてくれるって信じてるから」

 やれやれと愛与はため息をついて、自分はベッドに戻った。

 そしてそこからじっと、アニメの視聴に参加する。

 その結果、当然のように翌日も二人は時間ぎりぎりで体育館に滑り込むのであった。

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