第2話 再会、赤いあいつ!

 「……ああ、まだ寝ていたい」


 八畳間の自室で目を覚ます俺、山羊原進太郎やぎはら・しんたろう


 お化けは朝は寝床でぐーぐーだが、悪魔ハーフの俺は朝五時起きだ。


 「進太郎、起きとるか?」

 「おはよう祖父ちゃん、着替えたら行くよ」


 部屋の外からは祖父の声。


 武術家で農家と言うライフスタイルに加え、お年寄りなので早起きだ。


 執事のザーマス達はまだ寝てる、ずるい。


 俺は素早く起き上がり布団を畳むと、寝間着の青い浴衣から空手着に着替えて部屋を出る。


 「おはよう、相変わらず眠そうな顔しとるな?」

 「実際に眠いよ、悪魔退治してたし」

 「それがお前の仕事だからな、諦めろ♪」


 廊下で待ていたのは、空手着の上に赤いパーカーを羽織った精悍な老人男性。


 何処か山羊を思わせる、つぶらな瞳で細長い顔立ちに白い髭。


 俺が黒山羊なら、祖父ちゃんは白山羊と言う感じだ。


 俺の祖父。山羊原剛人やぎはら・ごうとである。


 祖母ちゃんの婿養子で山羊原流古武術の師範代。


 実は師範は、祖母ちゃんの方。


 朝は早起きして、祖父ちゃんのジョギングと朝稽古に付き合うのが俺の日課。


 祖父ちゃんと家を出て近所を軽く回る、街外れなので人通りとかはほとんどない。


 帰ったら道場へ行き礼、柔軟をしてから突きや蹴りに手刀にと技の練習。


 武器は鍬と鎌、ご先祖様が沖縄時代に習ったとかで家に伝わっている。


 鍬は動画で見た中国の大刀に似た感じで、歯をブンブン振るうのが殺意が高い。


 祖母ちゃんは二丁の草刈り鎌を素早く振るうので、もっと殺意が高い。


 朝稽古が終わり片づけをして礼をして道場を出る、母屋で朝飯だ。


 「お帰りなさいあなた、進太郎♪ ご飯できてるわよ♪」

 「うん、ただいま香織さん♪ 皆も揃っとるな」

 「祖母ちゃんおはよう、父さんは魔界の方か」

 「あの子達も、こっちに来ればいいのにねえ♪」

 「陛下は中々、こちらには来られませんから♪」

 「坊ちゃん、今朝はミックスビーンズとコンビーフのチリソースサラダですぜ♪」

 「おはようプリンス、ご飯食べよ~なのだ~♪」

 「ザーマス、ガンス、フンガー、お前らも稽古に付き合えよ!」


 和風な山羊原家の今の食卓に集った六人。


 温和な顔で背筋も伸びたピンクジャージ姿のお婆ちゃん。


 俺の祖母の山羊原香織やぎはら・かおり


 俺達のグラスにザーマスが執事姿で牛乳を入れて回っている。


 台所で白い調理服姿で料理の盛り付けをしている褐色の肌で茶髪の青年の名はガンス。


 頭頂部に狼耳がある、いわゆる狼男で大使館の料理人だ。


 呑気に食卓に座っている、紫のおかっぱ頭に瓶底眼鏡の小柄な白衣の少女。


 彼女の名はフンガー、巨体に変身するフランケンだ。


 フンガーの左右のこめかみには、フランケンらしくネジが生えている。


 このモンスター達は、ゴートランド大使館のスタッフで俺のお共達だ。


 「ガンス君もすっかり、こっちの料理に慣れたわね♪」

 「おっす、師範のお陰です」

 「賑やかな食卓は楽しいのう♪」

 「私も吸血鬼ですが、すっかり太陽にも慣れました♪」

 「うまうま、フレークも食べるのだ~♪」

 「飯食ったら、学校行く支度しないと!」


 モンスターと人間が、平和に仲良く朝食を取るのが山羊原家の朝だ。


 カオスであるが、俺はこの暮らしが気に入っていた。


 朝食の後は、片付けはガンス達に任せて俺は着替えなどの身支度と学校の支度だ。


 上下緑の学ランに着替えて、行って来ますと家を出る。


 家を出て住宅街を抜けて通学路を走る。


 東京と埼玉との境近くにあるのが、俺が通う超人育成の学び舎。


 防衛軍の基地みたいな頑丈そうな学校。


 その名も、国立ヒーロー高等専門学校東京校。


 埼玉よりだが東京校。


 ヒーローと悪が戦う地球では、何処の国でも俺みたいな悪魔ハーフや超人的な能力を持つ奴とかがポンポン生まれる。


 ヒーロー達の政党、日本ジャスティス党が政権を取った日本ではそんな能力持ちやらをヒーロー候補として管理育成しようと各地に専門の学校を作った。


 能力者は能力者の学校、一般人は一般人の学校に通う。


 俺らと一般人をはっきり線引きする国の政策の半分は、優しさで出来ている。


 もう半分は多分、世間のしがらみだ。


 埼玉寄りで山とか見える場所に学校を建てたのは、学生達に都心でドンパチされるのを避ける為。


 学生にも自然にも優しくないが、国の考えってそう言う感じだよな。


 ゴートランドはしっかり運営しようと思いながら、俺は通学して来る他の生徒達と挨拶しつつ校門をくぐり中に入る。


 同じ色の制服を着てる以外は、生徒達は男女ともに魔界並みにカオスな学校だ。


 髪の毛燃えてる奴とか全身が帯電してる奴もいるので、地球にいても自分が普通だと思えるのが嬉しい。


 変身しないで都心とか行くのに、角隠すとかしないといけないのが面倒なんだ。


 「おはよ~っす」


 挨拶しながら教室に入る、クラスの面々も知り合った奴らとかは挨拶してくれる。


 窓側の一番後ろにある自分の席に座る。


 他のクラスでも同様だが、俺みたいに頭に角が生えてるのは前だと視覚的に邪魔だから後ろにされるんだよな。


 所々席が空いているのは、ヒーロー活動で授業に出られないとかだ。


 学生でも実習の名目で悪と戦う事件の現場に狩り出される、報酬は学校の単位。


 他にも学生の内から所属が決まっており、プロでヒーロー活動しているのもいる。


 俺も所属が決まっている側で、卒業後の進路は困らない。


 だが、昨日の悪魔退治のような仕事は学校の成績に加算されないのが悔しい。


 ヒーローの職業化とは、色々悩ましい問題だって授業で習った。


 そこそこ付き合いのあるクラスメートに挨拶しつつ、俺は机に突っ伏す。


 特に学校の行事とかはないはずだ、窓の外でも眺めて脳を休めたい。


 「え? もしかしてこれは魔王印?」


 窓ガラスに映る俺の右手の甲に浮かんだ、黒い山羊の頭の紋章にちょっと驚いた。


 これが浮かぶって事は、どこかに俺と深い関係を持つ者がいるサインだ。


 身に覚えが全くない。


 俺が魔王印を与えたのはただ一人で、今は日本にいないはずだ?


 教室の戸が開き、灰色のスーツ姿の担任の先生がやって来る。


 「おはようございます、今日は皆さんに転校生を紹介します」


 転校生、もしかしてあの子か? 


 だが、入って着たのは緑のセーラー服を着た炎の如く赤く長い髪の女の子だった。


 少女が前を向く、繭も赤く太い胸は大きめでどっかで見た顔付きだ?


 「初めまして♪ 私は赤星勇子あかぼし・ゆうこ、真紅の勇者よ♪」


 少女は左の拳を構えて、拳に炎を灯して見せる。


 クラスの面々は、熱血女子だとか正統派だとか言って拍手で迎える。


 「ゆ、勇ちゃん! 勇ちゃんなのか?」


 だが俺は、少女の拳に浮かぶ魔王印に驚き立ち上がった。


 目の前の少女こそ、俺が友情の証に魔王印を渡した親友の少年であるらしかった。


 「久しぶりね進太郎君、これから宜しく♪」

 「では、赤星さんは山羊原君の隣で」


 俺はショックで座り込んだ。


 なんてこった、小学生の時に別れた親友が女の子になっちまった!


 美少女化した親友が近づいて来る、俺はどうすれば良い?


 デリケートすぎる、親友と再会したのに何も言えない。


 「心の声が聞こえてるわよ、進太郎君?」


 勇ちゃん、いや勇子ちゃんと呼ぶべき少女が隣の席に座った。


 おいおい先生、なんてドラマみたいな事してくれるんだ。


 俺のハートはもうHPゼロだよ、勘弁してくれよ。


 「先生、山羊原君を保健室案で連れて行きます」

 「ああ、転校して来たばかりで申し訳ないが宜しく頼むよ」


 俺は勇子ちゃんに立たされて周囲に心配されながら、教室を出た。


 彼女の手の甲の魔王印を通じて、自分がお姫様抱っこされて周囲に目撃されながら廊下を移動してるのとかわかるのが辛い。


 「失礼します、彼を休ませてあげて下さい!」

 「ああ、彼の様子だとそうした方が良いね? 良いよ」

 「ありがとうございます、先生」


 気だるげな顔の女性保健医の許可を、勇子ちゃんが取る。


 勇子ちゃんの手により、ベッドの上に置かれる俺。


 「あんたの教科書借りるからね? 午前の授業のノートは、取ってあげる♪」

 「……ああ、笑顔は素敵だよ勇子ちゃん」

 「あ、あんたはそうやってさらりと恥ずかしい事を言わないの!」


 勇子ちゃんは顔から炎を出して赤面し、保健室から去って行った。


 なんと言うか、俺はこれから彼女とどう付き合えば良いのかを悩んだ。

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