第3話 転機
なぎとなおは結婚後、穏やかな幸せの日々を過ごしていた。しかし、運命は時折、変化をもたらすことになる。それは、会社での社内プロジェクトへの挑戦だった。綻びはこんなところから始まっていたのだ。彼らの生活に新たな局面をもたらすきっかけであった。
そのプロジェクトは、数年に一度の大イベントで、どの社員でも自由に企画書を出すことができ、優れたアイディアを競い合うものだった。グランプリには実際に予算が付き、企画者は新しい部署のリーダーとなり、その企画を進める責任が与えられることになる。
初めはなおのちょっとした一言だった。
「なんか最近のSNSって使うだけで疲れちゃうよな。もっと気楽に明るく使えるものってないのかな」
「確かにそうだよね、私も最近あんまりみないようにしてるもん。でもそんな面白いSNSが作れたら嬉しいよね、っていうか私も使ってみたいかも」
どこにでもありふれた夫婦の会話だったが、ちょうど社内プロジェクトのこともあって、二人は少しだけ真剣に企画を考えてみることにした。コンセプトはなおが考えて、明るさや幸せをテーマにしたSNS。いろいろ友人たちからもアンケートを募ったり、なぎはみくにも相談に乗ってもらったり、プログラマーの姉からも具体的に実装できそうな機能を聞いたりして企画を形にしていった。
なぎが企画にのめり込んでいく中、なおは少し気が抜けてしまったのか、自分の企画として考えるのはやめてしまったようだ。
「同じような企画を出しても仕方ないからね。なぎの企画に絞った方が良さそうだし。でも僕の名前も出しといてね」
と冗談っぽく笑いながら、なぎの企画をサポートする側に回った。
なぎの女性目線を取り入れた、具体的で魅力的な内容が詰まった企画書は審査員の心を捉え、なんとグランプリに輝いてしまった。夫婦としての一体感が勝利に繋がった瞬間だったが、夫婦ということもあり、なおはプロジェクトに参加することはなかった。その代わり、親友のみくが参加してくれたのはなぎを喜ばせた。
なぎの心の支えになってくれるはずだったのだが……。
なおはいつもなぎを支え、相談に乗る姿勢を見せていたが、内心では自身の感情は複雑だった。自分の意見やアイディアが盛り込まれながら、自分は評価されなかった喪失感も感じていた。常に先輩であり続け、なぎを引っ張る立場だったなおの心境の変化はある意味仕方がない面もあったのかもしれない。
なぎは、夫婦関係の中での微妙な影が生まれつつあったことに、初めてのリーダーとしての仕事の忙しさで気がつくことができなかった。
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