第49話 クリスマスを防衛せよ! 前編

 「つ、疲れた~~~っ!」

 「俺もだよ、勇子ちゃん」


 俺と勇子ちゃんは教室で机に突っ伏していた。


 俺達だけではない、クラスの連中全員だ。


 十二月、学生には期末試験がある。


 それは六年生の高等専門学校である、ヒーロー高専も同じ。


 十二月はクリスマスや年末など、後半に悪の組織が活発化する傾向にある。


 そんな時期に試験で防衛戦力が減るのは愚策、学生も現場に出て経験を積め。


 教師も生徒も悪と戦えと言う方針で運営されているヒーロー高専では、十二月前半に授業そっちのけで筆記と実技双方の試験期間と定められていた。


 「ゴールドパンプキンオーの件で、座学の勉強を疎かにしてたのが仇になったわ」

 「いや、一応試験勉強したじゃん? 赤点取らないようにさ?」

「一応はね? 実技は楽勝だったけど、筆記が危なかったわ」

 「そうだね、筆記試験は暴力じゃ勝てないからね」


 かくして、試験と言う強敵を俺達マカイジャーチームは乗り越えたのであった。


 「で、土日は休みで来週から授業は全部実習?」


 勇子ちゃんが俺に聞いて来る。


 「そういう事、俺達と違い所属がない人は学校から指定された場所で実習」

 「日本はアメリカより楽勝だと、春まで思ってた自分が馬鹿だったわ」

 「でも、家は好待遇だから安心して♪」

 「そうね、ありがとう進太郎♪」

 「俺、勇子ちゃんの心身に加えて生活も守りたいから♪」

 「……まったく、春まで子山羊メンタルだったくせに」

 「それは勇子ちゃんが、俺を変えてくれたんだよ♪」

 「……馬鹿♪」

 「うん、馬鹿で良いよ~♪ メ~♪ メ~♪」

 

 勇子ちゃんのデレで疲れが吹きとんだわ♪


 男には愛するヒロインが必要だって、父上の言葉は正しかった。


 この愛を守る為なら、俺はいくらでも強くなってやる。


 愛は力だ、突っ伏している場合じゃねえ。


 「そうね、短い試験休みを楽しまなきゃね」

 「エージェント家族の冬映画、二人で見に行こう♪」

 「ポップコーンビッグサイズと、コーラも付けなさいよ♪」

 「スマホアプリで座席取った、任せてくれマイハニー♪」


 俺と勇子ちゃんは、試験休みの映画デートに向かうべく立ち上がる。


 試験は終わりもう放課後だ、誰にも俺達の恋路の邪魔はさせない。


 「あ~~~! お二人共、私を置いて何処へ~~~っ!」

 「勇子ちゃんと映画デートに行くんだよ!」

 「グー子さん、お土産はパンフレットあげるから!」


 ゴールドことグー子さんは、まだへばっていた。


 俺と勇子ちゃんは気力と体力を振り絞り、下校を目指す。


 あのまま残っていたら、どんな用事を押し付けられるかわからない。


 「学校脱出成功、このまま駅に向かいましょう!」

 「電車に乗ってから、勇子ちゃんの家に連絡入れねば!」

 「真面目か! ねえ、あんたの方が家に婿に来る?」

 「それは色々と、最後の手段で残しておきたい!」


 どうにか教師や他の生徒から用事を頼まれる事などなく、下校できた。


 俺達はギリギリで電車に乗り込んだ、空とか飛べるけど学割使わないと勿体ない。


 映画館に着くと勇子ちゃんは宣言通り、デカいポップコーンとコーラを買った。


 俺達はポップコーンを分け合い、映画デートを楽しみ英気を養った。


 「ふ~~~~っ♪ 少しだけ、試験疲れが取れたわ♪」

 「ああ、このまま何事もなく土日も休めれば良いね♪」


 悪党も、盆暮れ正月は仕事を休んで大人しくしてろってんだ。


 働き方改革はヒーローと悪党の双方の業界に必要だよ。


 「それじゃあ、帰るまでがデートと言う事でお手をどうぞ♪」

 「あんた、本当にそう言うキザな仕草が似合うようになったわね?」

 「俺、一応王子様で礼法とか習ったんだよ?」

 「カボチャパンツ姿の時でやってみて♪」

 「じゃあそっちもドレスだね♪ 魔界の城でパーティーだ♪」


 俺達は互いの手を取り、駅へと向かおうとした。


 「ちょっと、駅近の通りなのにリムジンでドリフトすんな!」

 「いや、何事だよ?」


 俺達の眼前でドリフトをかまして止まった、一台の黒いリムジン。


 危険運転を気にせずドアが開くと、満月寺さんが乗っていた。


 「お二人共、お迎えに上がりましたわ♪」

 「あかり、あんた空気読めない女でしょ?」

 「勇子ちゃん、多分仕事の話だよこれ?」

 「あら♪ お二人の庶民的な、映画デートは手出ししませんでしたでしょ♪」

 「ちょっと、拳で語り合わない? ポップコーンのカロリー燃やしたいから♪」

 「勇子ちゃん、クライアントは殴らないの!」


 俺は勇子ちゃんとリムジンに乗り込んだ。


 断る空気じゃないのは読めたからね。


 「セバスチャン、転移ゲート展開してくださる?」

 「行き先は、ゴールドパンプキン城前で宜しいですねお嬢様?」

 「ええ、お二人には例の城ロボで宇宙に出てきていただきたいので」


 満月寺さんが、タキシードを着た黒髪オールバックの若い運転手さんに命じる。


 彼から出て来た魔力からわかった、この運転手の人は魔術師だ。


 かくしてリムジンは次元を超えて突っ走り、俺達の基地の前で止まった。


 「では、宇宙でお待ちしておりますわ♪」


 リムジンで立ち去る満月寺さん。


 仕事の内容ぐらい、車内で聞かせてくれても良かったのに。


 変身して、ゴールドパンプキン城に入る。


 「お二人共、お待ちしておりました」

 「映画デート、いかがでした?」

 「私も誘って欲しかったです~!」

 「思春期でござんすね♪」

 「二人共、満月寺重工から依頼が来たのだ」

 「申し訳ございませんが、これから業務時間です」

 「二人のイチャイチャの波動は、感じ取ってましたよ♪」

 「宇宙へ出撃であります!」


 ブルーを筆頭に皆が出迎えてくれる。


 玉座の間には仲間達が全員変身して勢揃いしていた。


 「よし、総員配置に着いてくれ! 出陣だ!」

 「宇宙だろうがどんと来いよ!」


 城をゴールドパンプキンオーに変形符合体させて、空へと飛び上がる。


 空の上には魔法陣、陣の魔力から満月寺さんが術者だとわかっら。


 魔法陣にロボで突っ込めば、出た先は宇宙だった。


 ブラックハニワの時と同様に、ギガムーンライザーや巨大ヒーロー達もいた。


 『さて、お集りの皆様。 毎度の事ですが、地球の危機ですわ』


 俺達のコックピットにスクリーンが浮かび、満月寺さんが語りだす。


 巨大彗星怪獣エンヴィラーが地球へと迫っている。


 満月寺さんの予知夢を元に公的機関が観測した結果、該当する存在を発見。


 十二月二十四日には地球に到達する事が予測された。


 「リア充を憎む宇宙怪獣って、大迷惑だな」

 「嫉妬の力は恐ろしいわね」


 説明を聞いてげんなりする俺とレッド。


 宇宙怪獣が何でリア充を憎むのかはわからない。


 だが、悠長に話し合いなどできる相手ではないようだ。


 和解は無理、会話は通じないと思えと満月寺さんが告げる。


 『彗星のように敵を覆う嫉妬由来のマイナスエネルギーのバリヤーを破るには、強大な愛の力が必要ですの』


 だから俺達が呼ばれたのか、何か他の同業者もカップル参加が多い。


 「恥ずかしいけど、宇宙の平和の為なら頑張るわ!」

 「そうだね、ここで止めないとクリスマスも未来もない!」

 「イヴはあんたの誕生日でしょ、絶対お祝いするんだからね!」

 「あ、ありがとう! 感動した♪」


 レッドの言葉に仮面の下で感涙した俺。


 『はいはい、早速イチャイチャパワーを溜めて下さってますわね』 


 満月寺さんは呆れ顔だった、彼女にもいい相手が見つかって欲しい。


 のんびりと、依頼の説明を聞いている中でレーダーが敵の気配を察知する。


 空間が揺れて宇宙に黒い穴が開き、魚にも植物にも見える宇宙怪獣の群れが出現。


 「よし、総員戦闘開始まずは雑兵狩りだ!」

 「決めるわよ、レインボーバースト!」


 ヒーロー達が散開し、必殺の光線技をぶっぱなし始める。


 我らがゴールドパンプキンオーも、全身から虹色の光線を発射して砲撃を開始。


 宇宙怪獣のトループを、撃破して行く。


 こうしてヒーロー達のイチャラブパワーで宇宙を守ると言う、クリスマス防衛作戦が始まった。

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