第32話 分校のヒーロー

 「結局、優勝はならずだったね」

 「うん、来年は勝つわよ!」

 「来年はもう新人王戦は出られないよ」

 「そっか、ぐぬぬ~っ!」


 学校の教室でうなだれる俺達。


 奇跡的にも死亡者はゼロで解決できたあの事件の後。


 会場では俺達の活動がライブ中継されていたらしい。


 帰還後に再開した新人王決定戦。


 疲れもあり、試合の結果は俺も勇子ちゃんも三位だった。


 二日目は何事もなく、ライブやらホームラン競争やらで盛り上がった。


 俺達が手に入れた、ベストファイト賞の十万円のうち半分は家に入れた。


 「二人共おめでとう♪」

 「テレビ見たよ~♪」

 「ああ、ありがとう」

 「はいはい、どういたしまして」


 放送を見ていたクラスの面々からはお祝いを言われた。


 中にはお台場の事件で救助にあたっていたのもいたらしい。


 「魔王達のロボのおかげで助かったぜ、ありがとな♪」

 「ああ、そっちも人命救助お疲れ様」

 「おう、一緒に戦う事があれば宜しくな♪」


 そう言って離れて行く、短い茶髪の男子生徒。


 クラスの面子とも少しは関係が良くなれたかな?


 「高専だからクラスは変わらないのよね?」

 「ああ、転科とか他の分校へ転校とかしなければね」

 「他にもあるんだっけ?」

 「北は札幌校、西は三重校で南に福岡校」

 「何かいずれ、他の連中ともどっかで出会いそうね?」

 「どんな生徒達がいるのか出会う時が楽しみだね」


 何かフラグが立った気がしたが、まあ何とかなるだろう。


 一応、同じ陣営だし実戦で敵対とかはしないと良いなあ。


 スポーツとか競技での対決なら良いけどね。


 そんな事を言っていた翌日。


 「今日から一週間の間、分校同士の交流で伊勢にある三重校から来た藤林さんだ」

 「藤林みさきです、宜しくお願いします♪」


 伊勢にある西の三重分校から、交換編入の子が来た。


 「席は赤星さんの前だね、それじゃあHRを始めよう」


 担任の青山先生が藤林さんの席を決める。


 「宜しくお願いしますね、赤星さんと山羊原君♪」


 小柄で天然パーマに、グルグル眼鏡の女子生徒が俺達に微笑んだ。


 「宜しく、ニンジャネットコム関係の人でしょ?」

 「ああ、伊賀の三忍の藤林家か?」

 「はい、その藤林です♪」


 お世話になっている、伊賀の人が来たのであった。


 「早い、流石忍者♪」

 「そちらこそ! どうして分身してるのに見切れるんですか!」

 「心眼って奴よ♪」


 体育館での戦闘技術実習の授業。


 全員で灰色のスーツを着て、剣技の模擬戦。


 藤林さんは忍者らしく素早く攻めていた。


 勇子ちゃんは、相手を熱源で見て対応してる。


 「行くぞ魔王!」

 「こっちこそ!」


 俺もクラスの男子、竜胆りんどう君と剣を交える。


 陸上五種競技をモデルにしたスーツの装備は片手剣と拳銃。


 銃は使用禁止で装備召喚出来ず、剣のみでの対決。


 剣を使う悪党が多い、刀剣はエネルギーを伝達しやすい。


 そんな理由で、家の学校では剣術教育に力を入れていた。


 一年の内はどれかに絞らず色んな劍を学べと、今日は片手剣の日だ。


 竜胆君は片手剣だと言うのに、両手持ちで竹刀の感覚で振り回す。


 わかる、俺もザーマスに西洋風の魔界剣術習った時も同じ事してた。


 日本は刀振る文化の国だよな。


 俺は相手の剣を受けずに避けながら突きで返す。


 一回受けて見たら一撃が重かったんだ。


 洋の東西問わず刀も剣も、切れるし突ける。


 どう戦うかはその人次第だな。


 対決の結果はドロー判定。


 胴を切った俺と面を切った彼の相打ち。


 「やっぱ、片手剣より刀の方が良い!」

 「それに関しては同意するよ」

 「じゃあ今度は、普通に竹刀でやろうぜ」

 「わかった、いずれね♪」


 そんな事を言い合い、お互い次の相手と模擬戦に入った。


 「で、何か裏があるの? 話なら聞くわよ?」

 「いや、ざくばらんだな?」

 「あの、裏とかないですよ忍者ですけど!」


 昼休み、学食のテラス席で藤林さんも交えて三人で食事。


 勇子ちゃんはカレー、俺は味噌ラーメン、藤林さんは天ぷらうどん。


 勇子ちゃんがいきなり言葉で、藤林さんに斬りかかった。


 「ごめんね、俺も何か裏があると思ってた」

 「山羊原君もですか? そりゃ、お二人は父の会社の取引先ですけど?」

 「やっぱり、ニンジャネットコムの関係者だったのね」

 「そりゃ、伊賀忍者達の企業だもんな」


 俺はラーメンをすすりながら呟く。


 「忍者も昔からヒーロー業界とは縁があり、私はヒーロー志望なだけですから♪」


 藤林さんが必死に、俺達の疑いを晴らそうとする。


 「そう思わせて後ろからバッサリは勘弁ね?」

 「はううっ、赤星さんは時代劇マニアすぎます!」

 「祖父ちゃんが昔から、時代劇好きなのよ」

 「勇子ちゃん、それは止めよう? 好感度下がるからね」

 「そうね、ごめんなさい」

 「いえ、時代劇も嘘ばかりではないので」


 ああ、やっぱり忍者も黒い部分はあるんだな。


 「三重の分校にも忍者コースがあって、講師は各流派の人達がいますよ♪」

 「何か楽しそうね、藤林さん♪」

 「好きな事って熱く語るよね、わかる♪」

 「すみません、忍者も忍術も誇りですので♪」


 照れて顔を赤くする藤林さんに、俺達はとりあえず警戒を解いた。


 「でも、事務所とか所属覇はどうするの?」

 「在学中は学校所属のヒーローでいられるけど、装備とか平均的だよね」


 学校で使わせてくれるヒーロースーツや武装は、簡素だ。


 ハードな現場では、装着者自身の生存が危ぶまれる場合が出てくる。


 「じゃあ、家に来ない? 進太郎、どうよ?」

 「え、藤林さんをか?」

 「良いんですか、お世話になっても?」

 「仲間は多い方が良いわ、働き方は家の人と契約をきちんと相談してね?」


 勇子ちゃんがいきなり藤林さんをスカウトした。


 まあ、伊賀忍者さん達の腕は信用できるし良いかな?


 勇子ちゃんも、人間のメンバーがいた方がメンタルに良いだろうし。


 「わかった、契約書は後で用意するから履歴書か書いてお家の人と面談だ」

 「はい、ありがとうござます♪」


 藤林さんが、取り敢えずお試しでマカイジャーに入隊する事が決まった。


 「そういや、藤林さんはパスポート持ってる?」

 「そうだ、健康問題も大丈夫?」

 「あの、何か問題でも?」

 「魔界は外国扱いだから、家の大使館で出入国のスタンプがいるんだよ」

 「ごめん、私がフリーパスだから忘れてた!」

 「大丈夫です、用意はできてますから♪」


 放課後の帰り道、藤林さんも連れて俺の家に向かう途中で思い出した。


 藤林さんがパスポートを俺達に見せる、流石忍者だ。


 「お帰りなさいませ、そしていらっしゃいませ藤林様♪」


 大使館の入り口で、真面目な執事モードのザーマスが出迎える。


 「……え、格好良い♪」

 「ありがとうございます♪」


 藤林さんがザーマスに見惚れる。


 黙っていればザーマスは、イケメン執事なんだよな。


 「いらっしゃいませ、藤林さんですね?」

 「はい、宜しくお願いいたします!」


 今度は、奥からやって来たギョリンに面食らう藤林さん。


 「初めましてなのだ、これが変身ブレスレットなのだ♪」

 「あ、可愛い~♪ ありがとう♪」

 「むがっ! 抱き着かれたのだ!」


 自分より小さい、百五十センチのフンガーに抱き着く藤林さん。


 「おや、お客様ですかい? ようこそゴートランド大使館へ♪」

 「はい、初めまして♪」


 フンガーを離して、ガンスに一礼する藤林さん。


 「何か、藤林さんが乙女ゲームの主人公みたいね?」

 「俺もそう思った、でも俺は勇子ちゃん攻略されてるから♪」

 「誰が悪役令嬢よ、馬鹿王子♪」


 俺は俺で勇子ちゃんといちゃつきにかかるが、当人からやんわりと止められた。


 「赤星さん、乙女ゲームのヒロインみたいですね?」

 「ああ、勇子ちゃんはプリンスを攻略したヒロインなのだ♪」


 藤林さんがフンガーを後ろから抱きしめながら、俺達を見て呟いた。

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