第6話
再び腕や体をぐるぐる巻きにされ、手綱を握られて『ネスト』とやらに連れてかれていた。
「そろそろ休憩しませんか?引っ張られながら歩くの結構しんどいんですが・・・。」
「さっさと帰らないと日が暮れる。それにトイだってまだ完全に回復してない。チンタラしてる余裕はねーよ。」
「そうはいってもこんなところ他の人に見られたら・・・。」
「何言ってんだお前?人なんてもういないだろ。寝ぼけてんのか?・・・そういや記憶喪失とかほざいてたな」
まだ疑っているのだろうか、表情が険しくなった。心なしか縄を引く力も強くなっている。
「頭ごなしに疑っていては進む話も進まないでしょう。」
声の主を見やる。どこか歩調はゆっくりで、覇気も感じられない。胸の奥が少し傷んだ。気になることを口にしていた気がしたが、これ以上刺激するのも憚られたので回りを見渡すことにした。
今歩いている通路は、最初に目覚めた研究所の一部のようだった。だいぶ朽ちており、長年放置されていたような印象を受ける。機械はあらかた壊れており、原形をとどめていないものも多い。先ほどのような戦闘の影響だろうか。
しかし床や壁などは特殊な金属でできているようで、損壊があまり見られなかった。何のために作られた研究所なのか疑問は尽きないが、なぜか懐かしいような、既視感のようなものを感じていた。僕が白衣を着ていることと何か関係があるのだろうか。早く記憶が戻るといいが。
物思いにふけっていると、縄を強く引かれて危うく転びそうになる。前を見ると、立ち止まった少女たちの後ろには長い階段がある。すでに長時間の引き回しのせいで疲れた気持ちでいたが、ここからこの大階段を登らなければいけないと思うとより気持ちが萎えてくる。
そんな僕の気持ちを意に介さない二人は階段に向き直ると再び進み始めた。果たしてこの会談を登り切った僕はまともに立っていられるのだろうか。
* * *
無事足がガクガクになりながら階段を登りきると、すでに傾いた日差しが目に刺さった。思わず顔を背けて、目が慣れるのをじっと待つとだんだんと周りの風景が見えるようになってきた。
一言で言うなら、ゴーストタウンだ。町の様相と呈してはいるが、どこにも人の姿は見当たらない。だがそれ以上に植物の浸食が激しいことに驚いた。どれだけの間放置されていたのだろうか。さきほど人はもういないと言っていたが、人という主人を失った町はどれほど時間がたてばここまで野性を取り戻すのだろうか。
想像を絶する光景に理解が追い付かず、頭を整理しようと思わず天を仰ぎ、見る。見てしまう。
人工物とは思えない巨大な城が、空に鎮座している現実を。
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