第4話 彼女が家にやって来た

 商店街で発生した、たい焼き屋さんを襲う謎のタコ怪人との突発戦闘から帰宅した俺。


 敵の素性とか調べてなかったが、魔族でない事だけは確かだった。


 どこかの悪の組織か、組織が無くなって野良になった怪人とかだろう。


 俺のメインの敵は、魔界のクライム悪魔や侵略悪魔や妖怪とオカルトな相手。


 だが、地球でヒーローをする以上それ以外の敵も相手にしないといけない。


 仲間や人々を助け世界を守るには、戦う相手を選んでばかりではいられない。


ゴートランド王家が日本政府との契約で強制加入させられた互助組織。


その名も、日本ヒーロー協会が定期的に行う助け合いキャンペーンでは他のヒーローと共闘するので彼らの敵とも因縁が出来るから敵対勢力が自動的に増えるんだ。


 風呂場の脱衣所で、汚れた靴下を脱いで洗濯カゴに入れる。


「靴を履く間もなく、部屋で寛いでる時に召喚されたからな」


 魔法は便利だけど、タイミングは考えないと面倒だな。


 入浴中に召喚とかされたら、たまったもんじゃない。


 「タコの怪人だから、墨まみれにされなくて良かった」


 部屋に戻ると歩き出すと、右手の甲が光る。


 『進太郎? 玄関、開けてくれる?』


 勇子ちゃんの思念が聞こえる、どうやら彼女が家に来たようだ。


 サンダルを履いて母屋の玄関を出て門まで行き、通用口を開ける。


 山羊原家の正門は車とかの出入りの時くらいしか、開けないのだ。


 「さっきぶり、あんたの分のお礼のたい焼きとこっちは師範達に」


 俺は彼女からたい焼きを一個貰い、その場で食い切る。


 「ありがとう、対価は貰ったけど上がってくれ」

 「ただいまって、言った方が良い♪」

 「そこはご自由に、ある意味此処も君の家だし大使館に部屋を用意しようか?」

 「うん、一応お願い。んじゃ、あんたにはただいまで♪」


 いたずらっ子な笑みを浮かべる勇子ちゃん。


 魔王印を持つ彼女は、ゴートランドの次期王妃候補と言うべき存在だ。


 我が家やゴートランドへは、フリーパスで出入りできる人物である。


 彼女も新たな私服に着替えたのか、ピンクのジャンパーにグレーのスカート。


 「可愛いね、本当に見違えたよ」

 「……あ、ありがとう」


 三日も合わざるばとか言うが、昔は本当に女子と認識できなかったよ。


 「こんばんわ~♪」

 「勇子ちゃん、連れて来たよ」


 彼女と一緒に母屋へ上がる。


 「いらっしゃいませ、勇子様♪」

 「ザーマスも久しぶり♪」


 手洗いうがいを済ませて。ザーマスと一緒に居間へ行く。


 「あらまあ♪ 可愛くなったわね♪」

 「おう、いらっしゃい♪」

 「師範と師範代もお久しぶりです、またよろしくお願いします♪」

 「ええ、あなたも私達には家の子なんだから何時でも来なさい♪」

 「進太郎、女子は大切にせいよ?」

 「わかってるよ、祖父ちゃん」


 勇子ちゃんが祖母ちゃん達に、土産の煎餅を渡して挨拶をする。


 「見違えたぜ、昔は坊主みたいだたのにな」

 「勇子ちゃんなのだ、様変わりし過ぎなのだ!」


 ガンスとフンガーも居間にやって来る。


 「そういや、夕飯は家で食って行く?」

 「うん、家の祖母ちゃん達もこっちでいただいて来なさいって」


 かくして、今日は勇子ちゃんも加えての夕食となった。


 ガンスが作った、すき焼きを皆で食う。


 学校の事や怪人と戦った事を語らい、俺達は旧交を温めた。


 食事と片付けを終えて、俺は勇子ちゃんを家まで送る。


 「じゃあ、また明日♪」

 「ああ、また明日♪ 何かあれば、魔王印で呼んでくれ」

 「うん、ありがと♪」


 俺達は拳を合わせ笑顔で別れた。


 翌日、朝稽古のジョギングに白い道着を着た勇子ちゃんも加わっていた。


 「……どうして勇子ちゃんも、走っているの?」

 「私も門弟だから♪」

 「アメリカ行った時に、辞めたんじゃなかったの?」

 「帰って来たから、復帰したの♪」

 「朝ごはん、家で食って行く?」

 「食べる~♪」

 「二人共、仲が良いのう♪」


 俺達三人は、走り終えると家の道場へ向かう。


 礼をしてから、突きや蹴りなどの無手の基本動作の稽古。


 「この木の鍬、懐かしいわね♪」


 勇子ちゃんが、型稽古に使う木製の鍬を持って懐かしむ。


 くわを武器に戦う鍬術くわじゅつの稽古。


 歯や柄の部分で突く、鍬の歯を振り上がたり振り下ろす。


 スコップとかに変えても応用が利く武器術だ。


 鍬の次は鎌、二丁の鎌で突きや受けに払いや引っ掛けと型を行う。


 最後は組手、合図と共に勇子ちゃんが踏み込んで突きを繰り出す。


 俺も逃げずに、突きを出して迎え撃つ。


 俺達の拳がぶつかり合い、衝撃波が生まれ双方が吹っ飛び寝転がった。


 「うへえ、やばかった」

 「あっはっは♪ やるじゃん、進太郎♪」


 立ち上がり握手を交わす俺達。


 相手も超人パワーで回復してるはずだが、こっちも魔族パワーで再生できなければ危なかった。


 稽古を終えたら皆で朝食、俺は茶碗だが勇子ちゃんは丼ごはんだ。


 「しっかり食べてね、昔話盛り♪」

 「ありがとう、師範♪」

 「お祖母ちゃんって、呼んで良いのよ♪」

 「そのカロリーが、どこへ行くのか不思議なのだ?」

 「全部、炎の燃料になってるんじゃね?」

 「私の代謝は太陽並みよ♪」

 「家が明るくなったのう♪」

 「おい、お嬢の周りに陽炎が見えるぜ」

 「あれはまさに、人間太陽でございます!」

 「超人レベルが高いのう、進太郎も頑張らんとな」

 「魔王印で私の力を使って進太郎をブーストできるから、大丈夫です♪」


 勇子ちゃんの超人ぶりに感心しつつ、和やかに朝食の時間が進む。


 食後は、勇子ちゃんは着替えなどの為に一足先に帰宅した。


 俺も、身支度をして制服姿で家を出ると彼女と鉢合わせ。


 「進太郎、学校まで飛んで連れてってあげる♪」

 「え、ちょっと待って?」

 「待たない、ファイヤーッ♪」


 勇子ちゃんが俺の手を取るとロケットの如く飛び上がり、俺達は火の玉となった。


 地上に、学校が見えてくる。


 勇子ちゃんは火の玉から、熱気球レベルへと火力と高度を下げ俺達は着地した。


 「ふう、無事到着ね♪」

 「無事故で良かった、俺や荷物がよく焼けなかったなと思うよ」

 「日頃の行いが良いからよ♪ 私、太陽の神に選ばれた勇者だし♪」


 何だろう、神様は人間達へのスーパーパワーの割り振りの仕方を考えて欲しい。

 

 魔力も超人パワーもまだまだ謎の存在だと思うが、生きてて良かった。


 「皆、おはよ~♪」

 「おはよっす」


 勇子ちゃんに続いて教室に入る俺。


 「ねえねえ赤星さん、山羊原君とはどんな関係なの?」

 「魔王~? お前、赤星さんと付き合ってんの♪」

 「二人が結婚するとかって、聞いたんだけど♪」

 「くわしく、くわしく♪」


 俺達は、クラスメート達に囲まれて質問攻めにあった。


 昨日の学食での話を聞かれたらしい。


 「え~っと、私達は幼馴染で両家公認でっす♪」

 

 滅茶滅茶可愛い子ぶりっ子に、皆にのたまう勇子ちゃん。


 「マジかよ、リア充かよ!」

 「え、山羊原君の家って魔王だよ?」

 「私達、運命で結ばれてま~っす♪」


 囃し立てられる俺達、俺は勇子ちゃんに魔王印を出させられる。


 勇子ちゃんの気持ちは、肯定的なんだけど俺の方は悶々としてる。


 「おめでと~♪」

 「早い、早過ぎるよ♪」

 「爆発しろ~っ♪」

 「私達、爆発して空から登校して来ました~♪」


 え、何このノリ? 事実だけど、外堀が埋められた!


 俺と勇子ちゃんは、カップルとして周囲に認知されてしまった。


 「こういうのは、早い方が良いのよ♪」

 「これって、戦隊のメンバー集めとかに悪影響出ない?」

 「もう、人生はいつでもフリーハンドよ♪」

 「ブ、ブレーキがねえよこの子っ!」


 この相棒、通常が暴走だよ俺が何とかしなきゃ。


 彼女が暴走機関車なら、俺がブレーキにならねば色々と危ない。


 昔から俺を引っ張り出す勇子ちゃんに、俺はまだまだ振り回されていた。


 クラスの仲間から魔王と勇者の夫婦漫才コンビと言う、微妙な称号を得た俺達。


 これからの俺の学生生活とヒーロー活動が、正直不安になってきた。

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