第6話 空を飛ぼう
「各種スイッチ良し♪ 計器のチェック良し♪ さあ、かっ飛ばすわよ♪」
「いや、野球じゃないんだから! チェックリスト、オールオッケ~!」
勇子ちゃんが前の席でメインパイロット、俺が後ろでサブパイロット。
じゃんけんで負けたので、まずは勇子ちゃんから先に操縦する事となった。
座学の後に、機体を飛ばす前に確認しろと渡されたリストにペンで印をつける。
実習用のヒーロースーツ姿で、俺達はジェット戦闘機を駆り空へと飛び立った。
俺達の機体は、外から見ると機首が鳥の嘴みたいで猛禽類みたいな外見だ。
機体の名前はコクボウバード量産型。
コクボウジャーと言う軍の実験部隊でもあったヒーローチームのロボの量産機。
陸軍のコクボウタイガーと、海軍のコクボウシャークの量産機と三体合体できる。
巨大ロボになるマシンだからなのか、普通の戦闘機とは色々違っていた。
特にシート前に備え付けられた、コンソロールに付いた二本のレバーとスイッチ。
俺と勇子ちゃんは、ゲームセンターで似たゲームを遊んだ時の事を思い出した。
「ヒャッハ~♪ 戦闘機かっ飛ばすの、最高~~っ♪」
「いや、飛ばし過ぎじゃね? ぐは、圧が! 俺の方は最悪だよ!」
気持ち悪い、乗り物で飛ぶのは生身で飛ぶのとは大違いだ。
「ほらほらサボらず、レーダー見て教える! 操縦と射撃は任せなさい♪」
「わかってるって、曲芸飛行とかしないでくれよ?」
「シスコ時代、レシプロの複葉機も戦闘機も飛ばしてたから任せなさい♪」
「君のいたアメリカって、どういう制度してるんだよ!」
「アメリカはいつでも、戦士達のフロンティアよ♪」
「魔界にもいるよ、オークとかトロールとかそう言う脳筋な奴らっ!」
スーツ越しのGとか、胃もたれに耐えつつ俺は叫ぶ。
何で俺達が戦闘機で空を飛んでいるのか?
将来運用するロボの操縦の為である。
巨大ロボットが合体前に戦車や戦闘機であった時代にできた、ロボット運用法。
この法律のお陰で、ヒーローには戦車と戦闘機の訓練が義務付けられていた。
学校が国防軍と提携しているので、学年関係なく希望すればタダで受講できる。
戦隊を結成し、ロボも運用を予定している俺達は迷わず受講した。
俺達が応募した国防軍の浜松基地の他、各地の空軍基地で受けられる合宿教習。
参加してみたが、タダより高い物はなかったよ。
いざ、機体が空へ飛び上がると俺は飛行機酔いを催した。
これが俺の人生で初の飛行機体験だよ。
デーモンナイトに変身して、鎧の機能で飛んだ時よりも高い場所を飛んでいる。
正直、窮屈な感じが嫌で外に飛び出したくなった。
「あんた、昔から乗り物が苦手よね? 十字架とか平気なのに?」
「自分で動かす分には問題ないんだよ!」
「遠足の時みたいに、私が面倒見てあげる♪」
「悔しい、俺だって負けねえ!」
意地を張り耐えつつ、勇子ちゃんの操縦に慣れて来たので早く汚名を返上するべくレーダーのチェックなど自分の仕事をする。
「他の練習機に後ろ取られた! ロックされたよ!」
「私達を狙うなんて良い度胸ね、やっつけてあげるから任せなさい♪」
勇子ちゃんが機体を上昇させて、俺達を狙った相手機の上を取る。
「ペイント弾オッケー!」
「頭ぶちまけなさい♪」
太陽を背に俺達は機銃を相手にぶっ放した。
ペイント弾の雨が吹き荒れ、相手の機体が赤く染まる。
ごめんなさい、勇子ちゃんに喧嘩を売ったそちらの不運です。
「イエ~イ♪」
「うんじゃ、戻って休もうか?」
「明日は、私が後ろに付いてるから安心しなさい♪」
「不安しかないなあ」
俺達が着陸すると、国防軍の浜松基地に戻ると赤く染まった相手機も降りて来た。
「……くうっ! 何でロックしたのに、ミサイルが撃てませんの?」
「……お嬢様、練習機のミサイルは飾りですので撃つなら機銃ですよ?」
「撃つならミサイルですわ、高火力と爆発は最高ですわ!」
俺達が機体から降りたと同時に、相手も機体から降りて来る。
茶髪の縦ロールの御令嬢と、緑髪の三つ編みで眼鏡のメイドのコンビだった。
ご令嬢は、いかにもお嬢様な水色ドレス。
メイドさんは、エプロンドレスとヴィクトリアンメイド。
どう見ても、戦闘機に乗る服装じゃねえ。
「そこの灰色スーツの二人組! よくも、やてくれましたわね!」
「お嬢様、どう見てもお嬢様が悪いですよ。 申し訳ございません」
「何よミドリ、戦闘機と言えば空戦ですわ!」
俺達のコンビ以上にへんてこな主従が、こちらに話しかけてくる。
「はっはっは♪ 経験値の差よ、勝負なら受けて立つわ♪」
「いや、勇子ちゃんも煽るのはやめようね? 似た者同士が出あっちまったな」
「何よ~? ヒーローたるもの、挑戦は受けるもんよ?」
「そういうのは、勝つ為の準備してからね?」
メイドさんが御令嬢を引っ張り、俺も勇子ちゃんの手を引いて移動する。
この場では特に名乗ったりはしなかった、そんな空気には思えなかったので。
世の中、似た者同士が出会うとぶつかり合いとかになるから迷惑なんだよな。
翌日、今度は俺の番だと機体の前の席でメインパイロットを務める。
「進太郎、もっと飛ばしなさいよ~?」
「いや、燃料とかあるし安全運転しろって昨日怒られたでしょ?」
「ぶ~っ! 戦闘機はガーンと飛ばして、武器バンバンぶっぱなさないと!」
「空戦の訓練ならそうするが、後ろに大事な相棒乗せてんだから?」
「……そ、それなら納得ね♪ 進太郎は、安全運転パパになるわね♪」
パパはともかく、安全運転は大事だ。
だが、昨日の事からして何も起こるはずはないんだよな?
「あ~あ~? そこの練習機、聞こえてまして?」
「ちょっと! 何の用? 今、家の進太郎が頑張ってるんだけど?」
やはり昨日の御令嬢か、お供のメイドさんはいないのか?
「この
あかりさんが名乗る、やっぱり似た者同士だったよ。
「良い根性ね♪
「いや、勝手に勝負を受けるなよ?」
「空戦訓練に変更、私一人でもやれますわよ♪」
あかりさんが勝手に、俺達の分も訓練メニューを変更したらしい。
「
勇子ちゃんが通信を切る、流石は相棒だ。
「マジかよ、やってやる! 魔力、
チートだが、魔力を使い機体を俺の肉体と同調させる。
機体に当たる風とか気圧が気持ち悪いが、皮膚感覚が使える。
何か感じた、撃たれるっ!
俺は必死に旋回や上昇と下降を行い、あかりさんの機体からの銃撃を避ける。
「何ですの、あの変態的な機動はっ! ロックできませんわ!」
通信機からあかりさんが叫んでいるのが聞こえる。
勇子ちゃんは必死に笑いを抑えている。
まあ、あかりさんには悪いが勝たせてもらうよ。
俺は急降下からの急上昇を行い、あかりさんの機体を下から突き上げるように機銃を射ちペイント弾を全弾放った。
「こ、今度は腹を撃ち抜かれましたわ~っ!」
悔しがるあかりさん、本当にごめんなさい。
当然、あかりさんの機体は撃墜判定がされて俺達が勝った。
無事に着陸した俺達。
「あなた達、一体何者何ですの?」
「お嬢様、失礼ですよ?」
「だって、おかしいですわ?」
機体から降りた俺達は、当然ながらにあかりさんに絡まれた。
「何者? 見ての通り、ヒーロー高専の学生よ♪」
「そうだね、彼女はアメリカ帰りの戦闘機経験者」
取り敢えず、嘘は言わない。
「なるほど、アメリカの飛行技術ですのね!」
「お嬢様、多分あちらは超能力か何かを使われたのかと?」
メイドさんには勘付かれたかな? あかりさんは気にしていない。
世の中、色んな人がいるなあ。
俺達はこの後、四人仲良く罰として機体の清掃作業をさせられたのであった。
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