街への到着とクラのこと ①

「報告は聞いている。その盗賊たちはこちらで預かろう」




 街に到着すると、きちんと伝達がされているようで盗賊たちは騎士たちが引き取ってくれた。

 どうやらこの盗賊たちは、かなり大暴れしていたらしい。かなりの被害者が居たらしく報酬ももらえた。普通に働くよりも高額な報酬である。






「サクトは犯罪者を捕まえて突き出す方がお金稼ぎしやすいかもね」

「……必要に応じてはいいけれど、常には嫌かなぁ。何か恨まれそうじゃないか?」






 俺は魔法が使えるからこそ、そういう賞金首を捕まえることは簡単に出来るかもしれない。ただそうやって人を敵に回してしまう行動はなるべく控えたいとは思う。俺の何気ない行動で誰かに恨まれることはあるだろうし、絶対に人に恨まれないなんてありえないだろうけど。






「そんなことを考えるだけ無駄だと思うわ。やりたいようにやればいいだけなのよ」




 簡単にそう言ってのけるフォンセーラは、賞金首たちを捕まえることに対して本当に特に何も感じていないのだろうというのがよく分かる。

 母さんもそういう感じなんだよな。自分の行動で何がどうなろうとも全く気にしない。そのくらい俺も図太くなりたいものである。








 フォンセーラと会話を交わしながら宿を探す。

 フォンセーラもこの街には初めて来るようで、どこの宿に泊まるのか選ぶのは難儀した。というのも街には宿が沢山あった。治安の悪いエリアも一部あるようなので、そのあたりも考える必要があった。

 俺一人ならばそういう所でもいいかもしれないが、フォンセーラは若い女の子だしなぁ。フォンセーラ自身は「別にどこでもいい」と言っていたけれど俺が気にする。






 そういうわけでちょっと治安のよい場所の宿を取った。フォンセーラは普段旅をする時にもう少し安めの宿に泊まるらしい。母さんへの信仰以外にそこまで関心がない。ゆっくり休める場所があればそれでいいとそう思っているようである。




 流石に同じ部屋は取っていない。フォンセーラは同じ部屋でも構わないと言っていたが、流石にそれは断った。だって年頃の男女で同じ部屋というのは問題だと思う。俺は落ち着かないしな。










「フォンセーラ、今日はこのまま宿で休むか?」

「ええ。夕飯の時に合流か、明日合流かどちらにする?」

「俺はどちらでもいいけれど」

「そうね。じゃあ、明日集合にしましょう」






 俺とフォンセーラの関係性は、母さんとのことで一緒に過ごすことになったとはいえ俺達自身が変わるわけでもない。元々解体の仕事を教わっていた時から俺たちの関係はそういうものだった。必要な時に関わって、必要じゃない時には関わらない。

 うん、そういうものなのだ。

 俺の家族のことをフォンセーラが知ったとしても、フォンセーラが母さんの信者であることを俺が知ったとしてもそれはそれなのだ。




 


 明日の朝になるまでは俺達は別行動予定なので、部屋の中でゆっくりする。

 この異世界にやってきて短い間だけど色々あったなぁとベッドの上に座りながら思う。




 母さんのことで召喚されて、それで家族の秘密を知って……。

 それから街で過ごして、過激集団と遭遇して……、そして今、こうしてまた見知らぬ街にいる。

 これからもきっと色んなことが起きていくんだろうな。




 またこの前の連中のような母さんと母さんを信仰する者たちを許さないった人たちが現れる可能性もあるだろう。……俺は息子として母さんに対して好感を抱いている。母さんは好き勝手していて、だからこそ反感を買うのは当然と言えば当然だ。でも父さんと出会ってから母さんは大人しくしているからそういう反発も無くなるかもなとは思う。母さんは父さんに夢中だから手を出されなきゃ手を出すことなんてしないだろうし。






 この前の出来事のように母さんの助けを借りなくて済むように俺自身がピンチにならないようにすることが第一か。母さんがそれだけ沢山人前に顔を出したら大変なことになるだろうし……。












「まだ、父さんの新しい身体準備している最中なのかな……」




 この前はまだ父さんの新しい身体の準備をしているというのを言っていた。その最中に俺が母さんを呼んだから、機嫌が悪かったわけだし。

 ……母さんは父さんの新しい身体が出来て、それで楽しく異世界を見て回っている時にまた呼ぶことになったら不機嫌になるだろうな。






 


 父さんの新しい身体か。母さんが気合を入れて調整しているだろうけれど、どういう感じになるのだろう? 

 そういうことを考えながらぼーっとする。




 初めて盗賊の相手をしたから、なんだか少し疲れてしまっている。だからこうやってゆっくりする時間が落ち着く。明日からはまたこの街で色々とやることがあるから、一つずつ詰めていかなければ。俺が神界に行くためにも進めるべきことをフォンセーラと相談する必要もあるし。
















『咲人、聞こえる?』




 ――そうして俺がのんびりしていると、頭の中に母さんの声が響いた。




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