EP10.「月夜に浮かぶ河を駆ける者」

  12:00 月川市メトロストリート

  天の川通路



「確かに月空に浮かぶ河って言ったら天の川だけど、そんなに簡単でいいのかな?」

グッタがため息のごとくじゃれ事を言う。確かにその通りかもしれない。今まで少し頭のひねった回答を求められることが多かったのにもかかわらず、最後だけはお題がそのまま答えになるなんて簡単なわけがない。恐らくは何か見落としているものがあるはず・・・。


「ところで、河を渡る者は何者なんだ?彦星じゃあるまいし」

ミナセが天井に書かれた天の川の模様を眺めながら何かを探している。どこをどう見渡しても天の川の銀河と、星を模した照明が存在するだけで、特段に何か変わったものはない。自分で天の川を渡るという回答だとしても、天井にあるのであればわたることもできない。


違う、月夜に浮かぶ?なぜ月限定なんだ?

月の夜に浮かぶ河・・・、河・・・何かが流れる場所・・・。


「これ、そもそも物理的に天空に浮かんでいるっているのが間違えじゃないのか?月夜に浮かび上がる、つまり周りから見てもひときわ目立つという意味での浮く、であれば、話は変わるし」


ミナセがどこか引っかかる話をする。だとすれば周りの景色から浮いてるもの、それも月夜であれば夜になれば目立つもの。


「これ、月川の夜景のことじゃないのか、月夜の河って夜景と月川を流れる更月川のことじゃないのか?」


偶々壁にあった構内地図を見ながら一つの仮説を立てる。


「仮に更月川を渡る者だとしたら、答えは・・・でもそうしたら地下街から外になってしまうか、更月川じゃなくて、単純に月川の地を走り渡る者、月川地下鉄じゃないのかな?この天の川通路だって中央駅と地駅を結ぶわけだし」


周辺案内図にある更月川に架かる一番近い橋、渡月新橋を指しながら、何度も頭をひねった回答を導きだす。


「別に減るもんじゃないし、それじゃ月川駅の方から言ってみるとするか」


クロポンが構内図とお題が表示されている手元のタブレットを交互に確認しながらそう指示を出す。




  ──2──


  12:10 月川市 メトロストリート

  ヨロズヤビル 地下2F


ARグラス上に表示された赤色の未探索の表示が気になり、目的地の月川駅に向かう前に天の川通路から、ヨロズヤビルの地下フロアへと立ち寄ることにした。ヨロズヤビルそのものは、よくある雑居ビルで地下街ともつながっている、都市部ではまあまああるごく普通のビルである一方、地下フロアは何所かしらから仕入れた物か分からない骨董品がよく集まる場所として、収集家の間では有名な場所でもあった。

その一方で、RPFの協賛施設としては加盟しておらず、今まで僕個人としては来る用事がなかったところである。


とりあえず一回りだけして何もなければ月川駅の改札の方に向かう事にして、商店ブーストの間にある通路を外から見まわすことにした。




地下商店街を半分ほど進んだところであった。ふと、とある店の前で足が止まる。店のショーウィンドには、RFSの主人公キャラクターが最終装備として手に入れる武器"ブラストアーツ"一分の一実寸大再現ディスプレイモデルが展示されていた。確かに一部のファン層からはコスプレ道具として人気があるのかもしれないが、その下にある値札の金額を見て、ちょっと欲しいかもという気持ちはすぐに消えた。


「・・・。確かにゲーム内に登場するアイテムを実際に再現したフィギアの一つ二つがあっても可笑しくはないが、ちょっと予算がすごいかなぁ」


"限定品につき売り切れ御免"と値札上部に赤枠で書かれた下にある7桁の金額表示を前に小言を吐く。


「これが未探索と強調表示して探索対象?ただのフィギアショップにしか見えないがまさか、フィギアを買えってことじゃないよな?」


グッタが財布をの中身を確認しながら店の中を覗こうとする。


「ん?これ看板が調査対象になってるな、お店の営業案内の看板」

そう言われてショーウィンドウの隣にある営業案内の看板に手を触れる。


[システム:アイテム"夢兵器のフィギア"を入手しました▽]



「アイテムが手に入るだけで何も起こらないな。仕方ない、説明文もAR撮影用のフィギアとしか書いてないし、先を急ぐか」

端末に表示された、"新しいアイテム"のお知らせタブを閉じて、先へと進む。

でも、確かに参加証として何か欲しいと思っていたので、これぐらいならいいのかもしれないな。



  ──3──

  12:30 月川市メトロストリート

  地下鉄月川駅 中央改札(北)付近


メトロストリートイベントの特設ブースに戻ってくる形となった僕たちは、タブレットに"イベントコンプリート 整理番号1001"のとの表記が出てきたので、受付スタッフに画面を見せてイベント完走処理をすることになった。


「お疲れ様でしたー。それではイベント参加中の腕章はこちらで回収となりますねー」

とスタッフに言われたので左腕につけていた腕章を外してスタッフの人に渡す。

それと引き換えにスタッフの人から一枚のハガキサイズの紙を貰う。


「それでは、完走記念のイベントグッズの申し込みについて軽く説明します。今回のイベントの完走者の中から抽選とはなりますが、公式グッズの先行配布があります。あくまでも試作品モニターという扱いなので、代金は不要ですが、抽選結果は実物発送をもってして発表となりますで、ご自身で住所とかの登録が必要になります。

裏面のQRコードを読み込んで頂くと、特設ページに飛びますので、もしご機能される場合は後でで結構ですので、登録をお願いします」


とスタッフの人は裏面のQRコードを指で刺しながらイベント完走特典、新製品テストユーザー募集のご案内とかかれたパンフレットを一人ずつ手渡してくれた。


「それと、アンケートもよかったらよろしくお願いします」

とアンケートページのQRコードが印刷された紙をクロポンに渡して、スタッフの人はブースの方に戻っていった。


少しは、高評価をつけて、次回以降も開催してくれることを期待してみようかな。


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