第三話みっつめ、しるすこと 「銭金の工面に悩む内、行事催事多き夏を企てるに就いて記す事」 其の十 精介の皆の麻久佐行きに混じるに就いて記す事

第三話みっつめ、しるすこと

「銭金の工面に悩む内、行事催事多き夏を企てるに就いて記す事」

 「其の十 精介の皆の麻久佐行きに混じるに就いて記す事」


 六畳程の広さの板の間の壁には神棚が設えられており、浅右衛門はその前で軽く柏手を打つと床の上へと腰を下ろした。

 結三郎達も親方に倣い柏手を打ち軽く頭を下げてから腰を下ろした。

 浅右衛門の正面に親方は神妙な顔付で腰を下ろした。

 親方から少し離れた場所へと結三郎と祥之助は座り、成り行きを見守る事にした。

「全く馬鹿者めが。齢六十にもなりながら、己一人で叱られに来る事も出来んのか。島津様まで巻き込みおって。」

 全て自分の責任である事は充分に承知していたので、浅右衛門の叱責の言葉に親方はただ頭を下げて聞き入るしかなかった。

 早くに朝渦家なり誰か縁者なりに相談したり、助けを求めたりしていれば春乃渦部屋がここまで困窮する事も無かったし、それによって何よりも弟子達――特に、部屋を辞めてしまった弟子達に対してきちんとした責任を持つ事が出来ず迷惑を掛けてしまった――。

 先月の夏祭りの終わった後で親方が浅右衛門のところに挨拶に来た時に、改めて指摘され反省を強く促された事だった。

「――で。広保殿は、本日は如何なる用向きなのかのう。」

 浅右衛門の厳しい視線と敢えての言葉を浴びて、緊張に冷や汗を流して俯いていた親方は、暫くの後に決然と顔を上げ口を開いた。

「此度は……杜佐藩邸への出稽古のお願いを致したくまかり越しました。今更となってしまいましたが、何卒……。」

 厳しく睨み付ける浅右衛門へと真っ直ぐに顔を向けると、再び親方は深く頭を下げた。

「うむ良い心掛けじゃ……。――此度の事で、自分一人で頑張るというのも度が過ぎれば皆にとんでもない迷惑を掛けてしまうし、己自身の為にもならぬと、お前もよう判った様じゃしのう……。」

 広保親方を厳しく睨み付けながらも浅右衛門の眼差しには、温かいものが混じっていた。

「――まあ、偉そうな事を言うてしもうたが、朝渦の家の連中は皆似たり寄ったりじゃからのう……。儂も七十を過ぎてからその辺りの事がやっと判ったところじゃし。」

 本気とも謙遜とも付かない事を言いながら今年八十五歳の浅右衛門は苦笑いを浮かべた。

「まあ島津様も居る事じゃし、小言も今更じゃから、これで勘弁してやるわ。――出稽古は勿論構わぬ。藩の力士達と区別せんと鍛えまくってやるわい。」

 そう言って明るく笑いながら浅右衛門は立ち上がり、神棚の下の文机に置いていた用紙を手に取った。

「今月と来月の予定表じゃ。外部の者達の受け入れ可能な日に丸印を付けとるじゃろう。お前等が来れる日を書き入れて後日持って来い。」

 受け取った親方が予定表を広げると、週の内二日程が出稽古の者達の受け入れ可能な日となっており、どの日に何処の相撲部屋や藩の者達がやって来るかという事が記入されていた。

 先月の夏祭りの時に対戦した科之川部屋の名前もそこにはあった。

「はい。明日にでも持って参ります。」

 意気込んだ様子の親方の表情に、浅右衛門も満足気に頷いた。

「儂直々に稽古も付けてやるつもりじゃが、今週来週は少し忙しくてのう……。」

「あー、藤枝原村の準備とかあるもんなー。大変だ。」

 浅右衛門の言葉に祥之助が他人事の調子で頷いた。

「祥之助様……。」

 浅右衛門が渋面を作って他人事な調子の祥之助を睨み、溜息をついた。それから親方の方へ向き直ると、

「儂からの本格的な稽古は再来週からになるが、他の指南役達にも、春乃渦部屋の稽古は厳しくする様に言っておく。それと、お前も来れる時には来い。指導する側の勉強も教えてやる。」

「は、はい! よろしくお願い致します!」

 弟子達だけでなく自分自身も「出稽古」を行なう事となった事に、親方は背筋を伸ばし気持ちを新たにした。

「あー、教える方の勉強な……。」

 浅右衛門と親方の遣り取りを見ながら、傍らで祥之助が春乃渦部屋の手伝いに行っていた先月の事を思い出していた。

 ――祥之助様、教え下手な者は却って害悪ですぞ!

 浅右衛門はそう言って春乃渦部屋の者達の為に、取り急ぎの指導ではあったが祥之助に稽古を指導する側の注意事項等を教えたのだった。

「何、活動写真の帰りに離宮殿の図書館で相撲に関する書物を探しておったら、「スポオツ指導者心得」とか「コォチング基礎」やら「スポオツ選手カウンセリングいろは」とかいうものを見つけてのう。実に為になる本で、指南役達と勉強しておる最中でな。お前にも読ませてやりとうてのう。」

 浅右衛門はそう言って親方へと笑い掛けた。

 そう言えば、先月の相撲大会の終わった翌日に祥之助を迎えに来た浅右衛門と会った時に、証宮離宮殿図書館で相撲の書物を探すのも面白そうだと言っていた事を結三郎は思い出していた。

 昔の佐津摩の武力至上主義とまではいかずとも、頒明解化の今もまだ、炎天下でも鍛え続けろ、兎に角休むな動け、と言う様な指導方法は根強く残っていた。そんな中でいち早く新しい知識を手に入れて活かそうという、高齢でありながらも柔軟で貪欲な浅右衛門の姿勢に結三郎は感心していた。

「さて。話も終わった事じゃし、さっさと帰れ。腹も減ったしのう。」

 浅右衛門は親方にそう言うと追い払うかの様に軽く手を振った。

「あ、申し訳ありません。それで私の方の用事なんですが。」

 帰るべく立ち上がろうとしていた浅右衛門を結三郎は慌てて押し留めた。

「おや。本当に御用事があったのでしたか。てっきり広保を庇う方便かと。これはとんだ失礼を……。」

 浅右衛門は謝り、また腰を据え直した。

 結三郎は話を聞いてもらえそうな事にほっと息をつき、説明を始めた。

「書類の写し等は照応寺に置いて来てしまったのですが、来月末に照応寺等の寺社を会場にして出張博物苑という夏祭りの様なものを開催するのです。」

「ほうほう。」

 博物苑の夏祭りと言う事で浅右衛門は興味を惹かれ、目を輝かせ始めた。

「その企画の一つで、蓑師摩寺で藩対抗の相撲大会も開きます。正式なお願いの話はまた後日、佐津摩藩から杜佐藩の方にあると思いますが、出来れば杜佐藩の皆様にも出ていただければと思いまして……。」

「成程……。それは面白そうですなあ。」

 結三郎の話を聞き、浅右衛門は楽しそうに頷いた。

「見世物相撲とか余興の相撲もあるみたいだけど、藩対抗の本気の対戦もあるらしいからな。」

 横から祥之助の言葉が挟まれ、浅右衛門の表情と口調に鋭いものが混じった。

「成程! 何とも面白そうですなあ……!」

 文字通りの命懸けで正々堂々相撲の勝負を行なう杜佐の相撲取りに相応しい、身体の芯から熱く滾る気迫が早くも立ち昇っていた。

「殿の許可が下りれば現場の儂等としては異存はござらん。いや、杜佐藩の殿とあろう御方が相撲の勝負に招かれて否やの返事をした事なぞ一度たりとてございませぬ。」

 老いて尚、未だに上位のお抱え力士達を相手取っても短時間であれば勝負を制している総指南役――彼自身は総監督と自称していたが――の熱のこもった言葉と表情だった。

 今正に結三郎と本気の試合でも始めそうな浅右衛門の勢いに、結三郎もまた楽し気に睨み返した。結三郎もまた、佐津摩の益荒男ひしめくお抱え力士達の一員であり、試合を心底楽しみにしている老力士の熱意につられてしまっていた。

「当日を楽しみにしております。」

「うむ。宜しく頼みましたぞ。」

 臆する事無く言い放った結三郎を浅右衛門は心底楽しそうに笑いながら見つめていた。



 無事に話も終わり、結三郎と祥之助、親方の三人は相撲道場を後にした。

 流石に辺りも薄暗くなり始め、蝉の声も少なくなり始めていた。

「腹減ったなー。」

 そろそろ夕飯の時刻でもあると祥之助の腹時計は告げていた様だった。

「お互いしっかり食べて稽古に励まねばな。」

 着流しの上から腹をさすっている祥之助へと結三郎は笑い掛けた。

 程無くして藩邸の正門へと戻り、三人は通用口から外へ出た。

「藤枝原村も一緒に行けたら良かったのになー。」

 通用口の前で祥之助は残念そうに溜息をついた。

「大事な祭礼だろ。物見遊山じゃないぞ。」

 祥之助の言葉に結三郎は相変わらず生真面目な口調で窘めた。

「ああ、そうだな。村祭りの余興と舐めたりせずに、務めを果たしてくる。」

 意外と真面目な祥之助の返事に、予想と違ってしまい一瞬結三郎は呆気に取られてしまっていた。

「随分と前向きになられましたな。」

 親方が感心した様に祥之助を見た。

「まあ……。茂日出公に挑むと決めたからな……。」

 親方の言葉に照れながら、祥之助は逆毛頭を掻きながら目を伏せた。

「下手しなくても目の前に立つ前に勝負ついちまうからなー。せめて取っ組み合いを始められる位には強くならねえとな。」

 先日や今日の茂日出の気配や眼力だけで気絶させられかけた事を思い返し、祥之助は改めて相撲への精進を誓っていた。

「頑張れよ。」

 やる気に満ちた祥之助の様子を喜び、結三郎は短くそう言うと祥之助の肩を叩いた。

「おう!」

 祥之助も短く答えて笑い、結三郎の肩を叩き返した。 

 そうして祥之助に見送られ、結三郎と親方は杜佐藩邸を後にした。

 少し歩くとすぐに高縄屋敷の門が見え、親方とも別れる事となった。

「島津様、本日は真に御世話になりました。」

 親方もまた浅右衛門に出稽古を頼むという自身にとっての一つの山を越えた事で、何処かすっきりとして落ち着いた表情をしていた。

 これで春乃渦部屋の者達もより質の高い稽古を行なう事が出来るだろうと、結三郎は親方達が良い方向に向かい始めた事を喜んだ。

「いえ、こちらこそ有難うございました。」

 互いに挨拶を交わすと、結三郎は屋敷の中へと戻っていった。

 結三郎が奥苑の大広間へと戻ると、円卓の前に腰を下ろし何人かの鳥飼部達と仕事をしている茂日出の姿があった。

「おお戻ったか。ご苦労だったな。」

 結三郎が入ってきた事に気付き、茂日出が笑顔で迎えた。結三郎の報告を待ちわびていた様だった。

 背嚢を下ろしながら茂日出の近くの席に腰を下ろし、結三郎は今日の報告を行なった。

「寺社の皆様や春乃渦部屋、力士長屋の人達からも企画は好評でした。ただやはり具体的に何かして欲しいとか、こうしたら良いと言う様な意見はまだ今のところは無かったです。」

 そう報告している内に結三郎はおかみさん達の言っていた事を思い出した。

「――ああ、おかみさん達が自分達の力で賞品が欲しいとの事で、女相撲の大会を提案されました。」

 まだ日之許には余り普及していない野菜や果物、生活用品が賞品で出ると聞いて、おかみさん達が意気込んでいた様子を結三郎は思い出していた。

「うむうむ。女相撲か。やはり色々な者に意見を聞くものじゃな。儂等では思い付かなかったのう。」

 結三郎の話を聞き、茂日出は楽し気に笑いながらもおかみさん達の意見に感心していた。

 相撲の盛んな佐津摩でも女性の参加する相撲は村祭り等の場では無いではなかったが、お抱え力士等の行なう様な、藩に関する所謂正式な場での相撲については男性だけのものだった。

 なので、茂日出や結三郎の視点が偏りがちだった事に茂日出達は今更ながら気付いた様だった。

「女相撲も行なう様に覚書に書き入れておこう。」

 それから照応寺等の寺社に委託販売の本等を置く話も前向きな反応だった事や、杜佐藩邸で総指南役の方に先に出張博物苑の相撲大会の話をしてきた事等を結三郎が報告し終えると茂日出は満足した様に頷いた。

「うむ。これで企画書を清書して、実際の作業に移ろう。もう一カ月しかないからのう。」

 今日の内に修正、清書され、恐らくは明日には実際の作業に取り掛かるのではないか――。今までの様子からすると、それ位の速さで事を進めそうな気が結三郎はしていた。

 そんな結三郎の表情を読み取ったらしい近くに居た鳥飼部――磯脇が眉間から禿頭の上の方まで皺を寄せて、げんなりとした表情で結三郎へと口を開いた。

「結三郎様のお考えの通り、既に手配出来る事柄については順次進んでおります。幸い、異世界の事に関する話ではありませんから表苑の者達や、他にも佐津摩本国から上京させたり等して、末端の現場で働いてもらう者達の人手は何とか足りました。後は指示を出したり連絡調整をする我々が無理をするだけです。」

 大勢の人間を適切に取りまとめて物事を行なうというのは案外に難しく、手間の掛かる事だというのは結三郎も知っていたので、磯脇達奥苑の鳥飼部達のこの度の苦労を思うと同情するしかなかった。

「結三郎様も奥苑の鳥飼部の一人ですからね。適宜働いてもらいますからね。」

 いつの間にか結三郎の背後に忍び寄っていた中別府もまた、何処か青い顔色で溜息をついていた。

「あ、ああ……。判った。」

 鳥飼部達の様子に引き攣った笑いを浮かべつつ結三郎は頷いた。

「皆には苦労を掛けるが、塔京の人々の為に、そして博物苑の意義を知らしめる為に宜しく頼むぞ……。」

 茂日出は広間の鳥飼部達を見渡し、改めてそう言って頭を下げた。

 それから結三郎はまだ仕事を続ける茂日出達を後にして、夕食を摂りに食堂に向かう事にした。

「ああ、結三郎様。今日も山尻殿がいらっしゃっています。「紅羊歯の間」で試験勉強をしておられます。」

 大広間を出ようとしていた結三郎の背に鳥飼部の一人から声が掛けられた。

「判った。後で行ってみる。」

 軽く振り返り鳥飼部に礼を言うと広間を出て背嚢を更衣室のロッカーに戻し、空腹を癒す為に食堂へと急いだ。



 食事を終えると結三郎は精介の居る小会議室「紅羊歯の間」へと向かった。

 引き戸を開けて中に入ると、長机の上に教科書やノートを広げて精介が眉間に皺を寄せながら勉強している様子が結三郎の目に入った。

 引き戸が開けられた音で精介は結三郎の姿に気付き、忽ち笑顔になっていた。

「お仕事お疲れ様っす。今日は外回りだったとか。」

「あ、ああ。出張博物苑の事でちょっと照応寺の方まで……。」

 精介に答えながら結三郎は向かい側の椅子に腰掛けた。

「親方や明春さん達変わり無かったすか?」

 まだ一か月程しか経っていなかったが、懐かしそうに精介は彼等の顔を思い浮かべていた。

「ああ。元気に稽古に励んでいたよ。」

 結三郎の方は茂日出との通話の時に緊張や驚きに硬直していた明春達の様子に、少し申し訳なく思った。

「じゃあ私はこれで。明日から試験だろう? 邪魔しても悪いからな。頑張るんだぞ。」

 そう言って結三郎は精介の試験勉強の邪魔にならない様にと席を立とうとした。

「あ、いや、ちょっと! 全然邪魔じゃないっす! というか、お疲れじゃなかったら居て下さい。それにちょっと一休みしようと思ってたんで。」

 精介の方が慌てて腰を浮かし、結三郎を押し留めた。

「あ、うん……。私は構わないが……。」

 精介の勢いに押され、結三郎は再び椅子へと腰を下ろした。

 結三郎が留まってくれた事に精介は喜んだ後、部屋の隅に設置されている中型の木箱の前へと向かった。

「あ、さっき鳥飼部の人が何かハーブティ――薬草茶?みたいなのを持って来てくれたんす。」

 精介が前の扉を開けた縦横一メートル程の大きさの木箱は、奥苑で試作した冷蔵庫だった。

 中の金属板で仕切られた棚に入っていたのは少し大きな茶瓶だった。

「ああ。頂こう。」

 結三郎も立ち、冷蔵庫の上の盆に幾つか置かれていたグラスを二つ手に取った。

「この部屋、冷蔵庫もエアコンもあるんで、あんまり異世界に来たって気がしないんすよね。」

 精介はそう言って笑いながら、長机の上に置かれたグラスに冷えた茶瓶の中身を注いだ。

 鮮やかな赤色の薬草茶は精介の世界で言うところのローズヒップティーの様なものだった。

 二人が向かい合って座り口にした茶は既に蜂蜜も入っており、優しい甘味と爽やかな酸味が口の中へと広がっていった。

 空調が効いているとはいえやはり汗は掻いており、冷えてすっきりとした喉越しによってグラスはすぐに空になってしまっていた。

 休憩のお喋りと言う事で、何とはなしに結三郎が今日の照応寺での話を精介にすると、四日後の麻久佐に活動写真を見に行くという事について精介はひどく不満気な声を上げた。

「ええー! 期末試験最終日にそんな楽しそうなイベントが!? 俺も一緒に行きたいっす!」

 精介の言葉に結三郎は軽く手を上げまあまあと宥めた。

「一緒に行くも何も、試験があるだろ?」

 しかし精介は軽く拳を握り、結三郎を睨む様にして力説した。

「試験は最終日なんでもう勉強する必要も無いし! 学校終わったらすぐにこっちに来ます! 活動写真って何時からっすか!?」

 精介の勢いに押され結三郎は少し困惑しながら、

「そんな気もそぞろな状態で試験に臨んで大丈夫なのか……? 点数が悪いと進学にも困るんじゃないのか?」

 結三郎の心配気な言葉を有難く思いながらも、精介は頭を軽く横に振った。

「大丈夫っす。今回は結三郎さんや鳥飼部の人達と一緒に勉強したお蔭で、結構色々と頭に入ってるんで酷い点にはならない自信があるっす。」

 四日目の期末試験最終日は古文の一科目だけで、そのまま終業式として教室のテレビで校長の短い話を聞いて終了――学校は午前中の早い内に終わり、そこから夏休みに突入、と精介は結三郎へと説明した。

 精介の説明を聞きながら、結三郎は長机の上で水滴まみれになった茶瓶からお代わりのハーブティを自分と精介のグラスへと注いだ。

「判ったが……慌て過ぎて途中で事故なぞ起こすんじゃないぞ。」

 親か兄の様な気持ちと口調で結三郎は精介へと注意をし、軽い溜息をついた。

 ハーブティを一口飲んで、結三郎はそこまでこちらの皆と出掛けたいならば、と、当日の予定を精介へと説明し始めた。

「午前九時頃に力士長屋の所で待ち合わせて、そこから麻久佐に出発だ。おおよそ十二時位には証宮離宮殿に着く筈だから、そこの敷地で弁当を食べてから一時半位に活動写真を見る――と、そんな感じだな。まあ、正確な時計が普及している訳ではないから、時刻はあくまで大雑把な目安だが……。」

「はい……。ん?」

 結三郎の説明に精介は頷き――かけたものの、時刻の説明に違和感があり、知らず首をかしげていた。

 精介の世界の塔京――東京と、町のおおよその配置は似通っているのならば、都内の移動にそこまで時間が掛かるとは精介には思えなかったのだった。

「え? 朝九時待ち合わせで昼十二時に着いて? え?」

 精介はそんな事を呟きながら首をかしげ続けていた。

 グラスのハーブティを飲みながら今度は結三郎が、精介の疑問に思っている様子に首をかしげた。

「ん? そうだが……。」

 結三郎も精介が何に疑問を持っているのか判らなかったが、ふと先日の精介を元の世界に送還した時の神仏や精霊の話をした時の遣り取りを思い出した。

 日之許では神仏や精霊は受肉して現世に実際に出現するが、精介の世界ではそうした事は無いらしい――。

「――あ、お互いに常識が違うのだったな。」

 人種や言葉が似ているのでつい忘れがちだったが、生活環境や物の考え方等は同じという訳ではなかったのだった。

「高縄から麻久佐まで移動するのに時間が結構かかると考えてる……のだな?」

 精介の首をかしげる様子から、結三郎は精介が何に疑問を感じているのかを訊いた。

「あ、はい……。そんな感じっす。」

「あー……。」

 精介の答えに結三郎も納得するものがあった。

 先日の精介の世界で結三郎が見た自転車やバイク、自動車――あの様な乗り物が普及している世界ならば町の移動もさぞかし早い事だろう。

「念の為に訊くが、高縄から麻久佐までどうやって長屋の皆が移動すると思ってた?」

 結三郎からの問いに精介は何の気無しに答えた。

「どうやってって……そりゃあバスか電車……って! あ、そうか。」

 精介の方も答えていて自分で思い当たった様だった。

「バスも電車も無い世界でした……。」

 自分の無知に気が付き、精介は恥ずかしそうに俯いた。

 庶民どころか藩主や――帝でさえも駕籠や人力車、馬車を使うのがせいぜいだった。馬に乗っての移動がこの世界では一番早い手段だったが、帝や藩主の様な高い身分の者は落馬事故防止の為に基本的には長距離の乗馬は自粛していた。

「電車というか汽車――鉄道はまあ……整備途中ではあるがなあ。」

 精介の俯く様子を結三郎は微笑ましそうに見た。

 神仏や精霊が実際に現世に受肉して人間達とそれなりに関わったり関わらなかったりするこの世界では、鉄道工事に限らず様々な土木工事の際には川や山野に棲む彼等との交渉や配慮が欠かせない為、工事の進展は遅かった。

「じっ、自転車で! こっちに自転車持って来て、それでみんなを追い掛けるっす!」

 決然と顔を上げ、精介は結三郎へと宣言した。

「アカシ何とかのあのでっかい白い塔を目指して走れば、迷いはしないっしょ!」

 高層建築の無い塔京では、遠く離れた地域からでも証宮離宮殿の白亜の塔はよく見えた。

 確かに理屈では精介の言う通りではあったが、しかし馴染みの無い塔京の町中を精介一人でしかも自転車で移動するというのは、結三郎には心配の絶えない事だった。

 すっかり弟を心配する兄の様な心持ちになってしまった結三郎が、どうしたものかと自分を見つめる精介の坊主頭を眺めた。

「確かに理屈ではそうだが……。山尻殿の世界の様には道は舗装されてないし、狭い道も多いし、治安がよろしくない所だってあるし、案外時間が掛かると思うが……。」

 自分でも用事があって証宮離宮殿まで行き来する事はあり、手放しで無条件に安全とも言い難い途中の町や往来の様子を思い出しながら、結三郎はどう精介を思い留まらせようかと悩んだ。

「そ、そんな……。」

 自分を思い留まらせようという様子を感じ取り、精介は椅子から腰を浮かして身を乗り出した。

「やるだけやらせて下さい!」

 結三郎との日之許でのデートの機会を逃してなるものかと、精介は必死に食い下がった。

「しかしだな……。」

「――まあまあ。よろしいではありませんか。」

 精介の勢いに結三郎が困っていたところへ、部屋の引き戸が開けられダチョウが姿を現した。

「聞こえていたのか。」

 結三郎が困惑しながらダチョウへと目を向けると、ダチョウはゆっくりと首を折り曲げて部屋の中へと入ってきた。

 その傍らの空中には、精霊の念力によって、ガラス製の椀を二つ載せた盆がふわふわと浮かんでいた。

「試験勉強お疲れ様です。差し入れのおやつです。」

 ダチョウの言葉と共に盆が音も無く滑る様に長机の上へと下ろされ、精介と結三郎の前で止まった。

 ガラスの椀の中には冷えた果物の寒天寄せが盛り付けられていた。

「あ、有難うございます。」

 まだ少しダチョウの姿に慣れない精介は、ぎこちなく頭を下げて礼を言うと、早速木匙を手にして食べ始めた。

 精介に圧迫感を与えない様にと気遣ったのか、結三郎の近くに体を移すとダチョウは長い足を折り畳んで腰を下ろした。

「山尻殿の麻久佐行きの件ですが、私が付き添いを致しましょう。」

「え!?」

 傍らから掛けられたダチョウの言葉に、結三郎は思わず声を上げて振り返った。

 精介も匙を持った手を止めてダチョウへと顔を上げた。

 ダチョウは穏やかに微笑み、言葉を続けた。

「私もたまには息抜きに奥苑の外に出たいですし、麻久佐までの道案内はお引き受け致しましょう。」

 思わぬダチョウからの申し出に、精介は有難いとは思いながらも戸惑いの表情を浮かべた。

「え、でも、幾ら日之許では神様や精霊が居るって言っても、あんまり町をうろうろしてないんじゃないんすか……?」

 精介の尤もな言葉に結三郎も頷いていた。

 しかも外国の鳥の精霊である。気安く町のそこら辺りをうろついている訳は無かった。

「ああ、体を小さくして自転車の籠の中に入っていますので大丈夫でしょう。――麻久佐までは私の背中にお乗せして走るのが、一番時間が掛からず手っ取り早いのですが目立ち過ぎて要らぬ騒ぎを起こすでしょうし……。」

 精介と結三郎の戸惑いや不安を気にした様子も無く、ダチョウは明るく言い放った。

 ケニィエヤやエイテオーピャの広大な草原を地の果てまでの勢いで疾駆していたダチョウの精霊にとっては、高縄から麻久佐まで走る事はほんのひとっ走りにもならない事だった。

「――いや自転車という時点でそもそも目立つのだが……。」

 結三郎は眉根を寄せて困惑の言葉を口にしたが、ダチョウは微笑みながら聞き流していた。

「ええ! 小さくなれるんすか? すっげえファンタジーっすね!」

 ダチョウが小さくなれると聞き、精介は目を輝かせてダチョウを見つめていた。

「はい。この様な感じですね。」

 そう答えるとすぐにダチョウの姿が一瞬ぼやけて輪郭を失い、そしてまたはっきりした時には縮尺はそのままに三十センチ程の姿が現れた。

「おお!」

 結三郎も初めて目にしたダチョウの小さな姿に大きな驚きの声を上げていた。

「すっげええ!!」

 結三郎の座っている傍らに出現した小さなダチョウに、精介は思わず席を立って覗き込んでしまった。

 驚いている二人の様子を微笑ましげにダチョウは見上げた。

「かなり頑張れば人間の姿にもなれますが、苦手なので長時間人間の姿を保つのは無理なので……。兄上は人間に化ける方が得意でしたけどね。」

 人間の姿に変身した方が精介の付き添いには都合が良かったが、長時間は無理だと言う事でダチョウは謝り溜息をついた。

「へえ? 兄弟が居るんすか?」

「そうなのか?」

 精霊の様な存在にも家族が居るのかと精介が感心している横で、結三郎もそれは初耳だと驚いていた。

「はい。普段はケニィエヤやエイテオーピャの草原を走り回って気儘に暮らしています。たまに両方の国の王宮に遊びに連れて行ってもらいました。私が塔京に来て以降は会っていませんが、元気だと思いますよ。」

 ダチョウもまた異世界でこそなかったものの、時空の穴に巻き込まれて故郷のエイテオーピャ国から遠く離れた日之許の塔京へと転移して来て博物苑に保護されたという経緯があった。

 故郷での生活を懐かしく思い出しながらも、博物苑での学問研究を楽しむ今の生活も大変気に入っているダチョウは、故郷への未練も余り無さそうな様子で微笑んでいた。

「それでは当日はよろしくお願い致しますね。」

 再び元の大きさに戻るとダチョウは立ち上がった。

「はい! よろしくっす。」

 精介はダチョウを見上げて嬉しそうに返事をした。

 思わぬ付き添い希望者だったが、精介だけが全くの一人で慣れない塔京の町を自転車で走るよりは随分と心強かった。

「むう……。」

 半ばなし崩しに精介とダチョウの麻久佐行きが決まってしまい、結三郎は唸ってしまっていた。

 頭ごなしに禁じるつもりも権利も結三郎には無かったので、そこまで精介が自分達と出掛けたいのならばとこれ以上反対するのはやめにした。



 ダチョウが退出し、おやつの寒天寄せの残りを再び精介は機嫌良く食べ始めた。

「本当に、自転車は安全運転で、怪我や事故の無い様に気を付けるんだぞ?」

 自分で言っていて過保護な兄の様だと思いながらも、結三郎は自分の分の寒天寄せを食べつつ精介へと注意をした。

「はい! 気を付けます!」

 口うるさくはあっても結三郎が自分の事を心配してくれている事に精介は喜んでいた。

 舗装もされておらず道幅も大きくはない塔京の町を自転車で走ってどの位の時間が掛かるのか精介には判らなかったし、結三郎達との昼食や活動写真開始の時間に間に合うかどうかも怪しかったが――結三郎達との外出そのものを楽しみたいと思っていたのだった。

「長屋のみんなや部屋のみんなに会うの楽しみだなー。」

 おやつを食べ終わり匙を置くと、精介は再び試験勉強を始めようと教科書を手元に引き寄せた。

 空になった食器や茶瓶を、結三郎は一先ず精介の邪魔にならない様にと長机の端へと片付け始めた。

「試験が終わって、結三郎さん達の俺の世界の方の探検も終わったら、夏祭り――出張博物苑の準備が忙しくなるんすよね……。」

 是非手伝いたいと思いながらも、受験勉強の心配の少ない付属高校の部活引退後の夏休みはバイトにも励んで、結三郎達と出掛ける為の貯金もしたいとも精介は考えていた。

「うーん……。週四日――いや三日のバイトにして、後は高縄で過ごす事にして……うーん……。」

 テレビやビデオカメラを買えるものならば買いたいし、そこまでは無理でも電車やバスを乗り継いで遊びにも出掛けたい――。

 教科書とノートを広げながらも、全く別の事を考え込んで唸っている精介の様子を結三郎は心配そうに見ていた。

 食器や茶瓶を机の端にざっと積み重ねると、結三郎は改めて精介の向かいに座り直した。

「決して無理はするなよ? 根を詰めて働いて体を壊してはならないぞ。――私達だって山尻殿の生活や健康を損なってまでそちらの世界を調べに行きたい訳ではないんだ。探査機の方で調べていく内にも何か金を稼ぐ方法等も思い付く事もあるだろうし……。」

 精介の世界の雇用や賃金の制度等については結三郎は判らなかったが、生活の為に無理をして働かなければならず、それで却って体を壊してますます生活が立ち行かなくなってしまった者達の話は日之許ではよく聞くものだった。

 精介の体を気遣う結三郎の不安気な眼差しに、精介は慌てて謝った。

「す、すんません! そこまで根を詰めてバイトするつもりは無いっす! ちゃんと出来る範囲で働くっす。」

「そうか。それならいいんだが……。」

 精介の言葉に結三郎もほっとした様だった。

「――まあ取り敢えず、活動写真の次の日は山尻殿の世界の探検――いや義父上は散歩と言っていたな。皆で散歩だ。よろしく頼むよ。」

「はい! 楽しみっす。」

 嬉しそうに精介は頷き、今度こそ試験勉強を再開しようとしてまた手を止めてしまった。

 ビデオカメラの購入について考えていたせいもあり、スマホで今度こそはきちんと結三郎を撮影しようとしていた事を思い出したのだった。

「ん?」

 椅子の横に置いていたスポーツバッグを漁り始めた精介の様子に結三郎は首をかしげた。

 精介はバッグの中から自分のスマホを取り出してスイッチを入れた。

「ああ、そちらの世界の通信機か……。」

 精介を元の世界に送り届けた日に、自分が「門」の設置をしていた横で何やら不器用な手付きで精介が操作していたのを結三郎は思い出した。

「そ、そうっす。あれからちゃんと使い方覚えたんで!」

 精介は真剣な表情でスマホを手にして、結三郎を睨むかの様に強く見つめていた。

 手の平程度の大きさの小さな板に通信機能や撮影機能等、様々な機能が付いている事に結三郎は感心しながらも、精介の強い意志を感じる眼差しに思わず身を引いてしまっていた。

「こ、今度こそ記念撮影お願いするっす。」

「あ、ああ……。」

 覚証寺での相撲大会の時や、祝勝会をした夜に寺の裏で相撲を取った時よりも、余程真剣で集中している精介の勢いに結三郎は頷くしかなかった。

「有難うございます!」

 結三郎の返事に満面の笑みで精介はスマホを構え、腰掛けたままの結三郎の姿を何枚か撮影した。

 今回はきちんとピントの合った状態で結三郎の姿を捉え、撮影する事が出来ていた。

「何かちょっと恥ずかしい感じもするな……。」

 そもそもが写真撮影がまだ普及していない日之許では、先日の佐津摩藩お抱え力士達の販売用の絵姿の様に、写真というものがまだ何かしら特別な畏まったものの様に思う感覚が強かった。

 一通り結三郎を撮影して満足したのか、精介は一旦スマホを下げると照れ臭いのか俯きがちに声を掛けてきた。

「あ、後、一緒のとこを撮影したいんすけど……。」

「ああ、それは構わないが……。どうすればいいんだ?」

 精介からの希望に結三郎は頷きつつも、そもそも撮影される側がどう振舞えばいいかもよく判っておらず、困った様に精介を見返した。

「えーと、こ、こういう感じでですね……。自撮りって言うんすけど……。」

 自分の椅子を結三郎の横へと慌てて持ってくると、精介は腰を下ろして結三郎と横並びになった。

「地鶏……?」

「結三郎さん、ほら、カメラの方を向いて笑って下さいっす。」

 首をかしげている結三郎の肩に一応はさり気無さを装いつつ精介は手を回し、スマホをインカメラにさっと切り替えて撮影を行なった。

 試験勉強と並行してスマホの使用方法を熱心に勉強した精介の努力は報われ、肩を寄せ合いぎこちなく微笑む結三郎と精介の写真を撮る事が出来たのだった。

「ほうう! こんな風に映るのか! 実に鮮やかな画像だな。」

 撮影した自分の写真を精介から見せられ、自分の鮮明な画像に照れ臭さはありつつも結三郎は感嘆の声を上げた。

「画面が小さいのが少し残念だな。私の写真は兎も角、親族一同の集合写真とかを撮ったりしたら大き目に印刷して飾ったりするのも良さそうだが……。」

「あ、テレビにスマホ繋いだら大きな画面で見れるみたいっす。後何か、コンビニのコピー機にデータ送って写真の印刷も出来るってスマホの説明書に書いてあったっす。」

 精介の説明に結三郎は感心しながら精介のスマホの画面を眺めていた。

 精介が画面に指を滑らせる内に、練習で撮影した町の風景写真や精介の部屋の写真へと移り変わっていった。

 精介にとっては何の思い入れも無い、練習として手当たり次第に撮影していった学校前の大通りの人や車の行き交う風景や、精介の住むマンションの外観等――それらは結三郎にとっては興味深く楽しい写真だった。

「機械の規格が同じだったら、奥苑の機械にも繋いで中身を複写させてもらうのになあ……。」

 町の写真を見ながらとても残念そうに結三郎は呟いた。

 江戸か明治の様な雰囲気の日之許の世界では進んだ機械装置は、帝に関わりのある帝居や証宮離宮殿、後は佐津摩藩の博物苑にしかないものだった。

「結三郎さんのいつも使ってる本のタブレットはカメラ付いてないんすか?」

 和綴じ本に偽装された板状の端末機械を精介は思い出した。

「ああ、機械を作る時に誰もそう言う発想をしなかったのでなあ……。むしろ一枚の板に何でもかんでも機能を詰め込んでも、それが故障や破損した時に全部使えなくなる危険性の方を考えてしまうからなあ……。」

 機械装置一つをとっても考え方や発想が違う事に結三郎は感心しながら精介に笑い掛けた。

「成程~。」

 精介も色々な考え方がある事に感心しながら、スマホの画面を切り替えるとバッグへと仕舞い込んだ。

 今度こそ試験勉強を再開するべく教科書を開きながら、

「あ、また今度、結三郎さんが相撲してるトコとか写真撮らせてもらってもいいっすか?」

 さり気無さを装いながらも何かしらの強い思いを抱いて精介は結三郎を見た。

「ああ、いい……けども……。」

 何かしらいかがわしい気迫を感じるのは気のせいなのだろうか。

 真剣な表情で見つめてくる精介の表情に、結三郎は困惑しながら返事をした。



 夜も更け、結三郎も精介も疲れが出て来たのと明日から期末試験と言う事で、余り遅くならない内にと試験勉強は終了となった。

「おやすみなさいっす。」

「ああ、おやすみ。」

 結三郎を名残惜しそうに見ながらも、挨拶を交わすと精介は「門」を潜って自分の部屋へと帰っていった。

「――……。」

 「門」を潜り終えて立ち上がると、精介は急いで「門」のすぐ前を塞ぐ様にして台所の椅子やテーブルを置いた。他にも衣類や普段使わない物を詰めたダンボール箱を幾つか積み重ね、「門」から人が出て来てもすぐには通れない様にした。

「よし。」

 慌ただしく精介は自分の寝室へと飛び込むと、バッグからスマホを取り出して先程撮影したばかりの結三郎の顔写真を映し出した。

 ベッドの上にスマホを置いてその前に膝立ちとなり――精介は一人での夜の相撲の稽古を始めたのだった。

「――結三郎さん結三郎さん結三郎さん結三郎さん結三郎さん結三郎さん結三郎さん結三郎さん結三郎さん結三郎さん結三郎さん結三郎さん………………っっ、ぁっ、……ゅ、結三郎……っ!」

   



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メモ書き




 毎日暑くて心身共に疲弊しまくりの夏も何とか終わりそうでほっとしています。更年期のおっさんには辛いわ……。

 おっさんの人生的私生活的には今年の夏秋と現在進行形で色々と急展開で慌ただしく消耗しまくりで、小説書きにも集中出来なくて色々と大変であります。早く落ち着いて創作と金儲けに没頭したいものである事よ……。

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