脳内家族会議 ③
「母さんは本当に父さんのことが大好きだよね」
『当たり前じゃん。博人は、私の唯一だから』
母さんのゆるぎない言葉を聞きながら、思わず笑ってしまう。
母さんは神様で、この世界にとって特別な存在で、驚くほどの力を持っていて――それでも、母さんは母さんなんだと実感した。
父さんのことが第一で、それ以外のことをどうでもいいと思っている。母さんにとっての世界というのは、きっと父さん一色なんだろうと思う。きっとどこにいたとしても父さんがいればいいと思っているから――だから、地球だろうと異世界だろうとどこでもいいのだろう。
「母さんは父さんに会えてよかったね」
それは心からの言葉だった。
だって、おそらく母さんは父さんに出会えなければもっと退屈していたのではないかと思ったから。こんな風に心から幸せそうに過ごすことなんてきっと出来なかっただろうとそう感じた。
俺の言葉に母さんはご機嫌な様子だ。
『うん!! そうだよ。私は博人に出会えて本当によかったの!! 博人が居なかったら私の今、こんなに楽しくなかったからね。それに子供なんて産もうと思わなかっただろうし』
母さんはそんなことを言う。うん、母さんは家族だからとかで俺たちを特別に思っているわけではないのだ。無条件に子供だからと愛するほどの母性は母さんにはなく、他でもない父さんとの子供だからということでしかない。
『というか、咲人ってそのうち神界にも来る? 多分、私の知り合いの神たちは咲人にも会いたがると思うけれど』
「心の準備が出来たら、行くかも。でもすぐはちょっとまだ怖いかなぁ」
『咲人を虐める人なんていないよ? そんなことをされたら私がどうにかするよ?』
「出来たら自分でどうにか出来るようになりたいかな! だから、母さんはよっぽどのことがない限り干渉はしないでいいからね」
『うん。博人にもあんまり口出ししないようにって言われてるからそんなに口出しはしないよ。神界に自分の足で行こうとするなら色々手続きっていうか、手順あるけど自分で調べる?』
母さんの言葉に俺は少し思考する。
ただでさえ母さんからこの異世界で生きやすいようにと色んな知識をもらっているのだ。なんでもかんでも母さん任せというのはちょっとかっこ悪い気がする。
「ええっと、一旦自分で調べてどうしても分からなかったら聞くとかでもいい?」
『うん。ただ緊急事態だったら無理やり呼ぶかもしれないけれど』
それにしても神様の居る世界への行き方ってどういうものなんだろう? ファンタジーな小説やゲームみたいな感じで何かしら特別な儀式みたいなのをして向かうとかなのかな? 母さんや華乃姉、志乃姉たちから招かれる手法だとすぐに行けそうだけど折角だから色々探してから行ってみよう。
それに母さんが神だったとしても他の神様と会うのってなんだか怖いしなぁ。
『咲人、僕も神界にすぐ行くつもりはないから、行く際は一度声をかけるね』
「父さんたちは異世界を見て回るんだっけ?」
『うん。折角だから、色んな所を乃愛と見て回ろうかなって』
『私が博人のことを完全に独り占めするの!! 神界に連れて行ったら博人が囲まれちゃうもん』
父さんと話していたら、母さんが割り込んでくる。
父さんは他でもないこの世界で特別な母さんの伴侶だということで、騒がれるんだろうと思う。
……母さんは独占欲が強い方だから、父さんが神様たちに話しかけられるのも嫌なのだろう。
父さんたちが神界に行くときに、俺の心の準備が出来ていたら一緒に行くのもありなのか。何にせよ、その時考えればいいか。
『乃愛、僕よりも乃愛の方が囲まれると思うよ』
『そんなことない! 博人はすごいもん。私の大切なものだからって手を出す馬鹿もいるかもしれないから、ちゃんとしないと! ね、博人。神様の中には見た目が良い人も多いけれど、浮気しないでね? したら相手を消し飛ばしちゃうからね?』
『しないよ。僕には乃愛がいるからね』
『えへへ、そうだよねー。博人には私だけでいいもんね』
……浮気されたら相手を消し飛ばすとか言っているあたり、本当に母さんって物騒で重い人だと思う。
『本当に母様は相変わらずだよね。咲人は恋人作るなら、母様みたいに重い相手だと大変だからね』
『上手く舵を取れないと最悪監禁されちゃうと思うわ』
「そうだね。でもそういう相手をもし好きになったら、大切にしたいなとは思うけれど」
華乃姉と志乃姉の言葉に俺は同意する。ただ好きになった相手がそういう重い相手だったら、ちゃんと大切にして答えたいとは思う。まぁ、母さんほど重かった俺じゃ受け止められないかもしれないけれど。
俺の言葉に華乃姉と志乃姉は笑っていた。
――それからしばらく何気ない会話を交わして、その日の家族会議は終わる。
『じゃあ、咲人。次の家族会議でね。でも何かあったら呼んでいいよ。私がすぐ行くから』
母さんのそんな言葉で家族会議は締めくくられる。
その後、すぐに脳内に響いていた声は何一つ聞こえなくなった。
俺はそれからベッドに横になって、眠りにつくのだった。
次の家族会議までにもっとこの世界できちんと生きていけるようになっていればいいと、そんなことを考えながら――。
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