第20話
『アモル星崩壊! 天変地異の原因は? 謎の男との関係に迫る!』
ニュース記事の見出しから、詳細な記事を眺めているのはエイリーンだ。
「未来の超技術か、はたまた現代の超能力戦士か……。古代より蘇りし伝説の英雄に、宇宙の意志の顕現。ほうほう。『
アステラについての考察を、ニヤニヤしながら眺めていた。中には良い線を衝いている物もあったが、そういう物に限って強く否定されているのが面白いようだ。
アモル星の崩壊に関しての連邦からの公式な発表は、特異的な天体現象とされ、アモル側からは、研究中のちょっとした事故だとの説明があった。だが、そんな事を本気で信じている者は、少なくともあの中継を見ていた人間には一人も居なかった。
双方、アモル星の崩壊に関してアステラの罪を問うつもりはなく、軍事衝突まで起こしたセシリアの所有問題については、今後は戦いの場を法廷に移す様だった。双方の管理下に肝心のセシリアが居ない点について、王家は「少しの間家出しているだけだ」と主張し、アモル側も「少しお出かけしているだけ」と、似たような主張を繰り返すのみ。決して誘拐されたなどと認める事はなかった。
「いやはや。面子や立場があるってのも大変だねえ」
その言葉には高い共感性がある反面、今の自分は身軽で助かるという反感も含まれていた。
一通り記事を読み終えるとニュースを閉じる。
「さてと……、二人が帰ってくるまでに済ませちまおう」
エイリーンは腰を上げると、いつもの服から着替えて作業に取り掛かった。
現在ペネトレイト号はアモル星が所属しているアルミラ銀河から大きく離れ、プリオーン王家と連邦政府内で、政治的に対立する国家の二つの内の一つ、その支配宙域にあるキャラバンの一つに身を寄せていた。
アステラがアモル星を真っ二つにしてから標準時で一週間が経ったが、世間は
どの放送局のニュースを見ても、トップニュースにはその話題が出る。
映像では、アステラが剣を振るう姿と星が裂けていく様子が流れ、アステラ・クテナという名前だけが伝えられる。その際ペネトレイト号にも触れられるが、何でも屋で社長兼船長がエイリーンである事だけがさらりと伝えらえる程度。経歴を洗うと直ぐにシスターの施設出身だと分かるので、忖度しているのだろう。アステラに関しては名前くらいしか登録していないので、何処をどう探っても名前しか判明しない。生まれや過去の経歴など一切が不明。そんな突如現れた謎の剣士に、宇宙中の関心が集まっていた。
何か一つでも男に繋がる有力な情報をすっぱ抜ければ、他社を出し抜けると記者たちは躍起になって情報集めに奔走していたが、その成果は
当然その関心は、犯罪者が集まるここ、キャラバンでも同様──いや、居住惑星を破壊するという世紀の大犯罪人に対する関心は、世間の比ではなかった。
そんな注目の的であるアステラは、誰に
観光──ではない。ここに立ち寄ったのは少しほとぼりを冷ます──のでもなく、セシリアが研究に使う素材で、非合法の物を仕入れに来たのだ。
流石にこんな所を一人で行かせる訳にはいかないとアステラが主張し、ならあんたが付いて行きなとエイリーンにお守りを押し付けられた結果がこれだ。
グサグサと視線やら殺気やらが突き刺さって来るの感じ、そしてその全てを無視しながら悠々と歩く。中には怖いもの知らずで近付いて来る馬鹿な輩も居たが、見もせずに沈めた。周囲からは「おお~」と小さく歓声が上がっていたのを、アステラは何だかなあと思いながら背中で聞いていた。
「戻ったぞー」
宙に浮かんで船体に何やら塗装しているエイリーンに声を掛ける。
A&Aだろうか? ポップな色調でカラフルに描かれた文字は、そんな風に見えた。
「おう! おかえりー!」
塗料に塗れたエイリーンが満足気な表情で振り返り、下に降りて来る。
「何だアレ?」
「アレかい? 会社のロゴだよ。ロゴ」
「ロゴ?」
「ふむ。まあ良いんじゃないか。如何にも素人仕事って感じで」
ロゴという物自体が良く分からないアステラ。さして興味のないリアの評価は厳し目だ。
「それはしょうがないだろ、実際素人がやってんだからさ。業者に頼むとこんなんでも結構取られるからねえ。因みにロゴってのはあんたに分かり易く言うなら、そうだねえ……飾り看板みたいなもんかね」
その説明にアステラは「なるほど」と頷き、それとは別の疑問を口にする。
「アモルから撒き上げた金はどうしたんだ」
「あれはもうとっくに使い果たしたよ。リアの研究室改築と研究資材を仕入れたらね」
ぱあだよと、両腕を軽く上げてなくなった事をアピールしている。
「当初の予定通りに、な」
「ああ。当初の予定通りに」
エイリーンとセシリアは二人目を合わせると、互いにニヤリと笑みを浮かべる。
「お前ら……」
セシリアを売った額はそれらに必要な額を算出して決めたのか、と察して呆れるやら感心するやらで、怒る気も失せてしまっていた。
「言ったろ。人を増やすつもりだったって」
「あれ、姫さんの事かよ!」
「姫いうな!」
ゲシっ!
「元々あんたを蘇生したのは用心棒的な? 蘇生する過程でリアが『使える』って言うから方針転換したんだよ。リスクはでかかったが、リターンはそれ以上だったと確信している。お陰で、敏腕美人社長と古代の超人社員と人質天才研究員の会社に進化したわけだ」
「パチパチパチ」
口で言いながら音のない拍手をするセシリア。
「という訳で、新しい会社名は『何でも屋
「姫さんは入れとかなくて良いのかよ」
「そこはまあ、一応人質って体裁だからねえ」
「私は好きに研究できる環境さえあれば、後は何でもいい」
「『今は』それだけでもないんじゃない?」
「──バっ!? そんな事はない!」
「まあ、そういう事にしておこうか」
少し顔を朱くしてそっぽを向くセシリアを、エイリーンはニシシと笑って眺めている。
アステラは我関せずと、荷物を持って先に船内に戻ろうとした。
「アディ。できたー?」
ポンとアステラの前にP助が現れた事で、思わず立ち止まる。
P助はアステラに「あ、おかえりー」と声を掛けると、振り返って船体を確認する。
「出来てるじゃん。いいねいいね。丁度皆も揃ってるし、折角だし記念撮影しとく? しとくよね! はい。並んで並んで」
有無を言わさず三人を船の前に並ばせる。
「うーん……この角度はイマイチ! ちょっとそのまま待っててね!」
宇宙船としては小型に分類されると言ってもそこは宇宙船だ。人間のサイズと比べるとやはりデカい。海上船でならかなりの大型船だ。
良い感じに船とロゴと三人を画角に収めたいP助は、あーでもないこーでもないと飛び回りながら試行錯誤している。
その隙にアステラは、丁度隣で良い位置にあったセシリアの髪に、スッと髪飾りを挿した。
それはアステラがアモル星で
赤とオレンジ、そして青のガーベラを
本当は別れの日に渡すつもりだったのだが、こんな事になったので何となく渡せずじまいになっていたのを、どさくさ紛れに渡す事にしたのだ。
「何だ? 何をした?」
頭に何か付けられた事に気付いたセシリアが、頭をわちゃわちゃと触っている。
「へえ……!」
エイリーンはその髪飾りの出来に、素直に感心していた。
「良く出来てるし、似合ってるじゃん。何処で買って来たんだ?」
「俺が作ったんだよ」
「ああ! あの時か!」
エイリーンは得心し、頭の何かを振り払おうとしていたセシリアの手は、ピタリと止まった。
「何でまた、このタイミングで?」
「記念だからな」
照れ臭さから顔を背けたアステラを眺めるエイリーンの顔は、どうしようもなくニヤけている。そのまま視線をセシリアに転じれば、これまた意地悪心がくすぐられてしまう。
「アステラが、リアのためだけに作ってくれた、宇宙に一つしかないプレゼントだな。いやー良かったなー、リア」
所々強調しながら、再確認させるようにエイリーンはセシリアに語り掛ける。
何かを隠すように俯いたセシリアの肩は、プルプルと震えていた。
耳まで赤くなってるのを黙っている程度の優しは持ち合わせていた。
「よーし! 撮るよー!」
良い位置を見つけ出したP助が三人に声を掛ける。
「あいよー!」
エイリーンがP助に応えると同時に、セシリアをちょいっとアステラの方へ押し出す。
「わっ!」「おっ」
よろめいたセシリアは思わずアステラに抱き付いた。
ピピピ。
そのタイミングで撮影音が響く。
「おっけー!」
「オッケーじゃない! 待て! やり直しを要求するー!」
「どれどれ」
「うー!」
エイリーンがP助に詰め寄ろうとするセシリアを抑えながら、P助が表示した画像データを見る。
「うんうん。バッチリだね」
「でしょー!」
「へー。俺にも見せてくれよ」
「わー! 見るな見るな!」
「ちょいと待ちな」
エイリーンはサラサラと手早く画像データに何かを書き込むと、アステラに投げ渡した。
「ああ……。はは。これは良い。これは良いな……」
画像を見詰めるアステラは、自然と優しい笑みを浮かべていた。
画像には楽し気に笑うエイリーンと、少し驚いた表情のアステラ。恥ずかし気にアステラを見上げるセシリア。そしてメッセージが一言添えられていた。
『ようそこ! A&Aへ!』
A&A ー萬相談承り〼ー はまだない @mayomusou
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