第8話 戦闘準備

まず、なぎはなおの行動を監視すべく、なおのスマートフォンの認証を破ることを決意した。怪しまれる前に速やかに行動を起こした。

なおの晩酌のお酒に睡眠導入剤を入れておいた。

「なんだか今日はすごく眠いから先に寝るよ」

「疲れてるかもね、早めに休んだほうがいいよ」

「ありがとう、おやすみ」


今考えるとなおはなぎのことを舐めている節がある。いいように捉えれば、なぎを可愛く思っていたとも言えるのだが、どちらかというとマスコット的に支配下においておきたかったのではないかと思っている。だからなぎが会社で活躍し始めると、なおのプライドが許せなくなったんだろう。まあそれとは関係なく、なおの不倫は始まっていたわけだが。


なおが眠りにつくと、なぎは自分の指紋をなおのスマホに登録させるために、なおの指を使って指紋認証を解除した。その後、なぎは自分の指紋もスマートフォンに登録し、なおの行動を密かに把握する準備を整えた。

さらに、なぎはクローンを作成し、なおのスマートフォンの履歴や情報をクローンから読めるようにもしておいた。これにより、なぎはなおの行動や連絡先、履歴などを随時チェックできるようになった。すでにどこで何をするのかはループ前の書類で分かってはいるのだが、証拠を掴むことと、今回のループで歴史が変わった時のために行動しておいて損はない。


それにしてもあの書類は誰が作ったのだろうか。その疑念をずっと抱えてはいたが、今はそれどころではないので、なぎの心の奥底に仕舞われていた。


なぎが着々と準備を進めている中、ある日、会社でみくとのランチタイムでのひと時、なぎの顔に疲れや緊張がにじみ出ていることにみくが気づき、

「なぎ、最近どうしたの?ずっと怖い顔してない?」

と問いかけられた。


なぎは慎重にことを進めてはいたがいつもと変わらないように接していたつもりだったが、その緊張感が出ていて、そんな風に見えていたことに全く気がついていなかった。

「ああ、最近ちょっと調子が悪いのかもしれない。結婚後の疲れが出てるのかも」

とぎこちなく笑った。

「そうなんだ、結婚疲れかな?でももう、惚気話はさすがにうんざりだよ」

とみくも笑いながら返した。


みくは雰囲気を変えようと、

「最近さ、あのアイドルグループのリーダーからメールが来ちゃってさ、すぐ会いたいって言われてるんだよ」

と話し始めた。なぎは驚き、

「え、本当?知り合いなの?」

と尋ねると、

「ほら、見て、毎日たくさんメールが来てるんだ。毎日二、三通も来るんだよ。みくも人気者になっちゃうかも?」

とスマホをなぎに見せてきた。


「本当だ、会いたいって書いてあるし、今日も撮影だとか、すごいメールの量だね。ちょっと見せてもらってもいい?」

と言うのでみくはなぎにスマホを渡した。

なぎが驚きながらもスマホを見ていると、

「もう本当にノリがいいんだからなぎは。でも結構面白いメールだから読んじゃって、意外と楽しみにしてるんだよね」

「おかしなメールってのを全く隠そうとしてないけど、なんだかそれが面白いね」

「でしょう?こんなのに騙される人はいないよね」

「でも危ないからリンクは押しちゃダメだよ?みくはおっちょこちょいだから、間違って押しちゃいそう」

「私もそう思う」

「そう思うじゃないよ」

となぎは笑った。

「よかったなぎが笑ってくれて。このメールを取っておいて良かったかも」

とみくも笑った。

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