第11話 決戦の時

なぎは不倫の証拠をまとめ、なおの帰りを待っていた。


流石に残業が続き疲れた表情で家に帰ってきたなおはソファに座っているなぎに一瞥をくれただけで、何も言わずに洗面所へ行く。


「ちょっとこれを見て欲しいんだけど」

「疲れてるから」

「いいからこれを見なさいよ」


なぎは顔色ひとつ変えずに書類と写真を机に広げた。

「なんだ、これは」

なおは驚きの表情を浮かべ、それを見たなぎは彼の心の中に深く食い込んだ痛みを感じることができた。

「なんだもクソもないでしょ。あなたがしてきたことなんだから。あなたの行動はもう許せない」


なぎの冷静で厳しい声に、なおは最初は抵抗しようと考えていたが、机の上に広がる証拠は否応なく真実を突きつけていた。なぎはじっと見つめ、なおは徐々に言葉を失っていく。


「どうしてこんな……?」

なおが口にした問いに、なぎは深いため息をついた。

「バカにするのもいい加減にしてほしいわね。結婚当初からあなたはもう不倫を始めてたじゃない」

「い、いや」

「いやじゃないのよ。もうそんな話はどうでもいいの」


なおは部屋を見渡すと、すでになぎの私物がないことに気がついた。

「なぎのものが片付けられている?」

「だから、もうそんなことはどうでもいいって言ってるの」

なぎはあくまでも冷静に話を進める。

「なお、私の私物がどれも片付けられていることに気づいたならわかるでしょう?もうこれで終わりなの。離婚しましょう。あなたがしたいように離婚してあげるのよ。私は慰謝料も何もいらない。だからこれに今すぐサインして」


なぎはなおに離婚届を差し出した。なぎのサインが既にされており、なおのサインだけが足りなかった。なおは戸惑い、言葉に詰まる。

「どうしてこんなに急いで離婚を決めるのさ。今、プロジェクトも佳境だし、会社にも説明が必要だ。こんなタイミングで離婚は難しいだろう」

「それはあなたの都合だし、私にはどうでもいいの。一分一秒でもあなたと会話なんかしたくないし、一緒の空気を吸いたくもない」

なぎは耳を貸さず、なおに向き直る。

「この関係を公にしたくないなら、今すぐに離婚届にサインをして。私はもう耐えられない」


なぎの言葉になおは迷いと焦燥が入り混じった表情で応え、書類の一部にサインをすることを決断した。なぎは冷たい微笑を浮かべ、書類を受け取ると、彼女の目には復讐の執念と同時に何かしらの哀しみが宿っていた。


「でこれが弁護士が作った証書。慰謝料を求めることはない。この話を公にすることもない」

なぎは書類を渡す。

「ただひとつあなたに求めたいことがある。この裏切りに対する私への贖罪の気持ちがあるなら、ただひとつだけあなたに要求することがあるの。これは法的にあなたに求めることはできないことだけれど、この要求を飲んでくれるなら、私はもうあなたに何も求めない。私は絶対にあなたを許すことができないけれど、もうあなたの人生には関わらない。それだけは覚悟してこの書類にサインして欲しい」


なおは書類を一読すると、ものを言いたげだったが一言、

「分かった」

と言って書類にサインした。

なぎは細々とした事柄への対応も全て書面でまとめていた。というかあらかじめ問題になるようなことはしないように心がけていたのだが、それはなおは知る由もない。


そして二人の関係は終わった。

なぎは鍵を置いて部屋を出ていった。


ループ前には死んでいたはずのなぎは今もまだ生きていることに安堵した。

なぎの第二の人生が本当にここから始まることになる。

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