街で過ごしながら、魔物を倒す ⑧
ひたすら無属性の魔力をぶつけ続けた。
その結果、ようやくその魔物の息の根は止まったらしい。
「ふぅ……」
俺がその霧の魔物を倒し終えた時、周りの地形はすさまじいことになっていた。
当然、やられっぱなしでいることはあり得なかったのだ。抵抗に抵抗を重ねて、このありさまである。
地面は大きくえぐれ、木は倒れ、明らかに自然的ではない地形の壊れ方をしている。
その倒した魔物は、一つの真っ白な石だけを残して消えた。
……この霧の魔物、倒した時にこの石しか素材として手に入らないのだろうか。苦労して倒すしかない割には、これだけのものしか手に入らないのってなんか割に合わない感じがする。それともこの石一つで、かなりの価値があるものだったりするのだろうか。
「咲人、お疲れ様!」
「クラ、ありがとう。色々助けてくれて」
「当たり前だよ! 咲人に何かあったら嫌だから」
クラはこんなに危険な魔物を相手にした後だというのにも関わらず、何処か楽しそうだ。緊張感の欠片もなく、おそらくこういう魔物と戦うことはクラにとってそこまで危険なことではなかったのだろう。
なんというか、俺だけ心配していたみたいだなと思う。
「サクト、お疲れ様。こんな魔物を簡単に倒してしまうなんて、流石だわ」
フォンセーラはそう言って小さく笑っている。
あの魔物は俺ばかり狙っていたのもあって、フォンセーラには自分の身を守っていてもらっていた。
フォンセーラに何もなくて良かったとはほっとする。
「初めて戦うタイプの魔物だったから緊張したけれど、上手く倒せてよかったと思う」
「サクトならどんな魔物でも倒せるようになるはずだわ。それだけの力をサクトは持っているもの」
フォンセーラは俺が母さんの息子であることを知っているからこそ、なんていうか結構俺がどれだけの力を持っているかというのを俺以上に確信しているというかそういう感じの気がする。
その期待に応えられるだけのことを俺は出来るのか。俺が母さんの息子として相応しくなかったらフォンセーラはどういう態度になるんだろう? そのことを考えると少し何とも言えない気持ちにはなるが、その時はその時だよな。
じっとフォンセーラを見ると、不思議そうな顔をされる。
「サクト、何か気になることでも?」
「……えっと、この地形どうするかなって」
ごまかすように違う言葉を口にする。
その返答に関してはクラが元気よく答える。
「僕が綺麗にしておくよ!」
そう言いながらクラが魔力のようなものを放出して、その場の壊れに壊れた地形を動かし始める。
クラ、そんな器用なことが出来るの? 凄いな。
元々ただの黒猫だったはずなのに、こういう力を簡単に与えられる母さんって本当にすさまじい力を持つ神様なんだな……って思った。
そしてあっという間にその場は、まるでここで戦いなどなかったかのように元通りに戻った。
「クラ、凄いな」
俺がそう言って巨大化したままのクラを撫でれば、猫なで声をあげる。
気持ちよさそうで何よりである。
そういえば異世界に来てからクラは魔法で自分の体を清潔に保てるらしい。日本にいた頃は家族で交互にお風呂に入れていたのを思い出した。
「サクト、ここに長居しすぎると流石に人がきてしまうわ。記憶を消すなどが出来るのならば問題はないけれど……」
クラのことを撫でて時間を使っていたら、フォンセーラからそう言われる。
母さんは簡単に人のことを操ったり、記憶を消したりとか出来るけれど……正直俺はそんなことは出来ない。というか、出来たとしてもあまりやりたくない。
だって人の頭をいじるのって怖くないか?
意図せぬ効果とか残しそう。
母さんはそういうの全く気にせずに好きなように、人の記憶いじったり、常識を改変したりしているんだろうけれどそういうのが出来るのは母さんだからである。
そういうわけで俺達はその後、そそくさと宿へと戻った。
今の所、誰にもばれていないようでほっとする。
しばらく魔物が完全にいなくなったと判断されるまでは、警戒態勢は解けないだろう。元凶の魔物は倒したのでそれも時間の問題だ。
街の人々が魔物が居なくなったと安心するまでの間は、街中で俺たちも基本はのんびりしていた。魔法の練習をしたいとひっそりと街の外に出ることは何度かしたけど。
――それでしばらくして、街の人々もようやく件の魔物が居なくなったことを納得したらしく、俺たちも表立って街の外に出ることが出来るようになった。
あの魔物は何処に消えたのかと散々街では噂されていた。正体不明の魔物が居なくなったことには安心しているが、また現れたらどうしようと不安がっている人たちもいた。
うーん、今後こうやってひっそりと魔物を倒す際は、討伐されたことは分かるようにした方がいいのか?
そのあたりは今後の課題だなとそんなことを思うのだった。
ひとまずそうして、人々を脅かしていた魔物を倒し、街には平和が訪れたのであった。
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