ワン太の(たぶん)反抗期

 ワン太が我が家に来て、だいぶ心を開いてきたかな? と、思い始めていた頃。


 1年目になるかならないかの頃だったから、ワン太は、推定1歳半くらいか。


 慣れない環境で最初の頃は、食糞……

 粗相は当たり前だった。

 それが落ち着いて、表情もだいぶおだやかになり始めたなあ、と。


 しかしワン太は、突然に、

 私と娘にたいして、気に入らないことがあればがうがう吠えて、噛むようになったのだった。

 

 子犬は、きょうだい犬とじゃれながら、噛むときの加減を覚える……というようなのを聞いたような気がして。


 ワン太がどういう経路で愛護センターに保護されたかわからない。

 きょうだいと過ごす時期がなかったのかもしれない。母犬に甘えたことがないのかもしれない。

 そいいえば、愛護センターから一度だけ脱走したことがあると、スタッフが言っていた。


 突然にやや凶暴になったので、強く、きつく叱らなきゃいけないのか、かなり悩んだ頃。


 人間と犬の育て方を同じにしてはいけないのだろう。

 でも、ワン太は凶暴な犬じゃない。ビビリ犬で甘えん坊でさみしがり。人見知り。

 なにか訴えたいけど、ことばが通じないから噛むのかな?  と。


 人間の3歳児くらいに、反抗期がある。

 そのイヤイヤ期……我が子2人いるうちの長女がかなりはげしく、どんなにかんしゃくおこしても、叱らず怒らず、何が嫌なのか、徹底的に会話で根気よく接した経験から。うっかり苛ついてもかならずごめんなさいをして、また話を聞いた。

 話が通じる通じないではない。きもちの問題なので。


 よし、噛まれても叱らない。苛ついたら、ワン太から少し離れてクールダウン。

 離れたことで不安にさせたなら、ハグさて、撫でて、だいすきアピール。

 がうがうしてきて噛まれても、手を引かない。噛まれたまま、抱っこする。

 痛い。本気で噛んでいるならやばい。

 でも、痛くても、ワン太と本気のコミュニケーション。

 ム○ゴロウさんみたいな(笑)

 

 2ヶ月くらい?

 次第にワン太は、手加減を覚えた。

 ただのわがまま、要求吠えがわかったときは、怒った顔をするだけ。

 噛まれたら大袈裟に泣いて見せる。

(うそなきじゃなく、たいてい本当に泣いていた)

 こんなにワン太が好きなのに、伝わらないのがつらくて、泣いていた。


 そうこうしていると、私のことを噛まなくなった。何があっても。

 遊んでいてじゃれていて、うっかり歯が私の肌にあたってしまったとき、


   しまった! まちがえた!


 という顔をする(笑)


「間違えたねー(笑) 噛まないもんねー。いい子やね」


 えへへ。というような顔をして、誤魔化すワン太。


 反抗期の頃、娘はいつまでも噛まれていたけど、噛むのはよくないんだと次第に理解したのか、娘のことも噛まなくなった。


 気難しい性格なんだろう。

 信頼しきっていない相手は、何度あっていても、吠える。


 あまり会わないけど、なぜかうちの息子には吠えない。

 毎日会うのに、母や一緒に住んでいる姪には、いまだに吠えることがある。


 たぶん、猫を飼うようになって、母や姪が猫を構うから、そうなったんだろう。

 

 明らかな反抗期みたいな時期は過ぎたけど、ワン太は私と娘だけには、今日もかわいいアピールをするのだった。

  

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