思ってたのと違う
目が覚めると森の中にいた。
見覚えがある。三日前にいた場所だった。
「リスポーン、した」
自分が生きていることの安堵感と、森の中を彷徨った三日間が徒労に終わった絶望感に、俺は膝から崩れ落ちた。
「想像してたのと、違うっ……!」
『想像、とは?』
「異世界転生ものならチート能力で無双するもんじゃないの? 貴族とか美少女を助けて悠々自適な生活を送るもんじゃないの? なんで森の中で三日間も彷徨った挙句、ドラゴンに焼き殺されなくちゃならないんだよぉぉぉぉ!」
『そんな都合のいい話があるわけないじゃないですか』
「じゃあ、せめてポゥが美少女になって励ましてくれよぉ。今からまた森の中を六日も歩くのはさすがにしんどいってぇ……」
『……仕方ありませんね』
「やってくれるの!?」
なんか冷たい感じだからこういうのはしてくれないと思ったけど言ってみるもんだな!
「金髪で胸の大きいお姉さんでお願いします! 和風でも可!」
『ちょっと確認してきますので、待っていてください』
確認とは? と疑問には思ったものの、ポゥに言われて俺はこれから現れるであろう美少女を想像し、ワクワクしながら待機する。
五分、十分経ってもポゥは姿を現さなかった。もしかして、俺を騙して面白がっているのか? そんな不安が込み上げてきた頃、ガサリと物音がした。
「来た! 金髪少女か、それとも和風美女か!?」
振り向くとそこには――筋骨隆々の魚人が立っていた。
魚人、そう魚人だ。頭が魚で体が人間の魚人間だ。無駄に筋肉が発達している。下半身は鱗で覆われているのか、大切な部分だけは隠れていた。
え、なんで森の中に魚人が? 全然意味がわからないんだが。
「あ、まさか、ポ、ポゥ……なのか?」
ギョルン、と無機質な瞳が俺を捉える。
数秒間、無言で見つめ合った後、魚人(ポゥ?)はズンズンとこちらに向かって来た。かと思えば俺の肩を掴んで口を近づけてくる。
「えっ、なになになに!? なにするつもり!?」
ポゥの意図がわからずに、けれど俺は魚人の大きな口が自分の顔に触れることだけは避けようと抵抗する。
「ぎ、ぎぎょ……!」
向こうは向こうで必死になって口を近づけてくる。なに? もしかしてご褒美のチュウでもするつもりか?
「ポゥ! ポゥだよな!? まさかそれ人魚か? ちょっとビジュアルが俺の想像と違うから一回離れてくれると……」
『なにをしているのですか?』
不意に聞こえたポゥの声。しかしそれは目の前の魚人から発せられたものではなく、いつものように脳内に響いてきた。
「あ、ポゥ!? お前どういうつもりでこんな奴を出したんだ? 俺が駄々こねたのがダメだったのか? 謝るからコイツにさっさと離れるように言ってくれ!」
『いえ、その魔物はワタシが仕向けたわけではないですが』
「え、魔物……?」
俺は魚人に意識を戻した。そうするとボソボソと何か言葉を発していることに気が付く。
「ぎ、ぎぎょっ……! オマエ……クワセロ……!」
完全に魔物だわ。コイツ、普通に俺のことを食うつもりだわ。あまりにも脈絡のない生物が唐突に登場したからてっきりポゥだと思ってたぜ。はっはっは。
「離れろこの魚野郎ォッ!」
「ギョォッ!」
殴りつけると魚人は吹き飛んだ。力/999で思いっきり殴ったからか、相手の顔がR-18指定されそうなことになってしまったが、そんなものは些細なことだった。
「あっぶねぇ! 危うく魚に俺のファーストキスを奪われるところだった!」
ドラゴンに焼き殺された直後で魚に俺の純潔を奪われたら自決していたところだったぜ。
『全く、何をやっているのですか』
「いや……っていうかポゥ、なんでいつものままなんだよ。美少女はどうしたんだ。美少女は!」
『そのことなんですが、上位存在に確認したところ、安易な擬人化はNG、ということでして』
「人外過激派かよっ! チクショウ!」
結構楽しみにしてたのに。神様の馬鹿野郎。
『残念ですが諦めてください。では、街へ向かいましょう』
「待って待って、そんな早く切り替えられないから……」
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