悪魔の王子は戦隊レッドを守りたい

ムネミツ

第一章:幼馴染との再会編

第1話 悪魔の王子の日常

 「追い詰めたぜ、クライム悪魔バールマン!」

 「け~っけっけ♪ こっちの罠だとは思わないのか混血野郎っ♪」


 時は夜。所は遊具の少ない無人の児童公園。


 人気がないのは幸いだ、市民を巻き込まなくて済む。


 俺は蝙蝠型の使い魔、デーモンバット達と共に戦闘の為にこの公園へと追い込んだ全身がバールの怪人と向き合う。


 人間の骨をバールで抜いて殺害した外道の癖に、人を馬鹿にするとは許せん。


 「お前みたいな外道よりマシだよ、デーモンシフト!」


 俺の叫びと共に、足元から紫色に光る魔法陣が展開される。


 魔法陣から溢れる魔力の光が、俺とバールマンの間を遮るバリヤーになる。


 悪党に変身妨害とかさせねえよ。


 俺の体に、魔法陣から飛び出た黒い悪魔の鎧がガチャガチャと装着されて行く。


 鎧から棘が生え、魔力が体内に注がれ俺の全身を駆け巡る。

 

 人の形態から、悪魔の形態へと変身する儀式だ。


 魔力が血管を駆け巡り鎧の下では、筋肉や骨格とかバキバキ変形して行く。


 目は真赤で血涙とか出る、顎は牙が生えて頭の角は伸びてむちゃくちゃ痛い。


 光と魔法陣が消えれば、敵の前に立つ俺は全身を黒い鎧で覆った悪魔の騎士だ。


 「ゴートランド王子、デーモンナイト参上! さあ、断罪の時間だ!」


 一応ヒーローなので名乗る、活動は使い魔が記録してるから問題なし。


 「黙れよ、人間混じりの黒山羊野郎っ!」

 「魔力も低くて、魔界社会からはぐれた罪人のお前よりはマシだよ」

 「王家に生まれただけの癖に、くそったれのブルジョワが~っ!」


 人の事を馬鹿にしておいて煽り返されてキレる奴、何処の世界でもいるよなあ。


 バールマンが手の甲から鉤爪みたくバールを生やして突進し、俺に襲い掛かる。


 相手の突進を両手で受け止める。


 うん、確かにこいつは純血の魔族の中でも弱い。


 人間形態でも倒せなくはないかな?


 いや、それでもこの人間界では警察や他のヒーローの手を逃れて悪事を働けるから厄介だ。


 魔界の害悪は、魔界側でなるべく始末したいので俺はフル武装で仕留める。


 俺は、速攻で片を付けるべく叫ぶ。


 「魔力発動、デーモンサンダーッ!」


 俺の叫びと同時に、兜の頭頂部にある金の山羊の角から金色の稲妻を放出する。


 「ウギャ~~~~ッ!」


 ゼロ距離だから外さねえ、バールマンは苦悶の叫びを上げる。


 感電して肉を焼かれ、全身から煙を上げるバールマン。


 「デーモンチェック!」


 魔眼を発動して、敵の状態を確認。


 ゲームみたいに画面が浮かび、相手のステータスがわかる。


 俺はきちんと、相手の肉体だけでなく魂も事切れた事を確認したのであった。


 「断罪完了、アイテムボックス召喚」


 俺は奴の体から片手を離して虚空から黒いキューブを取り出す。


 バールマンの死体はキューブに吸い込まれると、キューブは虚空に消えた。


 「敵の死体回収も良し、これで一仕事上がりだな」


 現場を見回して被害がない事を確認する。


 被害ゼロ、これなら弁償しなくて良いな。


 人間で言うチンピラ程度の強さだが、快楽の為に己の力を悪用しATM強盗や連続殺人をやらかした凶悪犯には変わらない。


 被害者の皆様ご遺族様、事件はキッチリ片を付けました。


 被害者の魂は神様達に任せようと、俺は合掌する。


 魔界の王子とは言え半分は人間だし、神仏は敬う。


 これも俺が国ごと魔界で嫌われてる要因だが、知った事じゃない。


 クリスマスや盆暮れ正月も祝うのは、日本人の習慣だ。


 俺は第二の故郷である、日本の郷に従ってるだけ。


 明日も学校だし、飛んで家に帰るか。


 背中から蝙蝠の翼を生やして魔力で浮き上がる。


 満月を背にして俺は空を飛び、風呂に入ったりして寝るべく家路へと急いだ。


 街外れにある武家屋敷の前に降り立ち、俺は変身を解く。


 屋敷の門には『山羊原』と言う表札の横に『山羊原流古武術道場』と『ゴートランド大使館』と書かれた看板が付いている。


 色々盛り過ぎだが、これが我が家だ。


 正門の脇の通用口を開けて入ると古民家っぽい母屋。


 その隣に庵と言う感じの小屋が道場。


 更に隣に、お化け屋敷っぽい洋風の家が大使館だ。


 色々盛り過ぎな我が家であった。


 「ただいま~!」


 靴を脱いで下駄箱に仕舞い家に上がる。


 「殿下、お帰りなさいませ~♪」


 家の奥から、オネエ口調の長身痩躯で黒髪糸目の美青年執事がやって来た。


 「ザーマスか、皆はどうしてる?」


 俺はこの吸血鬼執事に、家族や仲間など家の連中の事を尋ねた。


 「フンガーはラボ、ガンスは大使の護衛でお祖父さま達はお休みです♪」

 「そうか、大体いつも通りだな」

 「殿下も、お風呂などのお休みのご用意はできております」

 「ああ、ありがとう」

 「お城に戻られて、魔王様にご挨拶をお忘れなきように」

 「わかってるよ、魔界にも顔は出す」


 玄関でやり取りを終えて、洗面所で手洗いとうがいをしに行く。


 鏡を見て、一応人間形態に戻ってる事を確認する。


 短い黒髪、美人で魔王の母のお陰もあり普通な顔の父の遺伝子と合わさって少しやさぐれた感じの目つきで黄色い瞳のギャルゲー主人公顔。


 頭頂部から子山羊位の黒い山羊の角が生えてるのは、悪魔ハーフだから仕方ない。


 うん、これでも人間形態なんだ。


 着てる服はシャツの上に、パーカーとカーゴパンツ。


 悪魔になったら、下半身毛むくじゃらで足は蹄とサテュロスみたいになる。


 手洗いとうがいを終わらせて出て、自部の部屋へと入る。


 八畳間の和室だ。


 部屋にあるのは、ノートパソコンが置いてある机と壁の本棚と桐の和箪笥。


 机の脇に通学鞄とか置いてる。


 寝る時は押入れから布団を出して敷いて寝る。


 床に向けて手をかざし、魔法陣を展開してその上に乗り魔界へと転移する。


 魔界の城の自室は、薄紫色の洋間。


 ベッドもクローゼットも洋風、壁の棚には本や武器など趣味グッズ。


 ゲーム機とかは魔界の自室に置いてある、こうした二重生活が楽しめるのは魔王子としての嬉しい役得だった。


 こっちの部屋の明かりが南瓜ランタンなのは、魔界の俺恩国が毎日ハロウィンみたいな所だから。


 ドアを開けて城の廊下に出ると、南瓜頭だったり吸血鬼だったり色んな種族のモンスターメイドさんが働いていた。


 城の廊下の明かりも南瓜ランタンで統一されている。


 ちなみに、城の外観も巨大なオレンジ色の南瓜とゴートランドは南瓜の国だ。


 「まあ殿下! お城では南瓜パンツにお召し変え下さいませ!」


 パーカー姿で出て来た俺を見た、一人の綺麗な金髪の吸血鬼メイドが叫ぶ。


 「いや、勘弁してくれよヴィクトリア?」


 俺はこちらに詰め寄って来た、ザーマスの姉である筆頭メイドのヴィクトリアにたじろいだ。


 「なりません、面倒なら私がお着替えをさせていただきます!」

 「ちょ、勘弁してよ?」

 「なりません、幼いころから変わらないんですから!」


 ヴィクトリアが指を鳴らすと、俺は黒い貴族服にオレンジの南瓜パンツという微妙な王子様ルックに魔法で着替えさせられた。


 「ささ、女王陛下がお待ちですわよ♪」

 「母親に帰宅の挨拶しに来ただけなのに、何でこんな目に!」

 「女王陛下は滅多に魔界から出られないのですから、殿下の方が合わせるのが王子としての筋でございます♪」

 「いや、知識としてはわかるけど面倒なんだよな」


 俺は長身でマッシヴな金髪吸血鬼メイドに連行され、謁見の間へと入る。


 レッドカーペットが床に敷かれてるけど、天井や壁の照明は南瓜ランタンだ。


 「お帰りなさい、進太郎しんたろう♪ 私のパンプキンベイビー♪」

 「ただいま戻りました、母上」


 俺は片膝で傅いて一礼した。


 目の前の玉座に座る二十代位のピンク髪の美女が我が母。


 魔界の一国家の女王、クイーン・ゴートランド。


 着てる衣装は南瓜を模したオレンジのドレスだが、発してる魔力と圧は魔王だ。


 「今日の戦いは見事であったぞ、流石は我が息子♪」

 「お褒めいただき光栄です」

 「うむうむ♪ 我が国を代表するヒーローとしてこれからも励むのだ♪」

 「はい、明日も学業にヒーロー活動にと頑張ります」

 「うむ♪ では、下がって良いぞ♪」

 「はっ!」


 俺は母親であり上司とのやり取りを終えると、謁見の間から退室した。


 今日のタスクは終わったので、人間界の部屋に帰って寝よう。

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