第36話  演劇祭攻防戦 開幕

 そして演劇祭の日がやって来た。


 他のクラスや上級生がどんな舞台を演じるのか?


 自分達も演じ、観劇してと俺としては楽しい行事だ。


 「進太郎の悪役、楽しみにしてるぞ♪」

 「録画もするからね♪」

 「楽しみだのう香織さん♪」

 「ええ、赤星さんの所も息子さん達が一時帰国されるそうよ♪」


 今朝の食卓は、久しぶりに家族全員が揃ったよ。


 「メリッサ、今日も可愛いよ♪」

 「秀君は、デーモンチェック♪ ちょっとお疲れ? デーモンチャージする?」

 「いや、息子の前だからね?」

 「じゃあ、ハグだけ~♪」


 俺の目の前で両親がいちゃつく。


 「香織さん、こっちもハグしようか♪」

 「ええ、喜んで♪」


 祖父ちゃん達も朝からいちゃつき出した。


堂々とやれるのは羨ましいな。


 朝飯は久しぶりに母上が作った目玉焼きとサラダを飯とみそ汁で食う。


 「母上、何故にメイド服?」

 「秀君の好みで~す♪」

 「メイド服はヴィクトリアンが一番かな、二番手は和装」

 

 ヤベえ、父上の好みが俺と一緒だ。


 好みって遺伝するんだな。


 一家団欒を味わい、俺は制服に着替えて学校へと向かった。


 「おはよう、進太郎」

 「おはよう、そちらも似たような状況?」

 「そう言う事、こっぱずかしいわ!」

 「俺らもそうなるんだよ」

 「慎みも大事よ?」

 「うん、そうだね我が伴侶」

 「劇で思い切り叩くわよ?」

 「アドリブは止めよう」


 お向かいの家から、制服姿で現れた勇子ちゃんと合流。


 流れるように彼女をリフトして、俺は翼を広げて青空へと飛び上がった。


 校内に着地して靴を履き替えて教室へ、出席を取ってから準備の開始だ。


 「お、魔王と勇者が来たぞ♪」

 「談合は駄目だよ~♪」

 「脚本、今から書き直しましょうか?」


 ノリの良いクラスメイト達が囃し立てる。


 「ハッピーエンドにしてやるわ♪」

 「赤星さん、男らしいです♪」

 「BLよ、BL♪ 正義の勇者と悪の魔王のBL♪」


 女子の一部が俺達を見て何か言い出したよ。


 「おい、人の嫁を勝手にTSさせるな!」

 「あんたも学校で、嫁とか言うな!」

 「痛い、酷いよ勇子ちゃん!」


 勇子ちゃんにはたかれた、酷い!



 俺と魔法で男装の勇者に変身した勇子ちゃんが並ぶ。


 特に男装の勇子ちゃんを見て、クラスの一部の婦女子がBLの妄想を捗らせた。


 確かに、男装した勇子ちゃんって赤毛のイケメン勇者なんだよな。


 小学生時代も、山猿とか言われつつバレンタインで一番チョコ貰ってたし。


 「何処の学校にも、ヤバいのはいたのね?」

 「勇子ちゃんと俺の関係は誰にも邪魔はさせん!」


 つい体が動いて、クラスの面々の前で勇子ちゃんを抱きしめてしまった俺。


 教室中に黄色い歓声が上がる。


 「山羊原君、魔王の姿になって勇者のポーズをお願いします!」


 カメラを構える女子が出て来た、ヤバいなこれは。


 「進太郎、諦めて撮影させてあげましょう?」

 「え、良いの?」

 「私達は今は役者、あんたも魔法で衣装に着替えなさい♪」

 「勇子ちゃんが言うなら、俺も付き合うよ」


 仕方なく俺も、魔界でメイドのヴィクトリアが選んだ衣装に魔法で着替える。


 実家が魔王なんだから、それらしい衣装あるでしょとか言われたんだ。


 いや、実際に有り余っているから困るんだよ。


 俺の魔界での正装が、南瓜パンツの王子服なのはクラスの奴らには隠してる。


 スタイリストのヴィクトリアにも、カボチャパンツ以外でと頼んだ結果がこれ。


 襟に黒いファーが付いたマントの下に黒のサーコートにロングブーツと黒一色。


 素顔で悪魔化してるので角は伸び、耳も尖り牙が生えて顔の輪郭が変わる。


 初めてクラスの連中に鎧無しで、悪魔化した自分の姿を見せたよ。


 「やはりこれは魔王と勇者が結ばれるBLエンディングに書き直します!」

 「BL風に二人が絡んでるポスター、三百枚プリントしたよ!」


 脚本担当の女子が叫び、宣伝担当の女子が大量のポスターを印刷。


 女子達がヒーローの能力を無駄遣いしだした。


 男子は、女子達の勢いに屈服していた。


 RPG戦隊クエストジャーは、ソフトBL路線に変更された。


 担任の青山先生は、生徒達の自主性に任せた。


 屋外シアターに移動した俺達は、運び込んでいたセットの組み立てる。


 俺は使い魔の蝙蝠達をドローンカメラ代わりに空へ飛ばす。


 「おお、あいつ本当に魔王みたいだな」

 「みたいじゃなくて、リアル魔王だよ悪魔だし」

 「何もない所から蝙蝠出すとか、初めて見た」


 俺の行動を見た面々が騒ぐ。


 学校で普段使わない能力を見せたら驚かれたよ。


 このまま平和に行けば良いな。


 と思ったが、蝙蝠の一匹が事件を探知した。


 「ヤバいな、近くで事件が起きてるから行って来る!」

 「私も行くわ!」


 俺は自然に勇子ちゃんの手を取り、二人で変身して空へ飛び立つ。


 「ちょ、そこは変身しないでお姫様だっこで飛んで行って~!」

 「何であの二人、サラリと絡んでるの~♪」

 「描かなきゃ、冬コミには間に合う!」

 「二人共、開演までに戻って来いよ~っ!」


 地上で腐女子とか騒いでるが気にしない。


 現場は市内の病院の駐車場、すでに一人のヒーローが交戦していた。


 「うおおおっ! バーンスマッシュ!」


 真赤な全身タイツ姿で、燃える拳を灰色のミイラに振るう戦士。


 「家のパパが危ない! マカイカリバー!」


 マカイレッドが戦士をパパと呼び、敵の奇襲に割り込む。


 「ファイヤーガーディアン、どうしたんですか?」


 俺もデーモンホーを振るい、ミイラ達を葬りつつ未来の義父へ尋ねる。


 学校に俺達の部隊を見に来るはずでは?


 「すまん、ママが産気づいたので先に病院へ運んだらいつの間にかだ!」

 「おめでたい時に、無粋な輩ですね」

 「娘夫婦の晴れ舞台も楽しみだってのに、許せん!」

 「こいつら、パピルスの戦闘員よ! 怪人はナイトが捜して倒して!」

 「任せろ、デーモンチェック!」


 エジプトから来た悪の組織、パピルスが何故この街に?


 理由がわからないが、倒さねば!


 病院の屋上に怪人を発見。


 俺は飛び上がり、コガネムシの怪人を敵自信の影で縛り上げる。


 「病院に虫は不衛生だ、何を企んでいる?」

 「ギギギッ! 今日ここで生まれるアメンの御子を殺しに来た!」

 「そうか、潰れて死ね! デーモンホールド!」


 デ-モンバインドで拘束したコガネムシ怪人が語る。


 お恐らく自分ッチの敵対存在の排除だろう。


 怪人への影の縛りを強めて、敵の全身の関節を破壊して倒すと俺は地上へと戻る。


 「怪人は倒しました、病院内にも周囲にも敵はいません」


  勇子ちゃんのお父さん、変身中だからファイヤーガーディアンに報告する。


 「そう言うわけでマカイレッドにデーモンナイト、パパはママに付き添う」

 「パパ、進太郎のママが録画してくれるから楽しみにね♪」

 「良し、解決に十分だ戻ろう♪」

 「じゃあ急いで飛ばして♪」

 

 俺はマカイレッドを抱きかかえて空を飛び、学校へと戻った。


 「まったく、好事魔が多しとは良く言うぜ」

 「楽しい時が油断時って奴よね、迷惑だけど」

 「元気で生まれてくると良いね?」

 「私の弟だもん、当然よ♪」


 空の上で語りつつ舞台へと戻る。


 「お帰り、台本読んでおいて♪」

 「ああ、マジで書き直したの?」

 「BL好きな子って多いわよね?」


 戻ってきたら、クラスメイトに新しい台本を渡された俺達。


 ざっくりと台本を読み直す俺達、概ね内容は変わらずだった。


 「えっと、魔王クロヤギとクエストレッドの口づけにより呪いが解けて?」

 「ちょっとこれ、私からキスする流れじゃない!」

 「真実の愛に目覚めた王子と勇者は、二人で新天地へと旅立つ?」


 ソフトBLとか、俺には良くわからなかった。


 「進太郎、こっち向きなさい!」

 「……んっ!」


 彼女の言葉に従うと、俺は勇子ちゃんと口づけを交わしていた。


 「役に入る前に、私自身としてあんたとしたかったから」

 「俺も幸せだよ、本番も任せてくれ♪」

 「人様にお見せできる芝居をしなさいよ?」

 「ああ、レーティングは守る♪」


 絆を結びあった俺達、いよいよ演劇の開始だ。

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