第5話 スーツを着よう

 「これが実習用の変身装置ね、楽しみ♪」

 「俺、角あるから窮屈なんだよな」


 今日は、戦隊基礎の授業で学校の裏山に来た俺と勇子ちゃん。


 地面は灰色の石だらけ、山の崖を前に集合した俺達。


 実習用の変身ブレスレットを見て、彼女がはしゃぐ。


 「はい、皆さんおはようございます♪ それでは、本日の授業を開始します♪」


 黄色いレスキュージャケットを着た、お団子頭に童顔で眼鏡の女性教師。


 黄土日代子きど・ひよこ先生が俺達を前に授業の開始を宣言する。


 「まずは、変身ブレスレットのスイッチを入れて変身しましょう」


 先生の指示に従い、左手首に着けたブレスレットのスイッチを押す。


 俺達の体は光に包まれ、灰色のスーツとフルフェイスのマスクを身に纏った。


 何と言うか、クラスの皆で同じ格好をしているからか戦闘員の気分だ。


 先生は自分のスマホ型のガジェットで変身。


 自前の黄色い全身スーツと、フルフェイスマスクだ。


 「それではスーツのアシスト機能を使い、瓦礫の撤去訓練から始めます」

 「「は~い」」


 地味な作業だが、ヒーローは戦闘だけでなくレスキューも仕事だ。


 障害物の除去から学び、後に応用でトラップやバリケード等の設置を学ぶ。


 引っ越し業者の如く、二人一組で瓦礫相当の岩を指定された場所まで運ぶ。


 次に、バケツリレー方式で並び岩を回して片づけて行く。


 戦隊はチームで動くので、団体行動で連携しての動きを学ぶ。


 最後は生徒で五人組を四つ作り、東西南北に配置。


 四方から瓦礫を囲み、タイミングを合わせて全員で小型ビームガンをぶっぱなす。


 これもチームの力を一つに合わせる訓練だ。


 全員で同時に発射して当てないと標的を破砕できないように調整されている。


 低出力だけど、生身の一般人には当たれば穴が開いて致命傷の凶器だ。


 勇子ちゃんは、本人の能力でスーツや銃が壊れないか心配だったが杞憂だった。


 岩の破砕が終われば、皆が使ったビームガンは自動的に保管庫へと転送される。


 授業以外に武器の持ち出しとか企む輩を警戒しての事だ、安全第一である。


 「はい、整列♪ 皆さん、次は実習用ソードでの白兵戦の訓練です!」


 俺達を横一列に整列させて、先生が次の内容を語る。


 「ブレスレットに記載された剣のマークを押せば、各自の剣が転送されます」


 先生の指示に従い、俺達はスイッチを押し剣を召喚して右手に持った。


 「召喚魔法みたいね♪」

 「技術は違うけど結論は同じだね♪」


 無機質な棒状の柄の両刃剣を見て呟く勇子ちゃん。


 皆で横一列に並び、突きや切りの素振りを行う。


 「片手剣って、何か苦手なのよね」

 「日本の刀は片手でも両手でも使えるからね」


 家の道場も木刀を使うし、俺達は刀文化の人なのである。


 左右両方の手での片手剣の素振りを終えたら、模擬戦だ。


 「うおおっ! 覚悟しろ、リア充っ!」

 「やかましいっ!」

 「ぎゃあっ!」


 俺は男子生徒の嫉妬の籠った剣を受け流しつつ、押し返して胸を突く。


 突かれた相手の胸に火花が散り、一本取って終わる。


 家でザーマスから、洋風の剣の稽古を受けておいて良かった。


 「今度は俺だ、くらえっ!」

 「ああ、そう簡単にやられてたまるか!」


 相手の突きを体を横に捌き、剣を上から払った弾みで振り上げて切り下ろす。


 男女別れて、どちらも負けたら相手が入れ替わりでと一本勝負を続けた俺達。


 「……はあっ、何とか男子全員から一本取ったぜ」


 相手も手強かったが、魔界の王子の面目躍如だ。


 「あはっ♪ 流石は進太郎ね♪」

 「勇子ちゃんもクラスの女子に全勝ちかよ?」

 「進太郎も、もっとご飯食べてスタミナ付けなさいよ♪」

 「代謝能力が違うからね?」


 俺は疲れながらも勇子ちゃんと言葉の掛け合いをする。


 「ううっ、流石は魔王と勇者の夫婦漫才コンビだぜ」

 「私達も結構、頑張ったのに赤星さんのスタミナお化け」


 負けてへたり込んだ奴らから、男女一名が代表で呟いた。


 「山羊原君と、赤星さんはやりますね♪ じゃあ、次は先生としましょう♪」

 「ふ~っ、オッス! それじゃあ俺から挑ませていただきます!」

 「あ、進太郎ずるい!」


 俺は剣の刃を起こして踏み込み打ち込む、突きより振る劍の方が慣れてて楽だ。


 俺の攻撃を先生は、短い動作でカンカンと剣を左右に振って弾きながら身を屈めて足を旋回させる蹴りの掃腿や崩拳と剣以外の技も繰り出して来る。


 「山羊原君、剣の動き以外にも注意しないと駄目ですよ♪」

 「いや、ちょっと先生ガチじゃないっすか?」

 「先生と進太郎、どっちもやるわね」


 先生の剣だけでなく、合間合間の拳法技も必死に避けて凌ぐ。


 「はい、よくできました♪」

 「最後の蹴りはフェイントかよ!」


 先生の蹴り上げを避けた所に、剣での突きを腹に受けて俺は負けた。


 「次は私ですね、てりゃ~~~っ!」

 「赤星さん、良い踏み込みと突きですね♪」


 続いては、勇子ちゃんと先生の対決だ。


 勇子ちゃんは突きで攻め、先生も中華剣術の動きなのだろうか突きで対抗する。


 猛火の如く攻める勇子ちゃん、柳に風と捌いては返す先生。


 二人の攻防は、電子音と共に変身が解除され剣が消えた事で終了した。


 「ええ、時間切れ~っ?」

 「惜しかったですね、良いセンスでしたよ二人共♪」

 「う~っ、凄い悔し~っ!」

 「俺も、次は一本取れるように頑張ります」


 体育よりも体力を使った授業が終わった。


 「あ~っ! 悔しい、まだまだ行けたのに~っ!」

 「確かにな。 けどどうだった、初のスーツは?」


 教室に戻って来ての休み時間。


 まだ興奮冷めやらぬ勇子ちゃんに、実習用とはいえスーツを着た感想を尋ねる。


 「やっぱ、色々足りない! ブランクな状態って、ああいうのね!」

 「けど、能力の制御はできてたじゃん♪」

 「でしょ~♪ 結構、頑張ったんだから♪」

 「昼休みにコーラ驕るよ♪」

 「そこは王子なんだから、もっと良い物にしない?」

 「個人で使える金はそんなにないんだよ、王族だからこそお金の管理は厳しくね」


 デーモンナイトでの稼ぎも、大半はゴートランドの収益になってるし。


 祖父ちゃん達からの小遣いは月に五千円、国からの俺の給料は三万円なんだ。


 「でも、改めて自分の変身スーツが欲しくなったわ赤い奴♪」

 「性格も能力もレッドだもんね、ザ・熱血♪」

 「レッドになる為に生まれてきたもんだからね、私♪」


 笑い方が男らしい勇子ちゃん、転校初日に被っていた猫は消えていた。


 「進太郎は、やっぱりデーモンナイトだけ?」

 「揃いのスーツ着なくても、戦隊はできるよ♪」

 「じゃあ、あんたやっぱり私の戦隊のメンバーね♪」

 「他のメンバー探したり、基地やら色々いるよね」

 「うんうん、リーダーには優秀な参謀が大事ね♪」

 「俺、そう言うポジなの?」

 「あんた、クールなブルーとか皮肉屋なブラックってキャラじゃないもん♪」

 「褒めてるのそれ?」

 「良い奴だって言ってるのよ、あんたこそ昔みたいに素直になりなさいよ♪」


 掛け合い漫才をする俺達、クラスメートからは夫婦漫才してると言われる。


 周りからどう言われようとも、俺はやはり勇子ちゃんが好きで大事だ。


 この笑顔を守る、彼女のヒーローになると言う誓いは果たして見せる。


 俺の誓いの為にも、勇子ちゃんの戦隊結成の夢は叶えたかった。


 自分でも正義っぽくはないと思うが、俺が味方する正義は一つだけではない。


 ゴートランドの正義、勇子ちゃんの正義、日本の世間の正義。


 日和見の蝙蝠野郎とか言われても、折り合いをつけて世渡りしてやる。


 「ちょっと、進太郎? あんた、変なこと考えてんじゃないわよ!」


 勇子ちゃんに、両頬を軽く叩かれる。


 「……痛いよ、勇子ちゃん?」

 「変な考えから目を覚まさせてあげたのよ、しゃきっとしなさい」

 「はいはい、わかったよ」


 休み時間も終わり、次の授業が始まろうと言う時間なので俺達は席に着いた。

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