第7話

 あまりの出来事に唖然としていた僕は、半ば引きずられるように彼女たちの拠点へと連行されていった。 

 目を疑う光景の中に見覚えのあるものはないか道中あたりを見回していたが、損壊が激しく原形をとどめている人工物は多くなかった。とはいえ掠れた文字やひしゃげた看板はどこか見覚えがある。かつての自分はここに来たことがあるのだろうか?

 あたりはほとんどが緑に覆われ、その支配権は動物へと移行していた。共謀な生き物こそ見当たらないものの、真っすぐな瞳が幾つもこちらに向けられていた。

 苔むした道路は、あちこちにヒビが入っている。隙間から顔を覗かせる草花が、どれだけ人間が不在であったかを教えてくれている。建物の名残などを見るにかつては栄華を誇っていたように見受けられるが、コンクリートジャングルはただのジャングルへと様変わりしていた。

 

 自分にわずかに残る常識が通用しないことをまざまざと見せつけられ、思考停止したまま引き回され、

「ついたぞ。」

 気づけば大きな建物の前に来ていた。屋根の一部がドーム状になっているようだ。もともと何に使われていたものなのかわからないが、町中が緑で埋め尽くされている中で原形を留めている数少ない建物だった。

 引きずられるまま入ると、思ったよりも中は綺麗だった。植物は取り除かれていて、どうしようもなさそうな太い根以外はほとんど元の内装を残していそうだった。本棚が階段代わりに使われているので言い切れないが。

 生活感にもあふれていた。二人で使うために置いたであろうテーブルには花瓶に花が活けてあり、上着が椅子に掛けられていた。この広い空間を二人だけで使っているのだろうか。

 少女が生活している空間を観察しながら連れていかれたのは地下室のようだった。とはいえ牢獄のような場所ではなさそうだ。太い根は地下から続いているようで、先ほど見たものよりもさらに太く雄大に部屋を貫いていた。その周りに使わない椅子や用途不明なものまでたくさん積まれている。ここは物置のようだった。

 「ここに座れ。縛り上げてやる。」

 言われるがまま座り、丁寧に縛り上げられる。椅子が固いので少しお尻が痛い。さっきよりも縛りがきつく、手首もじりじり傷んだ。

 「それでこいつどうすっか・・・。」

 「上に報告した方がいいんでしょうか。」

 「でも報告したらこいつ連れてかれんだろ?なんかちょっともったいないよなぁ。」

 「まぁ非影響者には初めて会いましたからね。記憶を失っているので聞き出す話もないですが。」

 「お前本当に何も覚えてないのか?」

 急に話を振られた。そんなことより報告が済んだらどこに連れていかれるのかについてもっと話し合いたいところだった。

 「早く答えろよ!」

 「あぁ、すいませんすいません!えっと覚えてること・・・」

 本当に何も思い出せない。現在置かれている状況も相まって頭が真っ白になる。


ぐぅ~


静寂を切り裂く、空腹の合図。

 思わず視線が集まる。

 「食事にしませんか、一度。」

 紅潮する頬に、やっと少女らしさを見ることができた。

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