第7話 戦車に乗ろう

 「富士山だ~~っ♪」

 「いやあ、だだっ広いねえ♪」

 「駅前のお店の馬肉の吉田うどんは美味しかったね、進太郎♪」

 「ああ、俺もうどんは固めでコシがある方が良いね♪」


 青空の下、国防軍の北富士演習場で富士山を眺める俺達。


 戦闘機は浜松、戦車は山梨県は富士吉田市にあるこの北富士演習場で訓練を行う。


 演習場内なので、安全の為に灰色のヒーロースーツ姿でいる俺達。


端から見れば、何かの番組の撮影っぽい。


 「私達が乗る戦車、何か腕が付いてるんだけど?」

 「ふっふふ、このツインアームで瓦礫の撤去とかができるんだよ♪ 」

 「ツインアーム重機と、戦車混ぜた感じね?」

 「昭和時代のヒーローの戦車だ、今でも使われてる♪」


 俺達は、車体の両側面に作業用アームが付いた銀色の戦車に乗り込む。


 ザリガニっぽい形状のこの戦車、正式名称が本当にザリタンクと言う。


 勇子ちゃんは車長席、俺が操縦席だ。


 今度はじゃんけんで俺が勝った♪


 ザリタンクのアーム操作は操縦席でやるのが、ロボっぽくて好き。


 戦闘機の訓練よりは地に足が付いている分、気が楽だわ。


 「さあ進太郎、発進よ♪」

 「オッケ、でもキューポラから顔出すの危ないよ?」

 「スーツもマスクも着てるから、ある程度は平気よ♪」


 確かに、俺達が着てるスーツのマスクは戦車の機銃までなら耐えられる。


 授業で地雷原を走らされても、無傷でいられるほどに防御力は高い。


 「ヒャッハ~~ッ♪ 乗り物、最高~っ♪」

 「ああ、俺も酔わずに動かせて気分が良いよ♪」

 「車は慣れて来たのね♪ 免許取ったら、ドライブに行こう♪」

 「勇子ちゃんの車の運転は、ヤバそうだな?」

 「そこは根性よ♪」

 「うわ、勇子ちゃんレッドっぽ~い」

 「そうよ、私がレッドよ♪ 進太郎は、黒いけどイエローとかグリーンよね?」

 「ヒーローは色じゃない、けど色と言うか個性は出る」


 演習場の広大な大地を、富士山をバックに俺達は漫才をしながら戦車で駆ける。


 元気な相方がいると脳に刺激が絶えないな。


 「ねえねえ♪ そろそろ戦車砲を撃つから、一旦止まって♪」

 「オッケ、的以外は撃たないでくれよ?」

 「戦闘機の時みたいに、喧嘩売って来る奴がいなければね♪」 

 「いや、喧嘩もダメだからね?」

 「べらんめえ、江戸っ子には火事と喧嘩は江戸の華よ♪」

 「俺らの家、埼玉寄りの都下じゃん」

 「私のじっちゃんは江戸っ子よ♪」


 勇子ちゃんはアメリカ人の母親とのハーフ。


 俺に関しては、沖縄系都民な日本人と悪魔のハーフ。


 東京に住んでいても、奥多摩の隣であるO市は都下なので江戸っ子感がない。


 「ちゃきちゃき装填して、ぶっ放すわよ~♪」


 勇子ちゃんが自動装填システムで砲弾を主砲にセットし、目視で的を狙い発射。


 激しい発射音と共に、砲弾が飛び、的を射抜く。


 「ヘイヘイ♪ どうよ私の腕は♪」

 「うん、戦闘技能は高いよね?」

 「勉強だって得意よ、でも内政は進太郎に任せるわ♪」

 「はいはい、次はアームも使うコースに行こうね」

 「お~っ♪」


 俺達は、演習場で楽しく訓練に励んだ。


 無事に訓練を終え、信玄餅を土産に東京へと戻った俺達。


 「はい、皆にお土産を買って来たわ♪」

 「左様でしたか、お疲れ様でございました♪」

 「楽しそうだなあ、演習場ってのも♪」

 「私達も大暴れしたいのだ~♪」


 山羊原家の母屋と打って変わって、こちらは洋間のリビング。


 同じ敷地内のゴートランド大使館に集った俺達。


 信玄餅をお茶請けに、ザーマスが入れた紅茶を飲みつつ話し合う。


 「俺の留守中、特筆するような事はあった?」


 クライム悪魔など、魔界の悪人達のトラブル解決も俺の仕事だ。


 「はい、魔界や妖怪絡みではございませんでした


 ザーマスが報告してくれる、大事がないのはありがたかった。


 「その代わり、地球の怪人が魔界で見かけられたとかですかね」

 「女王陛下に、情報提供の依頼が来たりしたのだ」


 ガンスとフンガーの言葉に俺は眉をひそめる。


 怪人も魔族も、見た目とか似てるんだよな厄介な事に。


 地球の悪の組織の怪人が魔界にいても、魔界ではそう言う魔物だと誤認される。


 地球では、魔界の厄介ごとは家に来る。


 魔界での地球の厄介ごとも、家に来る。


 地球と魔界の狭間を繋ぐ以上避けては通れない道だ。


 これは、新たな面倒事の予感がするぜ。


 翌日、大使館の執務室で仕事をしているとザーマスが入って来た。


 「失礼いたします、女王陛下から勇子様を連れて挨拶に来いとの事です」

 「ああ、それもやらないとな」


 正直、勇子ちゃんに南瓜パンツ姿見られるのは嫌なんだけどな。


 撮影されてクラスの奴らとかに晒されたら、恥ずかしくなる。


 俺は勇子ちゃんを信じて、右手の甲に魔王印を浮かべて念じて用件を伝える。


 魔王印、スマホ代わりにもなる便利な術式なんだ。


 「やっほ~♪ おばさんの所、行くんでしょ♪」


 上下ピンクのジャージに赤いシャツと、ラフな姿でやって来た勇子ちゃん。


 「お土産も用意したわよ、山梨のほうとうとか信玄餅とか♪」

 「ああ、ありがとう。 母上、うどんとか好きだから」

 「仕事の時は、魔王のオーラ出してるけどね♪」


 俺と勇子ちゃんは、大使館のリビングの隣にある魔法陣ルームに入る。


 俺達は、床に描かれた魔法陣の上に乗り魔界へと転移した。


 転移先は、石壁で囲われた城の方の魔法陣ルーム。


 「お待ちしておりました殿下、勇子様♪」


 出迎えてくれたのは、吸血鬼メイドのヴィクトリア。


 「ヴィクトリアさん、久しぶり♪ はい、おばさん達にお土産♪」

 「承りました♪ では、殿下達もお召し変え下さいませ♪」


 勇子ちゃんが、ヴィクトリアにお土産を渡す。


 お土産を受け取ったヴィクトリアは、指を鳴らして魔法を発動させた。


 「あっはっは♪ 進太郎、久しぶりにカボチャ王子になってる♪」

 「いや、そっちもカボチャドレスだよ!」

 「私はこのドレス、気に入ってるもん♪」


 俺は黒の貴族っぽい上着にオレンジのカボチャパンツ姿。


 勇子ちゃんは、ハロウィンで見るオレンジのカボチャドレス。


 「ま~♪ いらっしゃい、私の愛しいパンプキンベイビー達♪」


 城の魔法陣ルームにやって来たのは、勇子ちゃんと同じドレスの美女。


 ゴートランドの女王こと、我が母上であった。


 「お久しぶりです、メリッサおばさん♪」

 「勇子ちゃん、私の事はママって呼んで良いのよ♪」


 勇子ちゃんが、母上の本名を呼びながら抱き合う。


 「勇子ちゃんも、日本で元気に暮らせているようで良かったわ♪」

 「おばさんと、進太郎のお陰です♪」


 母上達は離れると、ここでは話もなんだからと移動を開始した。


 訪れたのは城内の、白壁に暖炉と丸テーブルと椅子がある簡素な部屋。


 俺達はテーブルを囲み、母上が淹れた紅茶を飲みながら話をする。


 「そうねえ、勇子ちゃんの戦隊は家で作りましょう♪」

 「え、良いんですか♪」

 「今更、よその勢力に勇子ちゃんを渡せないわ♪」

 「良かった、これで話が進められる」

 「コアメンバーは、進太郎やザーマス達で良いわね♪」

 「はい、知り合いですし大丈夫です♪」

 「おっし、じゃあ後はスーツとかだな♪」

 「やったわね、これで私もレッドになれるわ♪」


 俺と勇子ちゃんは、これで一緒にヒーロー活動ができると喜んだ。


 「正式な手続きは私に任せて、辞令とか用意するから♪」

 「ありがとうございます、メリッサおばさん♪」

 「良いのよ、息子の大事な人の頼みだもの♪」

 「ありがとうございます、母上」

 「頼れる大人にどんと頼りなさい、大人も頑張るから♪」


 俺達は、母上に感謝した。


 翌日、俺と勇子ちゃんは再び魔界を訪れていた。


 勇子ちゃんの戦隊スーツの材料を自分達の手で狩って来いとのお達しだ。


 「進太郎っ! 後ろ回って、あいつの尻尾を切って!」

 「おっしゃ、魔力集中からのデーモンサークルッ!」


 闇が覆う魔界の空の下、デーモンナイトに変身した俺と真紅の鎧兜を纏った勇子ちゃんは荒涼とした平原で巨大な火の鳥を相手に狩りをしていた。


 俺が放った黒い闇のチャクラムが飛び、火の鳥の尻尾を切り裂く。


 「おりゃ~~~っ! 私のヒーロースーツの素材になれっ!」


 勇子ちゃんが足裏を爆発させて跳び上がり、赤熱化した戦斧を振り上げる。


 火の鳥は口から火炎放射を放つが、勇子ちゃんに炎属性は力を与えるだけ。


 勇子ちゃんは炎ごとフェニックスを断ち切り倒したのであった。


 「よっし、フェニックス素材ゲットだぜ♪」

 「イエ~イ♪ この調子でガンガン狩るわよ♪」


 ひと狩り終えた俺達は手を打ち鳴らす、俺達の戦隊計画が動き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る