依頼をして、解体を習ってみたり ③

 小さな魔物の解体は、数をこなしていけば少しずつ出来るようにはなった。

 とはいえ、フォンセーラさん曰くまだまだらしい。確かにフォンセーラさんの解体と比べると俺のは全然だ。なんというか、素材を傷つけてしまったりしているし。




 俺は解体って難しいなぁ、というそういう気持ちでいっぱいである。




 それに前世と違って魔物と呼ばれる生物たちは、魔力を含んだ身体の部位が色々ある。解体を失敗すると死体に残った魔力が暴走したりなんてこともある。そう考えると本当にこの世界で解体を行う職業の人たちって凄い技術を持っているのだと思った。






「フォンセーラさんは、魔物も簡単に倒して、解体も出来て凄いですね」

「褒めても何も出ませんよ?」

「ただ凄いなと思って言っただけなので、何も要らないです」



 そもそも解体を教えてもらっているだけでも俺にとっては物凄く有難いことだ。依頼をしてやってきた冒険者がフォンセーラさんみたいな人だったことも。




 もっと屈強な見た目で、威圧的な人だったら俺はこんな風に落ち着いて解体を学べなかっただろう。逆に人との距離感を詰めるのが得意な人だったら、俺は喋らない方がいいのに自分のことを喋って……俺が異世界から来たということを悟られたかもしれない。

 そう考えるとフォンセーラさんみたいな距離感の人で俺は良かったと思っているのだ。








 ちなみに割と朝から、夕方ぐらいまでずっと付きっ切りでフォンセーラさんは教えてくれている。ご飯はそれぞれ別々で取っている。特に解体のこと以外は会話は交わしていない。

 作業中などは無言の時間もあるが、俺としてみればその時間も特に気まずくはない。向こうはどう思っているか分からないけれど。








 一日だけでは解体を教わることは出来ないので、フォンセーラさんへの依頼は五日間ほどである。フォンセーラさん曰く、「解体だけでそれだけの日数依頼するのは珍しい」とのこと。というか、冒険者相手に解体を教えて欲しいという依頼だけをする人はちょっと珍しいらしく、俺は変わり者を見る目で見られていた。






 正直、生き物を解体することに対して最初は躊躇いもあったけれど、何度も何度もこなしていくと少しずつそれにも慣れてくるものである。

 一日目に解体した魔物は、二日目にはもっと上手く解体出来るようになった。そしてもっと大きい魔物の解体へと進んでいく。




 前世でいう大型犬ぐらい大きい魔物がとびかかってきた時は血の気が引いた。だって鋭い牙が光っていて、怖くなったのだ。でもその魔物もフォンセーラさんは簡単に倒してしまっていた。突然、とびかかられたのに動揺の一つもしていなかった。もしかしたら探知系の魔法でも使っていて、魔物が来るのが分かっていたのかもしれない。

 その大きめの魔物の解体はてこずった。

 なんというか解体用の刃物の入れ方にもコツがいって、なかなかうまく解体が進まなかった。でもお手本のフォンセーラさんの解体は本当に要領が良くて、俺もいつかこんな風に解体出来るようになりたいなと思った。





 あとフォンセーラさんは、収納の道具も持ち合わせていた。

 この世界では高価な道具なのに、俺と同じ年ぐらいのフォンセーラさんが持っていることに驚いた。


 それだけ彼女は冒険者として成功している分類なのだろうと思った。






 若くしてそういう道具を持ち合わせていると、狙われることもあるらしい。

 それなのに俺の目の前で普通にそれを使ったことに、ちょっと驚いた。俺が周りに言いふらさないと思ってくれているのか、それとも言いふらされたとしても困らないぐらいにフォンセーラさんが強いのか。どちらかなのだろう。






 依頼中のみしか一緒に居ないので、俺は彼女のプライベートは全く知らない。


 ただ解体作業後に街を歩くフォンセーラさんは、人気のないエリアへと向かっていた。俺が行かない方がいいと止められたエリアに足を踏み入れいてたので、大丈夫かなと心配した。

 しかし翌日に普通に解体を教えてくれていたので、フォンセーラさんにとってそういう場所に足を踏み入れても問題がないのだろうということが分かった。やっぱりフォンセーラさんは凄い子なのだろう。










 ――そして、フォンセーラさんに解体を教えてもらうようになった三日目。

 丁度、もう依頼の半分も過ぎたのかと思ったある日のこと。






 




 フォンセーラさんが、一冊の本を落とした。

 それは俺が解体作業に勤しんでいる間に、手持ち無沙汰になったフォンセーラさんがいつも読んでいるものである。カバーがかけられているので、表紙も俺は確認していなかった。

 その本を落としたことにフォンセーラさんは気づいていなかった。それを俺は拾い、その時にその中身が見えてしまった。









 ――大いなる闇の女神ノースティアへお祈りを捧げます。





 ……その本には、母さんのことが書いてあって思わず固まってしまった。





 そうしていればばっと、フォンセーラさんに本を奪われる。






「……中身を見ましたか?」

「いえ、見てないです」




 明らかに中身を見られたくなさそうに見えたので、そう言っておく。

 母さんは色んな意味で有名な女神だから、それに関するものを読んでいると知られない方がいいのだろうなと思った。


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