依頼をして、解体を習ってみたり ④

 特に俺はフォンセーラさんが母さんに関する本を持っていたからといって、それを問いかけることはしなかった。というより、フォンセーラさんはそのことについて触れられたくなさそうにしたいたから、問いかける必要はないかなと思ったのだ。




 それに下手に問いかけて、俺が母さんの息子だと露見したらややこしいことになることは間違いない。




 とはいえ、解体を教わっている最中にフォンセーラさんが熱心にその本を読んでいることに関しては気になったけれど。だって、そこそこ分厚い本……この世界では高価なものを持ち歩いてよく読んでいるってそれだけその本に特別な感情があるということだろうから。




 そんなことは思ったものの、俺は特にフォンセーラさんに何も聞かなかったのでその事情を知ることなどなかった。







「フォンセーラさん、この解体、上手く出来たと思うのですがどうですか?」

「最初の頃よりは上手く出来ていると思います」




 小型の鼠のような姿の魔物の解体。

 その魔物はもう何度か解体をしているので、上手く解体が出来たと思って問いかければ、淡々とそう言われる。




 フォンセーラさんは俺を褒めたりはしない。ただ淡々と、正直に自分の考えていることを口にするタイプのようである。フォンセーラさんは俺の解体が下手だったら、「上手く出来ていない」と正直に言うだろうから、この解体は彼女の目から見ても合格点だったのだろう。

 そう思うと嬉しくなった。




 出来なかったことをこうして出来るようになっていくことは、なんだか達成感がある。




 ただ解体って本当に奥が深く、難しい。魔物によって適切な解体の仕方というのが違うのだ。解体のプロと呼ばれる人たちは、どんな魔物でも解体が出来るのだろうか? うん、凄いと思う。

 フォンセーラさんもこのあたりに一般的に生息している魔物の解体はお手の物らしいが、別の場所の魔物の解体だとこんな風に出来ないと本人が言っていた。解体方法が特別で、難しい魔物だとそれだけ専門家じゃないと解体が出来ないってことだよなぁ。




 ひとまずこれからのために解体を学んでいるわけだけど、俺はこの世界でどういう風に生きていくかはまだまだ決め切れていない。

 一点特化で何かを極めるのもありと言えばありだけど、やりたいことをなんでもかんでもやるのもありだよなぁ。今度の家族会議の時に相談もしてみるか。






 ……フォンセーラさんと一緒だから、今まで危険な目に遭っていないからとそんなことを考えて俺は少し油断していた。




 その結果、


「危ないわ」


 フォンセーラさんに声をかけられるまで、魔物が近づいてきていることに気づいていなかった。





 フォンセーラさんが即座に倒してくれたから問題はなかったが、俺一人だったら大惨事になっていたのではないかと思う。その魔物は小さい所謂スライムのような魔物だった。その魔物が半透明だったからこそ気づきにくかったというのもあるだろう。というか、スライムって半透明なの? それだけ近づいてきたの分からなくて怖そう。しかもなんかフォンセーラさんが倒した瞬間に色づいていて、そういう姿を隠す特性でもあるのかと驚いた。








「気をつけてください。依頼主に死なれたら困ります」

「はい。すみません。ありがとうございます……」

「この魔物の解体もしましょう」






 フォンセーラさんにそう言われて、そのスライムのような魔物の解体を始める。

 今まで解体してきたものと体の部位が違いすぎる。あと半透明になっていたのは、そういう特性を持つ魔物とスライムが交わった結果の変異体らしい。……なるほど、本来なら交わるはずのない魔物達が交わって、両方の特性を持つ魔物が現れたということか。




 そういう変異体も数は少ないけれど、この世界ではそれなりに見られるものらしい。

 そうなるとこれからこの世界で旅をする中で、見た目が普通でも、違う特性を持った変異体がいる可能性があるということか……。やっぱりこの世界って危険だなと改めてそう思った。






 透明化のような特性を持つ魔物は、多いわけではないがそれなりにいるにはいるそうだ。ただ完全に気配を消せるものはあまりおらず、大体が音や匂いなどで察することが出来ると言われた。あとは完全に透明化するではなく、今襲ってきたスライムのように半透明とかだとまだ分かりやすいようだ。






 スライムの解体は失敗した。フォンセーラさんには「もったいないです。でも初めてなら仕方ないです」と言われた。俺が刃物を入れる場所をミスして、素材として使い物にならなくしてしまったらしかった。






 そうやって俺はフォンセーラさんに、様々な魔物の解体を教わった。









「フォンセーラさん、ありがとうございました」

「はい」




 解体の依頼をした日数はあっという間に過ぎていき、別れ際にお礼を言えば、頷いてフォンセーラさんは去って行った。








 ――このままフォンセーラさんとの関わりもなくなるだろうと、この時は思っていたのである。

 しかし、この後のとある一件から俺は彼女と関わりを持ち続けることになる。


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