街への到着とクラのこと ②
「母さん、どうしたの?」
母さんの声だけ聞こえてくるということは、家族会議と言うわけでもないと思う。
次の脳内家族会議の予定はもう少し先になっていたはずだ。
母さんは用事がなければ俺にこういう風に話しかけてきたりしないので何かあったのだろうかと不安になる。母さんが俺に連絡をしてこなければならないような事態ってどういうのだろうか。
『クラの神獣化が完了したから、そっちに送るね!!』
母さんの言葉に俺は驚く。
そういえば、家で飼っていたペットの黒猫――クラネットを神獣化させるという話を確かに母さんはしていた。もっと時間がかかるものかと思ったけれど思ったより早かったことに驚く。
そして母さんの言葉と同時に宿の部屋に見慣れた姿が現れる。
「クラ!」
俺が知っているクラの姿がそこにある。
今までと全く変わらないように思えるけれど本当に神獣化しているのだろうか。なんて思っていたら一つの声が聞こえてきた。
「咲人!! 会えて嬉しい」
それは少年のような声。……一瞬、誰の声なのか分からなかった。でも次の瞬間には、俺はそれが何の声なのか理解した。
「まさか、クラ喋ってる?」
「うん。乃愛に喋れるようにしてもらった! 家族と一緒、嬉しい!!」
……クラって母さんのこと、自然に呼び捨てにしている? よくよく考えたらクラって地球に居た頃から父さんにべったりくっついていて、母さんから「私がくっつくの」と張り合われてたりしていた。
神獣化したということはクラも母さんが神様だということは分かっているだろう。それでもあえて呼び捨てにしているというのならばある意味凄いと思う。
「クラは母さんのことを呼び捨てなんだな」
「乃愛は乃愛だよ! 神様だって聞いたけれど、いいって言われた」
『クラだから許可してあげたの。クラに畏まられてもびっくりするしね。咲人、生き物って私に怯えること多いのに抜けているっていうか、全然最初から私に怯えなかったんだよ』
……そういえば動物園とか行った時も気性が荒いという動物も母さんが近づくと大人しくなっていったっけ。あの時は気にしていなかったけど母さんの影響だったのか。
でも確かに母さんを前にすると皆大人しくなっていた気がする。それは母さんが神様で、そういうのを感じ取っていたからってこと?
「そうなのか。クラは凄かったんだなぁ」
「別に凄くないよ。乃愛が神様って聞いてびっくりした。でも神獣化したら皆と一緒って聞いたからなった」
「そっかぁ。俺達と一緒に居たいと思ってくれていたんだな。俺もクラと異世界でも一緒で居られて嬉しいよ」
クラが俺達家族と一緒に居たいとそう望んでくれたことが嬉しくて、思わず頭を撫でる。撫でたら気持ちそうな顔をクラがしている。
「撫でられるの好き」
そういうクラの頭を引き続き撫でまわす。相変わらず撫で心地が良いなぁ。
「母さん、クラを連れ歩くなら何か手続きとかした方がいいの? 普通に街を連れ歩いていいの?」
『別に問題はないと思うけれど。でも奪おうとされたりするかもしれないから、ちゃんと証はつけておいた方がいいよ。私の方でつけようか? クラが咲人のペットだって証』
「じゃあ、お願い」
『うん。クラも証つけていい? ちゃんとつけておかないと悪い人がクラと咲人を引き離そうとするかもしれないから』
「つけて! 僕は家族以外とは一緒にいかない!」
母さんはクラの返事を聞くと、遠隔で何かしたらしい。クラの首についている首輪が光った。
母さんって今、何処から俺たちに声を繋いでいるんだろう? きっとかなり遠い場所だと思うのだけど、そこからこうやって力を使っているって凄いことだよな。本当に母さんってすさまじい。
俺自身が魔法の制御を学んでいるからこそ、余計に母さんの凄さを実感してしまう。こういうことが出来るからこそ、神様で、母さんは恐れられているのだろう。
『これでちゃんとうちの家のペットだって証付けたから! まぁ、本当にどうしようもない時は幾らでも力づくで反抗してもいいからね』
「……母さん、なるべく平和に治めようよ」
『いくら平和的に解決しようと思っても出来ないことなんて幾らでもあるんだよ? そういうのは力づくで解決が速いよ?』
「まぁ、それはそうだけど」
『私も博人が平和に解決した方がいいって言うからあんまり力づくはしない予定だけどね。でもどうしようもない時は全部ぶちのめすよ』
母さんは本当に自分のやりたいようにするために行動をしている。邪魔をする者が居れば迷いなく排除する。本当に思いっきりが良いなと思う。
「大丈夫。乃愛、僕が咲人に酷いことする人いたらどうにかする」
『うんうん。よろしくね。クラ』
クラは俺に何かする人が居たらどうにかすると言っていたけれど、神獣って実際にどういう力を持っているんだろう?
なんて思っていたら、母さんが言う。
『神獣だから、力は強いよ。私の神獣だしね。まだ産まれたばかりだから出来ないことも多いけれど、後々もっと強くなるよ。今でも国一つ潰すぐらいは出来るだろうけど』
……母さん、遠隔で俺の心を読まないで。
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