第4話 リリース日前日
なぎは新たなプロジェクトのリーダーとして舵を取りながら、喜びと苦悩を交えて日々を過ごしていた。プロジェクトへの情熱はなぎを前に進ませていた。成功への執念と共に、なぎの姿勢は社内で注目を浴び、期待が高まっていく中で、なぎは自身の役割に向き合っていた。
一方で、なおは社内の雰囲気に馴染めずにいた。社内の期待がプロジェクトに集中する中、賞賛されるなぎへの言葉を自分にも向けらることに喜んでいる風を装っていたが、実際に複雑な心境だった。夫婦の時間は減少し、それに伴ってなおの心も遠ざかっていった。なぎの残業が増え、二人の生活は忙しさに埋もれ、すれ違いが生まれていた。
なぎの生活がプロジェクトの忙しさに埋もれていく中、彼女の心には矛盾する感情が渦巻いていた。会社では成功し、評価を受ける一方で、家庭ではなおとの関係が希薄になりつつあった。彼女は孤独感と共に戦いながら、同時になおの気持ちにも気づいていた。しかしそれもプロジェクトが終わればわかってくれると信じていた。
そんななぎに寄り添っていたのが、彼女の親友であり同僚であるみくだった。みくはプロジェクトを共に進めるために精力的に働き、なぎを支え続けていた。なぎはそんなみくの献身的な姿勢に心から感謝しつつも、家庭内の悩みについてはみくに相談することができなかった。初めはみくがなおのことを気に入っていた、そのことが心に引っかかっていたからかもしれない。
なぎは様々な葛藤を抱えつつも、プロジェクトは驚くほどスムーズに進行し、外部の会社の協力もあって着実に完成に向かっていた。終盤に差し掛かり、連日の残業によって疲れが溜まっていたが、なんとかリリース日前日には一応の完成を迎えることができた。
プロジェクトの仲間たちは、完成を祝いながらも、リリースに向けての緊張感が漂っていた。なぎは感謝の気持ちを仲間たちに伝え、一人一人見送った。残っていたのは、同僚であり親友のみくだった。
みくがなぎに向けて微笑むと、
「なぎ、おめでとう。やり切ったね」
と祝福の言葉をかけた。なぎは微笑み返し、
「みく、みんなでやり切ったんだよ。みくも本当にお疲れ様。でもまだ明日が本番だからね。今日はもう早く帰って休んで」
と応えた。
「わかってるって!なぎも早く帰るんだよ!」
とみくは笑顔で言い、なぎに気を付けるように促した。
「最後の見直しをしたら帰るよ。じゃあまた明日。みく、本当にありがとう」
みくはなぎに軽くハグをし、
「お疲れ様。また明日ね」
と声をかけ、事務所を後にした。なぎもみくの温かな言葉と笑顔に包まれながら、最後の作業を進め、プロジェクトの完成を確認した。
なぎは今日までのことを振り返りながら、プロジェクトの完成を本当に嬉しく思っていた。そして今までギクシャクしてしまっていた、なおとの関係もしっかり見つめ直したいと思っていた。今日はなおに今までの感謝を伝えようと考えながら、荷物を取りにロッカーへと向かった。
なぎは鍵を開けようとすると、鍵は空転し、ロッカーの鍵が空いていた。鍵をかけ忘れたのかと思ったが、確かに鍵はかけていたはず。何か盗まれている?と思いながらゆっくりとロッカーを開けると、中には、表面には何も書いていないB5の封筒が置かれていた。手に取るとずっしりと重く、何かの書類が入っているようだった。
この時の衝撃を私は一生忘れることはないだろう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます