街への到着とクラのこと ③

「クラ、あまり物騒な対応はしないでほしい」

「物騒なって?」

「殺したりはなるべくしないようにってこと」

「なんで?」

「……俺があんまり見たくないからかな。それが理由じゃダメ?」

「分かった! 乃愛から気に入らない人、排除すべきって言われたけど咲人が言うならそうする!」




 ……母さん、クラの教育どうなってるの。

 そういう物騒な教育はしないで。いや、まぁ、クラは神獣になったわけだし、そういう力づくの対応をしても問題がないのかもしれないけれど!

 というかこの世界での母さんの扱いを考えるに、母さんの神獣というだけで触らぬ神に祟りなしということわざの通り関わらなければいいものって認識になりそうだけど!




 でも俺はなるべくクラにそういうのはしてほしくないなと思う。





「母さんってこれからも神獣とか増やす予定あるの?」

『ん? ないよ。なんで?』

「いや、増やした神獣全員にこういう力づくで全て解決すべきみたいな教育するのかなーって」

『しないよ。というか、私の神獣を勝手に名乗っているのはいるけど、私がちゃんと自分の手で神獣化したのクラだけだし』

「勝手に名乗っているの?」

『うん。私のこと勝手に崇拝して名乗っているのはいる。私の名前、勝手に使われるのは嫌だよね』






 母さんの言葉を聞きながら、まじまじとクラのことを見る。

 俺の手にじゃれついているクラは、神獣化しているとはいえただの愛らしい黒猫にしか見えない。それでもこの世界にとってはきっと特別な存在なのだと思う。




 母さんが唯一、自分の手で神獣にした存在。勝手に名乗っているようなまがい物たちとは違って、正式な母さんの神獣ってことだよな。母さんが意図せずに生み出してしまった何かは他にもいるかもしれないけれど、母さんが自分の意思で力を与えた生物って中々居ないのかもしれない。

 俺は母さんの息子だって知られたら大変なことにはなると思う。騒ぎになって面倒なことになるのは間違いない。クラだって母さんの生み出した神獣だって知られたらそれだけ色んな人が手を出してきそうだなと思う。






「お前も大変だな。クラ」

「んー? 何がー?」

「母さんの神獣だって知られたら、大変なことになりそうだからな」

「ふーん。僕、よく分かんない」

「クラが大変な目に合わないように俺も気をつけるからな」






 クラは神獣化したとはいえ、人の世界について詳しいわけではないだろう。元々、猫だし。人の考え方とか、どれだけ自分が狙われるかもしれないとか、そういうことは考えてないと思う。

 そういう部分がクラらしいなと思う。




「母さん、クラを連れて行くにおいて他に何か懸念することってある?」

『んー? 特にないと思うけど。何かあるっけ』

「母さん、疑問形で聞かれても俺じゃ分かんないよ」

『神獣としての力は隠すようにはするようにクラには言ってあるけど、漏れたら神関連の人たちが来る可能性はあるけど』

「……それはそれで困るなぁ」

『私の方でも息子とペットに手を出さないようには言っておくね。私が言っておけば大人しくしてくれると思うから』

「うん、お願い」






 手を出さないように言っておく――というのがどういう対応なのかは俺には分からない。物騒な脅しをしそうな気はするけど……。

 それにしても神様かぁ。母さんや華乃姉と志乃姉はともかくとして、他の神様はどんな存在なんだろう……って心配にはなる。








『じゃあ、私が言いたいのはそれだけだから』

「母さん、次の家族会議はいつ? その時はクラも一緒だよね?」

『まぁ、そのうち皆呼んで家族会議するよ。その時はクラも一緒ね!! 咲人とクラは仲良くするんだよ。ちゃんと仲良くしないと私がメってするからね?』




 父さんが俺とクラが仲良く旅をするといいなぁとでも言ったのかもしれない。だってそうじゃなければ母さんは俺とクラの仲の良さなんてきっと気にしないから。うん、母さんは父さん至上主義だから。




 そのまま母さんの声は聞こえなくなった。

 なんていうか、嵐のように母さんは去って行った。本当に気まぐれで、自由気ままで。それが母さんの本質なんだろうなとは思う。









「乃愛の声、聞こえなくなった!」

「うん。母さんはもう居なくなったみたい。クラは神獣になったなら母さんに連絡したりできるの?」

「乃愛は博人と一緒なのを邪魔されたくないからってそういうの全部遮断しているっぽい! だから僕からは無理」

「あー。なるほど。母さんらしいなぁ。母さんも聞こうと思えば俺たちの声を聞いてくれるだろうから、問題ないか」






 父さんと二人きりで過ごしていて、それを邪魔されたくないからという理由だけで遮断しているというのは母さんらしい話だ。






 この前みたいに俺が危機に陥ったら駆けつけてくれたりはするから、聞こうと思えば聞いてくれるだろうし、問題はないだろう。









 その後、俺は宿にクラを部屋に入れる許可をちゃんと取ってから、夕食を食べた。クラには野菜を出してもらった。食堂ではなく、部屋に食事を持ってきてもらった。

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薄井君は召喚されたので異世界を漫遊する~家族の秘密を知った件~ 池中 織奈 @orinaikenaka

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