最終話 悪魔の王子は戦隊レッドを守りたい

 ゴーバン教団との決戦を終えた俺達。


 事後処理は大変だった。


 三月に入り、やっとひと段落だよ。


 他のヒーロー達からは、一年戦い抜いて漸くスタートだとか言われた。


 「当たり前でしょ、ヒーローは一生よ♪ 私達もこれから第二シーズンよ♪」

 「勇子ちゃん、休もうぜ? 明後日は君の誕生日なんだよ?」


 学校帰りのカフェ、窓側のボックス席で抹茶ラテを飲みつつ語り合う。


 「そうね、皆で雛祭りも兼ねてリアル雛壇作るんでしょ♪」

 「ああ、俺がお内裏様でね♪」


 勇子ちゃんは、コーラフラペチーノを味わいつつ俺に微笑みかける。


 いやあ、この太陽のような明るく可愛いらしい笑顔がありがたい。


笑顔フェチとしては、日本笑顔学会とか立ち上げたいね。


 そんな俺の一人ボケはともかく、無事に勇子ちゃんの誕生日までに敵の組織の一つを倒せて良かったよ。


 次の戦いが待っていようとも、雛祭りの日だけは平和に過ごしたい。


 勇子ちゃん当人にヒアリングして、俺が出せる予算内で彼女の誕生日プレゼントも買ったんだ。


 「進太郎、プレゼントも楽しみにしてるからね♪」

 「ああ、ヒアリングしたから欲しい物は確実にお届けだよ♪」

 「悪魔って契約は律儀よね」

 「家が人間フレンドリーなんだよ、他の奴らはド外道な事するし」

 「それはそうと誕生日のプレゼントと、ホワイトデーのお返しは別で頂戴ね♪」

 「わかってるよ、ホワイトデーは何が欲しいの?」

 「バイクとかは、高すぎるから進太郎の予算に合わせて考えておくわ♪」

 「うん、俺の財布に配慮してくれてありがとう♪」


 意思確認と予算の見積もりは大事だね。


俺の月の給料、まだ手取り三万円だし。


 カフェで他愛のない話をして楽しい一時を過ごし店を出る。


 再び通学路を歩いて俺達はお互いの家に帰る。


 「明後日は楽しみだな、休みだし♪」


 久しぶりに、まともに土日が休める。


 ヒーローって、何か土日に戦う事が多いんだよな。


 翌日、土曜の朝から家の呼び鈴が鳴る。


 「進太郎、遊びに行こ♪」

 「わかた、着替えるぜ♪」


 玄関を開けたら、ピンクのガーリーワンピース姿の勇子ちゃんがいた。


 俺はその場で魔法を使い、黒のジャケットとベージュパンツに着替えた。


 二人でおしゃれしてデートだ。


 「私って、やっぱりこう言う格好も似合うのかな?」

 「似合うよ、ボーイッシュなのも良いけどさ」

 「どっちの私が好き?」

 「そりゃあ、全部に決まってるだろ♪」

 「あんたって、欲張りだもんね」

 「傲慢、憤怒、強欲、怠惰、色欲、暴食、嫉妬と七罪は全部やってる」

 「それって、結局人間の構成要素よね?」

 「そうだね、反対の七つの美徳も合わせて」

 「私は、仁義八行の方が好みね♪」

 「八犬伝も戦隊だよねあれ?」

 「そうそう、宝玉持ってるのも私達と一緒ね♪」


 家を出て歩きながら駅へと向かう。


 特に約束したわけじゃないけれど、気軽に出かけられるのは家が近い幼馴染カップルのメリットだよな。


 「あ、懐かしい公園ね♪ ちょっと寄って行きましょう♪」

 「そうだね、俺達の始まりの場所だ♪」


 そんな思い出の公園に、クライム悪魔を追い込んで撃破したな。


 「思い出に黄昏れるなんてまだ早いと思ったけど、思い出すわね」

 「あれだよ、これまでのおさらい回だよ♪」


 ベンチに並んで座り、自然と勇子ちゃんの肩に手を回す。


 勇子ちゃんからのツッコミはない、受け入れてくれて嬉しい。


 「進太郎、腕長くなったわね」

 「勇子ちゃんもより可愛くなったよ♪」

 「言うようになったわよね、子山羊メンタルの癖に」

 「子山羊だから素直なんだよ、メ~メ~♪」

 「懐かれたら、面倒見るしかないわね♪」

 「愛してるよ、全部含めて♪」

 「それはこっちの台詞よ♪」


 お互いに自然に顔を近づけてキスをする。


 何か空の太陽が一周輝きを増した気がするのは、朝子さんかな?


 「……もう、朝子さんは気が早い!」

 「戦国時代なら俺達、結婚できる年だからね」

 「推し活とか現代ナイズされてるのに?」


 何と言うか、周囲が俺達を祝ってくれてる気がする。


 スマホには化太郎や花子さん達から、悪魔退治しておいたと連絡が来てた。


 「またこの公園に二人で来ようね♪」

 「進太郎がそうしたいって言うなら、仕方ないわね♪」


 うん、そうさせてもらうよ勇子ちゃんは親分でもあるし。


 公園を出てから、悪役令嬢は拳で世界を救いますと言うアニメ映画を見た。


 主人公の悪役令嬢と、ヒロインの騎士の少年の関係に既視感を覚えた。


 そして来たぜ日曜日。


 「皆揃ってるわね♪ ブチ上げて行くわよ~♪」

 「「お~~~~っ♪」」


 『今日の主役』と書かれたたすきを掛けた勇子ちゃんが叫ぶ。


 仲間達が揃い、赤星家のお庭で雛壇づくりだ。


 「まさか、勇子自身がお雛様になるなんてね」

 「良いじゃねえか、五月は鎧だな♪」


 ほむらさんと炎ノ助さんが見守る中、三段重ねの雛壇が組み上げられた。


 雪洞が南瓜なのはご愛敬。


 「我々が五人囃子でございますね♪」


 ザーマスが太鼓だ。


 「打楽器が多めでやすね?」


 大鼓その二はガンス。


 「私は小包なのだ♪」


 小包はフンガー。


 「笛はお任せ下さい♪」


 ギョリンは笛。


 「謡いは私です~♪」


 グー子さんがボーカルこと謡い、五人とも装束姿が決まってる。


 「三人官女は、私達であります♪」

 「伊賀から参りました♪」

 「良きハレの日です♪」


 エティ、藤林さん、朝子さんが三人官女だ。


 「お~い、酒を持って来たぞ~♪」

 「菱餅やヒナあられもあるわよ♪」


 家の祖父母もやって来た。


 「私達が、来た~~~っ!」

 「ただいま~♪」

 「だ~♪」


 勇子ちゃんのご両親とラー君も駆け込みで登場。


 「私達も来たわよ~♪」

 「休みが取れたよ♪」


 地面に魔法陣が現れて、家の両親もやって来た。


 赤星家と山羊原家の両家関係者が勢ぞろいした。


 「それじゃあ勇子ちゃん、俺達も変身しようか♪」

 「進太郎、笑ったら殴るからね?」

 「俺を信じてくれよそこは?」


 俺達も魔法で着替える。


 俺はハロウィンカボチャが描かれた、オリジナルの束帯。


 勇子ちゃんは綺麗な十二単でゴートランドの冠の姿になる。


 「進太郎、やっぱハロウィンと混ざってるわよあんた?」

 「カボチャの国の王子だから♪」


 俺と勇子ちゃんが最上段に、その下に三人官女と五人囃子。


 グー子さんが雛祭りの歌を歌い五人囃子が演奏する中で宴が始まった。


 「「勇子ちゃん、おめでとう~~~~っ♪」」


 演奏と歌が終われば、盛大に祝いの言葉を述べる。


 「ありがとう皆、進太郎♪」

 「おめでとう、勇子ちゃん♪ 綺麗だよ♪」

 「進太郎、格好つけすぎ!」


 感涙した勇子ちゃんの涙を俺が拭う。


 「勇子ちゃん、左手の薬指出して♪」

 「うん、頂戴♪」


 俺は懐から金に近い黄色い宝石、シトリンで出来た指輪を出して勇子ちゃんの左手の薬指に嵌めた。


 「ありがとう、進太郎♪」

 「愛してるよ、勇子ちゃん♪」

 「うん、私も♪ あんたの事は離さないからね♪」

 「俺もだよ♪」


 結婚にはまだ早いけれど、婚約するならできる。


 仲間達も家族も拍手で祝ってくれた。


 「「おめでとうございます~♪」」


 戦隊の仲間達からも祝いの言葉を貰う。


 「それじゃあ、ケーキとか食べましょう♪」

 「そうだね♪」


 それそれが雛壇から降り、魔法で着替える。


 雛祭りから誕生日パーティーにシフトだ。


 「私達はまだ、着替えなくて良いわよね♪」

 「そうだね、俺のお姫様♪」


 俺と勇子ちゃんは、お内裏様とお雛様の姿のままでガンスが運んで来たケーキを前にする。


 俺達の両手には勇子ちゃんの愛剣、マカイカリバーが握られていた。


 「ケーキも未来も切り開いて行くわよ、進太郎♪」

 「ああ、俺達は♪」

 「「互いが互いのヒーローだ♪」」


 二人で叫びケーキ入刀を行う。


 明るく可愛らし太陽のような笑顔の勇子ちゃん。


 俺はこれからも彼女を守って生きて行くぜ。


 「婚約はしたけれど、節度は守りなさいよね?」

 「ああ、君を失いたくないから誓うよ♪」

 「恋は世界を守りながらだからね♪」

 「ああ、君の悪魔として恋も愛も世界も未来も守る!」

 「そこはヒーローって言う所でしょ♪」

 「俺は悪魔の王子でヒーローだよ♪」


 俺は口に出して誓約の言葉を述べる。


 幼いころから誓い続けて、新たな誓いを結ぶ。


 俺は悪魔の王子として、この戦隊レッドを守って行くのは変わらない。


 ……永遠に愛し抜くよ、勇子ちゃん。


                    悪魔の王子は戦隊レッドを守りたい・完

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悪魔の王子は戦隊レッドを守りたい ムネミツ @yukinosita

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