第3話

 少女たちを追って、散らばったガラスの破片やくず鉄を避けながら広い研究所の中を進んでいくと、二人の声が近づいてきた。

 また縛られるのも困るので、見慣れぬ機械に身を隠しながら、そっと様子をうかがう。二人は三体ほどの人型に銃を向けながら話しているようだった。

 「お前らも非影響者か!?答えろ!」

 「・・・—―———————!」

 威嚇をしているのか、腹の底から響くような叫び声が轟く。

 「返答ないな!撃つぞ!」

 「待ってください!」

 凛とした少女の声が、荒っぽい少女の動きを止める。

 「なんで止めた!?明らかにバケモノだろありゃあ!」

 「もしかしたら先ほどの非影響者の仲間かもしれません。もう少し確認してみましょう!」

 「あいつは指示に従っただろうが!もういい撃つぞ!」

 「アイ!せめてもう一度・・・」

 僕の存在がよほどイレギュラーだったのか、彼女たちの判断を鈍らせてしまっている。数的不利をとっている以上、優柔不断は危険だ。そもそも相手がただの人間には見えなかった。彼女たちが言うところの『影響者』なのだろうか。

 などと考えながら視線を戻すと、前の敵だけを警戒する彼女たちを、死角狙う影と目があった。僕の視線に気づいたのか、新手の人型は猛然と走り出した。

 「危ない!」

 「な・・・、お前どうやって逃げ出しやがった!」

 咄嗟に口に出てしまったが、かえって僕の方が注意をひいてしまった。

 「今縛りなおしてやるからそこで」

 「後ろ!」

 そこでやっと気づいたのか、白い髪の少女が先に反応した。

 新手は彼女たちのすぐそばまで駆け寄っていた。そのまま人ならざる速度で足を蹴り上げると、先に反応した少女が相方を庇うため間に割って入った。銃を構える時間はなかった。

 足は深々と少女の腹に刺さり、凄まじい勢いで僕のあたりまで体を蹴り飛ばした。

わずか数瞬の出来事だった。

「トイ!」

 トイと呼ばれた少女は握っていた銃を取り落とした。銃が離れ力なくだらんと垂れた右手の中指には指輪がはまっている。

 蹴りが鳩尾に入ってしまったのか口をパクパクと開いている。もともと白い肌をより青白くさせ、口唇からよだれが垂れている。呼吸ができないようだ。

 一人戦闘不能にした人型は泣きそうな顔で駆け寄ってきた少女、アイを次の標的としたのか駆け出した。

 咄嗟に僕も倒れたトイに近寄ろうと足を動かすと、落ちている銃にぶつかった。手に取った銃は、自分の胸ほどまでの背丈の少女が持つには随分と重いように感じられた。

 ガシャン!

 握っただけで拳銃の持ち手マガジン部分が飛び出した。弾が入っているのかと思いきや、何か別のものがはめ込まれている。

 中には指輪が入っていた。

「何勝手に触ってやがんだ!返せ!」

はっと我に返る。アイが相方を心配して駆け寄ってくる。相方の安否に気を取られて戦うどころではない小さな背中、その後ろ。先ほどの敵が追撃の姿勢を見せる。

 時間がない。今にも襲いかからんとする人型へ銃を構える。走り寄る少女の祈るような瞳に迷いを捨て、倒れている少女に倣って右の中指に指輪をはめた。

 不思議としっくりくる。銃がずしっと重くなった。

 弾は込められた。

 僕は慣れない重みに強張る右手で、少女の銃を構えた。

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