第45話 十人目、マカイオレンジ降臨

 芋煮会場に降臨された神様。


 自分でも何を言っているのかわからない。


 「はは~っ!」


 俺は即座に土下座して叩頭した。


 「ちょ、進太郎! あんた、こんな所で!」

 「いやいや、神様だよ? 頭が高いでしょ、浄化とかされたくねえよ!」


 勇子ちゃんが止めるが、俺は正直に神様の類は怖い!


 畏敬の精神は大事よ? 


 俺、半分魔族だから聖なる属性の攻撃はダメージ無効じゃなくて半減なんだ。


 「恐れながら名乗らせていただきます、私は進太郎・山羊原・ゴートランドと」

 「ぞ、存じております。 面を上げなさい、立ち上がって下さい!」

 「ははっ、それでは失礼いたします!」


 許可は得たので立ち上がる。


 「進太郎君、あなたの事は子供の頃から知っております」

 「進太郎、引くわ」

 「いや、勇子ちゃんが恐れ多すぎなんだよ!」


 白い着物に赤袴の美人な巫女さんと並んで俺を見る勇子ちゃん。


 どことなく、巫女さんは勇子ちゃんに似ている気がした。


 「神様、進太郎が子山羊メンタルでごめんね♪」

 「勇子、彼をからかってはいけませんよ?」

 「は~い。 進太郎、この人が私の家の神様よ♪」

 「詳しい神名などは後程、地上では朝子さんと呼んで下さいね♪」


 黒髪なのだが、色が時折金に変わったりする朝子さん。


 注意して見ると、たまに全身から光と火の気が出てるのを感じる。


 「進太郎君、私の顔色は窺わなくて良いのですよ?」

 「いえ、失礼いたしました」

 「そうだ、進太郎が神様にお供えしたいって♪」

 「は、はい! 勇子ちゃん共々俺達も助けて貰ってるので、お礼を!」

 「ありがたく頂戴いたします♪ ですが進太郎君? 男児なら、例え神が相手でもシャキッとしましょうね♪」

 「き、肝に銘じます」


 朝子さんも加わり、三人で芋煮会を巡る事となった。


 「勇子、私は後ろから見守りますから進太郎君と腕を組みなさい」

 「……ふえっ! 神様、それは不意打ち!」

 「私に、あなた達のイチャイチャ空気を奉納しなさい♪」

 「え? 何か、神様がありがたい申し出をしてくれてる?」

 「もう! 恥ずかしい! し、仕方ないんだからね?」


 朝子さんと並んでいた勇子ちゃんがこっちに来た。


 恥ずかしがりつつも、勇子ちゃんが俺と腕を組んでくれる。


 何故か周囲の人達は、俺達を気にしない。


 あ、ありがてえご利益だ神様。


 「拝まなくて良いですから、二人のデートを見守らせて下さいね♪」


 何か、朝子さんが虚空からビデオカメラ取り出して回し出した。


 何だろう、この暖かな感覚は?


 「進太郎、あの神様は私のご先祖様でもあるの」

 「ああ、ご先祖様か♪ ……って、マジで?」

 「マジです、あなたのご先祖様とも面識がありますよ♪」

 「ふぁっ!」


 とんでもない事を聞かされた。


 「朝子さん、もしかして宝玉の十勇士?」

 「ええ、今ではそう伝わっているようですね♪」

 「進太郎、十人目の仲間ができたわ♪」

 「ごめん、ちょっと整理がおいつかない」


 飲食コーナーの席で、俺達三人が芋煮を味わいながら話し合う。


 降臨された神様、朝子さんが伝説の戦士って一気に情報が来たよ。


 イラストとご本人のデザインが違うのはあれか、アニメと実写で違う感じか?


 「まあ、困惑するのは仕方ありませんが心もとなさもご先祖譲りですね」

 「進太郎のご先祖様も、子山羊メンタルだったの?」

 「ええ、覚悟が決まった時の爆発力も受け継いだようですがまだまだかなと♪」


 厳しい評価を戴いてしまった。


 「なので、稽古を付けましょう♪ 勇子、その道具に触れさせて下さい」

 「うん、どうするの?」

 「私も同じ物を作ります♪」


 朝子さんが、勇子ちゃんのマカイチェンジャーに手を触れる。


 すると彼女の左手首にも、マカイチェンジャーが装着された。


 「二人共、しばし現世から移動しますよマカイチェンジ♪」


 朝子さんが変身し、オレンジのヒーロースーツとマスクに身を包む。


 「コピーで変身か!」

 「進太郎、朝子さんの頭の上に光の輪が浮かんでる!」


 マカイオレンジと言うべき戦士になった朝子さんの頭上に、金環が発生。


 俺達三人は、光の輪に吸い込まれ現実とは違う空間に移動していた。


 青い空の下、採石場みたいな大地。


 「進太郎君、勇子を守りたいなら弱点を越えて光の力を身に着けなさい♪」

 「滅茶苦茶、闇属性なんですが俺は?」

 「人間の血があなたを光へと導いてくれます、これをあなたに授けましょう」

 「これは、石と言うか岩の剣?」

 「進太郎? あんた、こんな事になってるけど大丈夫?」


 俺とオレンジの会話に、勇子ちゃんが混ざる。


 「それは神剣の卵のような物です。 あなたが光に目覚めた時、道を切り開く新たな力となりましょう」

 「おっしゃ、やってやるぜ!」

 「私は何を手伝えば良いの? 進太郎の力になりたい!」

 「勇子ちゃん、ありがとう♪」


 俺は岩の剣を受け取り、勇子ちゃんに礼を言う。


 「勇子は、進太郎君を傍で見守り応援してあげて♪」

 「わかった、頑張ってね進太郎?」

 「お、おう! 俺だって男の端くれだから頑張るよ♪」


 どんな試練だろうが、勇子ちゃんがいるなら負けてられねえ!


 俺は剣を両手で握ってみると、一気に体から力が抜けて膝をついた。


 「ぐはっ! な、なんだこりゃ? 魔力が抜かれた?」


 剣を地面に突き立てて立ち上がる、角の感触がない。


 「その剣は魔の力を封じます、人の身と魂で剣を振るいあの岩を断つのです」


 不意を突かれたが、剣を中段に構えて現れた岩へと向き合う。


 「頑張れ、進太郎!」


 勇子ちゃんの応援が聞こえる、頑張るよ。


 臍の下に力を入れて、岩と向き合う。


 ただの白い岩だったのが、ゴーレムっぽい人型の化け物に変形した。


 「黙って斬られてやる気はないってか? その方が良心が痛まなくて良い!」


 剣に気力を込めて踏み込み、まずは真っ向から打ち込む。


 西洋剣は習ったけど、なんか違う気がしたから剣道もどきで行く。


 岩の化け物は、こっちの攻撃を腕でガードする。


 硬い、けど刃をぶつけた時に剣が光った気がしたぞ?


 「進太郎、避けて!」

 「無理、受けるっ!」


 悪魔の力封じられた百パーセント人間モードじゃ、そんなに跳べねえ!


 敵のパンチを、剣を盾代わりに受けて飛ばされたら後ろ回転受け身っ!


 「くっそ、生身で石だらけの所で受け身とか痛すぎる」


 ぼやきながら立ち上がる、剣も失くしてない。


 「進太郎! 神様、回復魔法使わせて!」

 「いけません、これは彼には心身と剣を、あなたには心を鍛える稽古です」


 勇子ちゃんを止める朝子さん、言ってくれるよ理屈はわかるが。


 「グアアアアアアッ!」


 敵が雄叫び上げて襲って来やがった。


 「ん、何か胸があったかい? あぶねえっ!」


 寝転がって相手の突進を避けて立ち上がる。


 何と言うか、体から魔力と違う感じがしてきた。


 片膝立ちで脇構えに岩の剣を構えて意識を向ける。


 何か、剣から光が出ては消えてと点滅し出した。


 「行くぜ地味な嫌がらせ、脛斬りっ!」


 ガキンと音を鳴らして岩野郎の脛を打つ。


 「進太郎、がんばれ! あんた、私のヒーローなんでしょ!」


 勇子ちゃんの応援に胸が高鳴り、剣が光る。


 「おっしゃあ、元気出た!」


 俺は立ち上がって駆け出し、剣で岩野郎の体を打つ。


 勇子ちゃんの応援や俺の胸の中の光が火、岩野郎は金槌と金床だ。


 岩の化け物と打ち合って、自分で鍛造しろってか?


 「打って来いよ、返り討ちだ!」


 今度は敵の攻撃を受けるのではなく、攻撃に攻撃をぶつけに行く。


 剣と敵の体がぶつかり合うたびに、光が生まれる。


 必死こいて自分から転がり回り、相手の攻撃を受けないように動く。


 「ああ、何かそろそろ行ける気がする♪」


 岩の剣がなんだか、徐々に変化しているように感じられた。


 「よっし、最後は真っ向から行くぜ!」


 こっちが突っ込めば、相手も拳を繰り出して来る。


 岩の剣と岩の拳がぶつかり合った時、まばゆい光が放たれた。


 ぶつかり合った衝撃で吹き飛ばされた俺は、マカイオレンジにキャッチされる。


 岩の化け物、ぶつかった時に役目を終えたのか姿が消えていた。


 「……進太郎、あんたの剣が出来てるわ♪」

 「ああ、やったぜ♪ あ痛たったたっ!」


 七支刀と呼ばれる、刀身に鉤状の刃が六個付いた黄金の剣を俺は手に入れた。


 「良くやりましたね、進太郎君♪」

 「進太郎、回復魔法かけるからじっとしてなさいよ?」


 俺は試練を乗り越えたご褒美で、勇子ちゃんに膝枕をされつつ回復魔法の光を当てられたのであった。

 

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