第3話 彼女に何があったのか?

 保健室で昼休みまで寝てしまった俺、単位がヤバい。


 俺がベッドから降りると同時に、保健室のドアが開いて勇子ちゃんがやって来た。


 彼女に渡した魔王印まおういんのお陰で、こっちのバイタルとか相手にわかるんだった。


 そう言えば、母上も父上に魔王印を刻んでたな。


 俺は実は、ヤバい事をしてしまったのか?


 「山羊原君、机から君のお弁当を持って来たわよ♪」


 昔は丸刈りで、冬でもタンクトップに短パンだった存在が語りかける。


 そういや、昔は女子らしくしなさいとか言われてたなこの子。


 俺が何も考えてない、アホな小学生男子だっただけか!


 「お迎えが来たわね、それじゃあ気をつけて」

 「お世話になりました」

 「ほら、お昼ご飯食べましょ♪」

 「ああ、んじゃ学食の庭のテラス席で食うか」


 俺は色々整理がつかぬまま、勇子ちゃんと廊下を歩いて学食へ行く。


 俺が座席取りで、テラスにあるテーブル席に座って待つ。


 彼女は券売機に行き、食券を買ってカウンターへ行く。


 学食で女子と飯食うって、初だわ俺。


 「お待たせ~♪」

 「ああ、それじゃあ食べるか。 いや、君はどんだけ食うんだよ?」


 彼女が持って来たトレイ。


その上には、大盛りの牛丼にステーキ定食にカレーライスにと高カロリーメニューが乗っていた。


 「ほら、カレーはあんたへの驕りよ♪ お弁当だけだと、お腹空くでしょ?」

 「え、カレーは俺のだったんだ? ありがとう」

 「お互い、無事の再会を祝して食べましょう♪」

 「いや、昔もガッツリ食ってたけど何があったんだ?」

 「何って、めちゃんこ強い美少女になっただけよ♪」

 「ギガ進化だよ、そう言う自画自賛する所は変わってねえな?」


 彼女から所々、小学生時代の面影が見えて安心する俺。


 周りから驚かれてるが、他人の視線は気にしない。


 彼女は豪快に牛丼を平らげると、ステーキ定食を食い出す。


 「あ、そのカボチャの天ぷら♪ 久しぶりに食べたい♪」

 「良いよ、カレーおごってくれたし」

 「あんたも、肉食いなさいよ♪」


 勇子ちゃんがステーキを切り分けて俺のカレーに乗せる。


 ちなみに俺の今日の弁当は、握り飯と野菜天ぷら。


彼女と昔のように、飯のおかずを交換するのは懐かしい。


 「で、アメリカで何があったのさ?」


 俺は彼女に、転校してから何があったのかを聞く事にした。


 確か、お母さんの実家がアメリカで農場やってて跡継ぎにって話のはず。


 「うん、農場がヒーローとヴィランの戦いに巻き込まれて潰れちゃった」

 「マジ? それ、生活大丈夫なの?」

 「お父さん達は、向こうのヒーロー事務所に再就職できたから」

 「でも、向こうのヒーロー学校は無理だったと」

 「うん、成績は頑張って合格基準とったけど他の審査で駄目だった」

 「世知辛いな、家と繋がりあるって言っても駄目だった?」

 「その学校、天界系のスクールで魔界関係アウトだったの」

 「誠に申し訳ございませんでした!」


 俺が彼女の人生に悪影響を与えていたと知り、ショックだった。


 「進太郎は悪くない! 私も、ブチ切れてそこで爆発しちゃったし」

 「いや、それはヤバくね?」

 「ううん、裁判で圧勝して逆に賠償金分捕ったからここの学費とか払えたの♪」

 「いや、何で勝てたの?」


 わけがわからなかった。


 「うん、この印から進太郎のおばさんの声が聞こえたから助けてって頼んだ♪」

 「ああ、母上が動いたのか。 ……って、俺は何も聞いてないぞ!」


 寝耳に水だよ母上っ! でも、ありがとうございます。


 「そういうわけで、おばさんからあんたの事頼まれたしこれから宜しくね♪」 

 「……えっと、まあ魔王印の契約もあるからこちらこそ宜しく」 

 「おばさんから、この印は夫婦の証って聞いたけどあんたなら良いから宜しく♪」

 「いや、告白とか色々過程すっ飛ばしてないか?」 


 勇子ちゃんの言葉に、俺は戸惑うしかなかった。


 大事な人にあげる物って、意味の重さがのしかかる。


 いや、俺も今の勇子ちゃんは可愛いし好きだけどな。


 周囲のざわつきとか、耳に入らなかった。


 気を取り直した俺は、急いで飯を食い終える。


 勇子ちゃんも食べ終えた食器を片付けて、俺達は教室へと戻った。


 午後の授業は、正直あまり頭に入らなかった。


 「で、勇子ちゃんはここでどんなヒーローになりたいのさ?」

 「中学の時は、アメリカで火炎能力者チームのユースだったわ♪」

 「ああ、外国だとヒーローが能力分けとかでサッカークラブみたいなんだっけ?」


 放課後、勇子ちゃんに学校を案内して回りつつ彼女のヒーロー人生の相談に乗る。


 「取り敢えず、チームを率いたいから戦隊コースで♪」

 「方向性はそっちと、俺はゴートランド王国に所属が決まってるけど?」

 「進太郎も、私の戦隊に加わりなさいよ♪」

 「いや、レギュラー面子は無理だよ俺? デーモンナイトで登録してるし?」

 「じゃあ、追加戦士とか助っ人枠で良いから♪ 約束でしょ?」

 「まあね、悪魔としても人間としても約束は大事だからね」


 彼女の力になりたい、彼女への好意を自覚した以上は守りたい。


 「えへへ♪ 絶対だからね、守りなさいよ?」

 「いや、そっちもね? 魔王印の誓いは、五分五分だからね?」

 「わかってる、私があんたのヒーローだから♪」

 「いや、俺も君のヒーローになるって!」


 言い合いをして互いに笑い合う、小学校の時に誓った言葉だ。


 太陽のように明るく笑う彼女を、俺は再び守りたいと思った。


 勇子ちゃんの方は、伝わる感じでは肯定的だけど計り知れない。


 「チームを立ち上げるのに、スーツとかメンバーとか用意しないとね」

 「その辺は、地道にコツコツやっていくしかないよ」


 学校案内を終えて下校しながら語り合う。


 帰り道が同じなのは、彼女の家が我が家のお向かいさんだからだ。


 俺達は別れて、それぞれの家に帰る。


 「お帰りなさいませ、如何なされましたか?」

 「ザーマス、お前は勇子ちゃんの事は知ってたのか?」


 玄関に出迎えに来たザーマスに、勇子ちゃんの事に関して尋ねる。


 「ああ、勇子様に関しては女王陛下から口止めがありまして」

 「そうか、まあ複雑な話だもんな」


 母上が口止めしたなら仕方ないな、俺より立場は上だし。


 自室で私服に着替えて床に寝そべる、色々疲れた。


 今日は夜に事件とかないと良いなあ、マジで。


 妖怪や魔族は夕方から夜の方が、テンション高くなるんだよな。


 墓場で野球とか駄目だろ、寝ろよ。


 だが、俺の右手の甲に魔王印が浮かぶ。


 「ちょっ! 床に魔法陣出てるし、召喚かよっ?」


 俺は寝そべったまま、勇子ちゃんにより何処かへと召喚された。


 「進太郎、何やってんの?」

 「いや、家で寛いでたんだよ!」

 「事件よ、戦いましょ!」


 勇子ちゃんに呼び出された場所は、商店街のど真ん中。


 俺は急いで起き上がり、彼女が指さす方向を見る。


 「ヒャッハ~♪ たい焼きはいただきだ~っ♪」

 「ひ~~っ! 返せ泥棒~っ!」

 「返すわけないだろ、あばよ~っ!」


 たい焼き屋さんに対して狼藉を働くのは、赤いタコ頭の怪人だった。


 頭がタコさんウィンナーっぽいけど、悪党だ。


 出来立てのたい焼きを、背中から触手を伸ばして奪い去るとは許せん。


 「んじゃ、勇子ちゃんはサポート宜しく♪」

 「わかったわ! 皆、下がって! ヒーローが対処するわ!」


 勇子ちゃんが周囲の人達を避難させる。


 野次馬根性のある人達は、物陰から見てるがそこは放置。


 「行くぜ、デーモンシフトッ!」


 俺は素早くデーモンナイトへと変身し叫ぶ。


 「そこの怪人、デーモンナイトが相手だ!」

 「行け~っ、デーモンナイト~っ♪」


 勇子ちゃんの声援を背に受けて、俺は怪人へと突進。


 「げげっ! バケモンが出たっ!」


 タコ怪人が驚き叫び、こちらへ触手を伸ばして襲って来た。


 「化け物はそっちだろ、デーモンクローッ!」


 俺は両手の指先から闇のエネルギーの刃を出し、敵の触手を全て切り落とす。


 相手はこちらの行動が予想外だったのか、動きが止まった。


 「魔力集中、デーモンパンチッ!」


 敵が止まったなら好都合。


 こっちは左の拳に魔力の闇を纏わせて、相手の腹を打ち抜くっ!


 「ブヒュッ! そんな、まさかっ!」


 タコ怪人は絶命した、一応デーモンチェックで敵の死亡を確認する。


 敵の腹から腕を抜く、取り敢えず怪人は倒した。


 「やったわね、デーモンナイト♪」


 勇子ちゃんが拍手をくれると、周囲の人達も拍手をくれた。


 「ありがとう、デーモンナイト~っ!」


 被害者のたい焼き屋のおじさんは泣いて喜んだ。


 いや、被害を防げなかった身としては微妙だけどな。


 「えっと、じゃあひとまず戻るんで後始末を頼めるかな?」

 「任せて、こっちも慣れてるから♪」


 俺は勇子ちゃんに一旦後を任せて、家に戻るべく空へと飛び立った。

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