初めてのダンジョンで
はぁ、と一呼吸入れて、俺はポゥに問いかける。
「出発前にひとつ確認したいんだけど、また同じ道を行ったらさっきのドラゴンに襲われるんじゃないのか? 全然勝てそうになかったし、また三日無駄にするのは嫌だぞ」
『確かにそうですね――では、まずは武器を調達しましょう』
「武器?」
『ここから少し離れた場所にダンジョンがあります。そこになら何かしらのアイテムが手に入るはずです』
「ダンジョンなんてあるのか。普通の服と素手じゃどうしようもないし、そこに行くしかなさそうだな。ちなみに、そこにはどれくらいで着くんだ?」
『半日ほど歩けば到着するかと』
「町より全然近いな。ならどうして最初に教えてくれなかったんだ」
『まずは街に行って準備したいと言ったのはあなたじゃないですか』
「確かにそうだけど……じゃあ、案内よろしく」
そうしてポゥの案内に従って森を進んで行くと、地面にぽっかりと穴が空いている場所を発見する。階段上になっているので降りるのは簡単そうだ。どうやらここが、ポゥの言っていたダンジョンらしい。
ダンジョン内はかなり暗く、数メートル先は真っ暗だ。
「暗すぎて進めそうにないな……なにか、光源になりそうな物はないのか」
服装は日本にいたとき着ていた物だが、所持品は何もなかった。スマホの一つでもあれば問題はなさそうだのに、残念だ。
『でしたら松明を作成しましょう。ワタシの指示する素材を集めてください』
「松明ったって、火の起こし方とかしらないぞ」
『問題ありません。いいから言う通りに動いてください』
渋々、俺は指示に従う。枯草と油分を含んだ木の実、それに眺めの木の棒。それと火打石。
「集め終わったぞ」
『では松明を作ってください』
「作ってくださいって……」
次の瞬間、頭の中に松明の作り方が流れ込んできた。そして体が勝手に動き出し、瞬く間に松明が完成した。
「お、おお! すげぇ。どうなってんだ、これ」
『知識はワタシがあなたの頭に直接、送り込みました。あとはステータスの器用でちょちょいのちょいです』
「ってことは、大抵の物は作れるってことか?」
『そうですね。ワタシの知っている物であれば、ですが』
流石、器用/999は伊達じゃない。火も、火打石を二、三回叩いたら着火した。クッソ便利だな、器用/999。
無事に光源を確保したので、いざ、初のダンジョンへと突入した。
中は思ったより広く、車くらいなら余裕で通れそうなくらいの高さと幅があった。出てくる魔物はスライムやちょっと大きな蜘蛛など、力/999で殴れば一発で倒せるくらいのレベルだった。
何度か松明を作り変えながら順調に進んで行く。
今のところ、罠とかもなく命の危険は感じない。
だが、別にポゥが道を教えてくれるわけでもないので進み方は適当だ。帰り道なら案内できるとのことなので、安心して奥へ進めるのは心強い。
最初こそ怖かったダンジョンの中も、今はちょっと暗くて狭い道くらいの感覚になっていた。これもきっとチート能力があってこそなんだろう。
「なんだ。結構余裕だな、これならあっという間に踏破しちまうぜ。ははは」
『女の子みたいな悲鳴を上げていたのによく言いますね』
「言わなきゃバレなかったのに!」
どうしてわざわざ言うかな。と不満を抱いた直後、
「――だ、誰かいるんですか――!?」
「うおっ!?」
突然、少女の声がして立ち止まる。
遠く、くぐもっていた気がするが、絶対に人の声だった。しかし、こんな場所に人間がいるなんて考えづらい。罠か、それとも幻聴か?
「おーい、おぉーい! 聞こえますか? もしかして、どこかに行っちゃいましたかー? お願いです、助けてくださーい!」
悲し気な少女の声。やはり聞こえる。ダンジョンの奥から、明らかにこちらへ助けを求めている。
「ポゥ、この先に人間の気配とかするか?」
『さあ、ワタシに聞かれても』
「あ、そういう能力はないのね……じゃあ、俺が確認するしかないか」
魔物の罠、という可能性もあるが、もし本当に人間だったら大変だ。仮に罠だったとしても、無限の残機があるんだし問題はないだろう。
死んだらまた、このダンジョンを最初からやり直しになるけど……。
一応、警戒しながら声の下方向へと進んでみる。すると通路のど真ん中に大きなワーム系の魔物が横たわっているを発見した。潜むでもなく、ワームはズルズルと体を引き摺るようにして移動している。
「なんだ……? まさか、こいつが俺を誘き寄せたのか?」
罠、にしては襲ってくる気配はない。見るからに弱っているようだった。
「あっ! 声、近くで人の声がする! そこのひとー、お願いします、助けてくださーい」
ワームの中心部から声がした。よく見たら他の場所よりも膨らんでいる。ってこれ、まさか食われてるのか!?
俺は慌ててワームを倒し、松明用の枝を鋭利に研いで膨らんでいる部分を裂いた。ある程度、裂けばズルリと人影が現れる。
女の子だ。この世界に来て初めての人間!
年齢は俺と同じくらいだろうか、短い黒髪に丸っこい輪郭。ファンタジーに出てくる旅装束に似た服装を身に纏っていた。うつ伏せの姿勢で顔だけ上げて、クリッとした瞳で俺を見上げている。とても可愛らしい女の子だ。
粘液まみれであることを除けばだが。
「た、助かりました。ありがとうございます」
にへら、と倒れたまま少女が言った。
「えっと、大丈夫、ですか?」
魔物の腹から出て来た割りには元気そうだが、どうしてか立ち上がろうとしない。そんな彼女へ、俺は手を差し伸べる。
「あ、すみません。ちょっと魔物の毒にやられて麻痺しちゃって」
「大変じゃないっすか! すぐ治療……って言っても俺は何も持ってないし、それにこんな場所で動けないのは危ないし、ひとまず外に出ましょう!」
「あ、大丈夫です! わざわざ外まで出なくても、五分くらいしたら動けるようになるので」
あ、そうなんだ。なら安心、かな?
「ところで、あなたは?」
「俺は、伊勢翔太。この世界を救うために旅をしている者だ」
ちょっと格好つけて言ってみる。このセリフ、一回言ってみたかったんだ。
「わっ! わたしと同じですね! あ、わたしはユウラ・ラックスと言います。ここへはアイテムを取りに来たんですけど、油断してサンドワームに食べられちゃって」
うつ伏せのままユウラは言った。死にかけてた割には元気だな。それとも死にかけたからこそハイテンションなのか?
「イセショウタさんも、アイテム目的でここに?」
「あぁ、まあそんなとこです。あ、俺のことは翔太でいいですよ」
「ショウタさん、ですね。わかりました!」
女性経験皆無な俺でも朗らかで丁寧な彼女とは話しやすかった。それに声や仕草から、とてもいい子なのだということが伝わってくる。
まさか最初に入ったダンジョンで、こんなかわいい女の子と出会えるなんて……! これだよ、こういうのを期待してたんだ!
こんな場所へアイテムを取りに来るくらいなんだから、冒険者とかそういう類の人種だろう。俺と同じく世界を救う旅をしてるって言ってたし。
うまくいけば、これから一緒に冒険ができるかもしれない。そうして共に苦難を乗り越え、芽生える恋心――。
『気持ち悪い妄想をしている暇があるなら、彼女を起こしてあげたらどうですか?』
「お前! 人の心まで読めるのか……!?」
『そんな気持ち悪い顔をしていたら誰だって分かります』
気持ち悪いって二回言われた……。けど、確かにうつ伏せで放置は心遣いが足りてなかったな、せめて座らせてあげるくらいはしなくては。
俺はユウラさんへ手を伸ばし……指先が触れる直前で止めた。
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