依頼をして、解体を習ってみたり ②
「あなたが解体を教えて欲しいという依頼者ですね。私はフォンセーラ。よろしくお願いします」
驚いたことに俺の依頼を受けてくれた冒険者は、俺と年の変わらない女の子だった。
フォンセーラと名乗ったその子は、黒みがかった茶色の髪と緑色の瞳を持つ少女だった。
俺に対する関心のない冷めた瞳。それでいて淡々とした様子である。
「フォンセーラさんですね。よろしくお願いします」
「はい。ところで解体を教えて欲しいということですが、どの魔物の解体から始めますか? またあなたは魔物を自分の手で倒すことは出来ますか? 魔物を倒すところから私の方で行う場合は、ギルドと相談して追加料金をいただければと思います」
フォンセーラさんの言葉に、それもそうかと思った。
俺は魔法を使って魔物を倒すことは出来ている。とはいえ、それは解体が出来ないほどに魔物を損傷させてしまっている場合が多い。それこそ姿かたちも残らないほどに燃やし尽くすとか。
剣に関してはまだまだ上手く使えない。
俺の魔法は周りにあまり見せない方がいいだろうから、一旦、魔物討伐もフォンセーラさんに頼んでおこうかな。
「じゃあ、討伐からフォンセーラさんに頼んでもいいですか?」
「分かりました。では、追加料金を上乗せで」
フォンセーラさんは俺に対する関心はないのだろうと思う。
だからこそ何も聞いてこないので、その点は俺にとっては助かることであった。だって俺はこの世界に来たばかりだから、ちょっと突かれたらボロが出てしまいそうだから。
下手に俺が神である母さんの息子であることなどが露見したら絶対に面倒なことになるからなぁ。
受付のお姉さんとまたやり取りをして、追加料金を設定した。
それから、フォンセーラさんと一緒に街を出る。
それにしても女性の冒険者はパーティーで行動していることが多いはずだけど、フォンセーラさんは珍しいのだろうなと思った。
俺もフォンセーラさんに自分のことは話すつもりはないので、フォンセーラさんに何か聞くというのもやめておいた。だって自分は話さないのに人のことだけを聞くのってどうかと思うから。
「どういった魔物を解体したいのですか?」
「色々試してみたいと思っているので、教えてもらえると助かります」
「分かりました」
フォンセーラさんは俺の言葉に頷く。
深く聞いてこないというのは、楽である。
下手に色々探られたらややこしいからなぁ。
フォンセーラさんは魔法が使えるようだ。ただ俺のように姿かたちが全てなくなるほどの倒し方ではない。なんというか、少し抑えて魔法を使っている感がある。力任せに魔法を行使してしまったら、解体なんて出来なくなってしまうから。
フォンセーラさんが一番最初に狩ってくれた魔物は、小さな小動物型の鼠のような魔物である。すばしっこい魔物だった。ただこちらに対する敵意は少なめの魔物。それを逃がさずさっと、魔法で仕留めていた。なんていうか、手際が良い。
風の魔法って案外使い勝手が良いのかもしれないと、フォンセーラさんの使った魔法を見て思った。
短い詠唱で、的確に相手を仕留める。
俺の力技での魔法とは違って、洗練されているというか、うん、凄いと思う。
俺ももっと魔法を上手く使えるようになりたいなと思った。なんていうか、身体の中の魔力を力任せに使うよりも、技術を高めた方がいいってそう思うのだ。
そういうわけで俺はフォンセーラさんの魔法をよく観察することにした。
じーっと、魔法を観察していると、「何ですか?」と怪訝そうな顔をされる。
「魔法が上手だなと思って」
「……そうですか。まぁ、良いです。それでは次の魔物を倒します。いくつかためてから解体を教えますので」
「はい」
フォンセーラさんは俺の言葉に疑問はあっただろうけれど、それ以上何かを問いかけることはなかった。
何種類かの魔物をフォンセーラさんが手際よく倒していく。一回も苦戦することない。その様子が本当に凄いなと感心する。このあたりの魔物が強くないからというだけなのかもしれないけれど、これだけ簡単に倒せるというのは魔物との対峙に慣れているのだろうなと思った。
俺が想像つかないような強い魔物とも戦ったことがあるのかもしれない。小柄な少女が魔物を倒している様子は絵になるものだと思う。
「解体はやったことはありますか?」
「ないです」
「わかりました。では、まずは――」
フォンセーラさんは、俺に丁寧に解体の仕方を教えてくれる。血抜きの様子には少し気分が悪くなった。あんまり血を見たことが俺はないから。
……でもこれからこの世界で生きていく上で、解体はちゃんと出来るようになっていた方がいい。
そういうわけで試しに解体をしてみる。しかし、俺は初めての解体というのもありかなり下手である。
フォンセーラさんの呆れた目が映る。
でも呆れていてもちゃんと教えてくれるので、フォンセーラさんは良い人だと思った。
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