第37話 演劇祭攻防戦 終劇

 「僧侶、魔法使い、戦士、盗賊、クエストチェンジだ!」

 「はっはっは、余と魔王軍は寛大だ変身するまで待ってやる♪」

 「余裕ぶって、雑魚雑魚って言ってやる!」

 「魔王のお宝、ぶんどってやるぜ♪」

 「魔王なんかに負けません!」

 「力持ち舐めんなよ、魔王軍!」


 俺が演じる魔王クロヤギとモブ役、勇子ちゃん演じる勇者レッドとRPGのジョブの衣装を着たクエストジャーの面々が向き合い台詞を言う。


 変身バンクシーンなので、俺達は舞台裏へと引っ込む。


 勇子ちゃん達は、五色のカラーボールを持った手を突き出して叫ぶ。


 同時にスモークが発生。


 RPGの勇者パーティーっぽさを持つ仮面とヒーロー戦隊のスーツへと変わる。


 「俺が勇者だ、クエストレッド♪」


 勇子ちゃんが叫ぶ、懐かしいノリだな。


 「僧侶が癒します、クエストブルー!」


 女子のクラス委員、佐藤さん。


 「戦士が守る、クエストイエロー!」


 森田君、パワータイプ。


 「盗賊が盗む、クエストグリーン」


 浜野君、スピード自慢。


 「魔法使いが煽ってあげる♪ クエストピンク♪」


 メスガキ属性の河合さん、タレント業もしているらしい。


 「「RPG戦隊クエストジャー!」」


 全員が同時に名乗りを上げる、ここで俺達悪役組が再登場。


 「ハッハッハ♪ 見事な名乗りだ勇者ども、次はこちらのターンだ♪」


 俺が大仰に見得を切るのを合図に、手下役の生徒達が動き出し殺陣が開始。


 舞台の床が光の線で区切られて升目になる。


 TRPGと言うアナログゲームを参考にした演出だ。


 その中に、戦闘では将棋のようにマスの上のコマを動かして戦う物がある。


 軍隊の兵棋演習へいぎえんしゅうみたいなもんかと稽古の時は納得した。


 勇者も魔王側も、コマのように升目を移動。


 「よし、ゴブリンに攻撃だ!」


 イエローが小道具の戦斧を振るう演技をすれば、倒されたゴブリン役が舞台の裏へと転がって移動して行く。


 「おのれ、次は余の行動値で手番だ~♪」

 「スキル発動、割り込みアタック!」

 「何だと、kのチートスキル持ちめ!」

 「これぞ勇者の力だ!」


 勇子ちゃんと俺が同じ升目に入って来て互いに台詞を叫び合う。


 続けざまに、彼女が小道具の剣をズバッ振るえば俺がやられる演技でうずくまる。


 「やったわ、や~い魔王のザ~コ♪ ザ~コ♪」

 「ぐはっ、余のメンタルにダメージが!」


 く、演技とはいえメスガキめ!


 「今回は、回復する仕事がありませんでしたね♪」

 「さ~て、こいつはどんなドロップ品があるかな♪」


 ブルーとグリーンは余裕の演技。


 「ええい、今日の所は退いてやる次は決戦だ!」

 「ボス戦の魔王様は強いからな~!」


 捨て台詞を吐く俺と、生き残った敵役。


 「しまった、行動値の順番で取り逃がした!」


 グリーンが悔しがる、盗賊なのに遅い設定らしい。


 「経験値と金を置いて行け~っ!」

 「鬼、悪魔、勇者パ~ティ~!」


 レッドに言われて、小道具の白い銭袋を去り際に落とす。


 情けなく逃げ出す魔王の俺とモブの敵の悪役組。


 舞台裏に下がってまずは一息。


 「ふう、少し休めるな」


 俺は台本を見て流れを確認する。


 何か、出番増えてない? 


 いつの間にか俺の役柄に、勇者の親友の王子と言うのが追加されていた。


 しかも出番が近い、次の出番はこの後の勇者が思い出を回想するシーンだ。


 俺は覚悟を決め、オレンジのカボチャパンツに黒の王子服姿に変身した。


 「やあ王子、どうして落ち込んでるんだい♪」

 「レッドか、君は良いよな剣も強くて人気者でさ」

 「何だよ、また社交界でお姫様にいじめられたのか?」

 「隣の国のメスガキ姫が、僕の事ザコヤギ王子っていじめるんだよ~!」

 「王子はメンタルが子山羊だからな♪」

 「レッドもひどいよ!」

 「大丈夫だよ、俺が王子の事はずっと守るから♪」

 「嬉しいけど悔しいよ、僕もおとぎ話の魔王みたいに強ければ!」


 俺と勇子ちゃん、それぞれが演じる勇者と王子の二人語りのシーン。


 俺が王子様ルックで出て来たら、母上がスタンディングオベーションした。


 「王子の馬鹿、意気地なしっ! 男だったら勇者を目指せよ!」

 「ええ、でも勇者って一人しかなれないよ!」

 「俺と王子で勇者になるんだよ、気合い入れて剣の稽古だ!」

 「え~~っ! 畑耕す方が良いよ~~っ!」

 「逃げるな~~っ!」


 勇子ちゃんに追い回されて俺だけが退場。


 『これが勇者と魔王の秘密、この後古代の呪いにより魔王になってしまった王子を助けるためにレッドは勇者となったのだ』


 腐女子がナレーションを入れる、ストロングスタイルな話の持って行き方だな。


 「待っていてくれ王子、俺が必ず助け出す!」


 舞台に残った勇子ちゃんが演じる勇者、拳を握り叫ぶ。


 俺は舞台裏に戻ると即効で、魔王の衣装に変化し直した。


 やっちまったよ、あのカボチャパンツ姿は晒したくなかったのに。


 どうにかして、クラスの連中の記録と記憶から抹消できないかな?


 「カボチャパンツ、マジ王子~~♪」

 「魔王、ナイス演技じゃんウケたよ~♪」

 「魔王の奴、家ではカボチャパンツなんじゃね♪」


 ぐはっ! 早速、クラスの奴らから言われ出したよチクショウめ!


 いいさ、俺は気にしない俺はゴートランドの王子だから!


 台本のソフトBL展開も、相手が勇子ちゃんである以上問題ない。


 俺はこのまま役を演じきれば良いだけ。


 だが、俺達が演劇に勤しんでいる間でも事件は待ってはくれなかった。


 『緊急事態です、奥多摩に巨大怪獣が出現! 学園に出動要請が出ました!』


 校内のスピーカーからアナウンスが流れる。


 俺の手の甲の魔王印が光り、勇子ちゃんが戦いたがっているのが伝わった。


 ならば、俺のやる事は決まりだ。


 俺は舞台へと飛び出す。


 「勇者よ、貴様を我の物としてくれる!」

 「上等だ魔王、何処だろうと相手になってやる!」

 

 出番を無視した俺は勇子ちゃんをお姫様抱っこで攫い空へと飛び去った。


 『こうして、勇者と魔王は駆け落ちし世界に平和が訪れました♪』


 部隊の周辺に配置した使い魔が音声を拾う。


 何か、拍手喝采で大ウケしてる感じに終わってた。


 俺達は空の上でデーモンナイトとマカイレッドに変身する。


 「じゃあ次は、怪獣退治と行きましょうか?」

 「ああ、パンプキンオーを呼ぼう」


 俺達は合体済みのパンプキンオーを召喚、二人で乗り込み奥多摩の山中へ着陸。


 地面に大穴が開いているなど、周囲の自然が荒れていた。


 「さあ、ぶっとばすわよ♪」

 「ああ、仲間達には置いて来て悪いが暴れよう♪」


 二人で機体を動かし、白い鋭利な結晶を生やしたワニっぽい怪獣と向き合う。


 怪獣が全身の結晶体から電撃を放出して来る。


 「魔力フィールド展開!」


 俺が機体を操作し、黒いエネルギーのバリヤーを期待に展開する。


 こちらがフィールドを展開する前に飛んで来た分は、機体装甲表面に当たった。


 「ちいっ! まだまだ平気よね?」

 「勿論だよ♪」

 

 俺達が機体を突進させて怪獣とぶつかり合い、相手の方を弾き飛ばす。


 「ナイト、敵の足を止めて!」

 「良し、パンプキンクナイシュート!」


 パンプキンオーの両膝から飛び出した巨大苦無をキャッチして、怪獣の足へ投擲。


 「ギャオオオ~ン!」


 俺達が投げた苦無が、怪獣の両足を貫き大地へと縫い付ける。


 怪獣は起き上がろうともがくが、起き上がれない。


 「それじゃあ、止めと行きますか♪」

 「決めましょう♪」

 「「パンプキンファイヤーーーッ!」」


 二人で叫びながらコンソロールのグリップの引き金を引く。


 鎧武者風巨大ロボの胴体から真紅の熱光線が発射され、怪獣の体を焼き尽くす。


 「さて、それじゃあ戻ろうか」

 「そうね、クラスの皆に色々言われそうだけど」

 「俺も同罪だから安心してくれ、マイハニー♪」

 「……まったく、馬鹿♪」


 俺とレッドは機体の中でいちゃつくと、学校へと帰還した。


 「「お帰り~♪」」


 帰ってきたら、皆に笑顔で出向えられた。


 「ちょっと、どうしたの?」

 「劇は終わったはずじゃあ?」


 俺と勇子ちゃんは驚いた。


 「私達のお芝居、アンコール賞に決まりました♪」


 脚本担当の腐女子が笑顔で叫ぶ。


 「明日の振り替え休日なしで、台本通りの完全版の公演するから♪」


 メスガキ魔法使い役の河合さんが告げる。


 「お二人には、キスシーンまで演じ切ってもらいますからね♪」

 「何なら、魔王と男勇者の結婚式エンドは如何でしょうか♪」


 僧侶役の佐藤さんがとんでもない事を言い出し、脚本担当が乗った。


 こうして、俺達の振り替え休日は消えて演劇からは逃げられなくなった。

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