脳内家族会議 ②

「華乃姉と志乃姉はもう神界にいるの? 他の神様と交流を持っているってこと?」

『そうよ。母様の娘だからって凄い大騒ぎしてて面白いわ。母様はこれまでの長い間、子供を産むことなかったらしいの。気まぐれで誰かを気に入ってもそれだけだったみたいだから』

『本当に母様が誰かを愛することなんて、この世界の神々は想像もしていなかったみたい。どうせすぐに飽きるのではないかとか、信じられないとか、皆そればかり言っているのよ。母様が父様に飽きるわけないのに』



 俺の言葉に、華乃姉と志乃姉がそんなことを言う。




 俺は父さんの傍に居ない母さんをあまり知らない。だけど日本にいた頃も父さんがいないと雰囲気が違うと周りから聞いたことはある。




『私が博人に飽きるわけないじゃん。そんな馬鹿なことを言ったのは、どの神?』

『乃愛、何かする気? 駄目だよ。仲良くしようね?』

『博人がそういうなら、そうする!』




 ……そして母さんは馬鹿なことを言った神に何かしようと思っていたらしいが、父さんに止められていた。

 神様というのは、人の手の届かない超越的な存在である。その神様同士の中でも序列というものがあるようである。母さんはこの世界の神様の中でも上位な存在なのだろう。






「母さんって父さんにどうやって出会ったの?」

『聞く? 聞きたい? 博人と出会ったのはね、『勇者』が『魔王』を倒して地球に帰ったあとのことだよ。私は地球ってどんなところだろうって気になって遊びに行っていたの。そしたらそこに博人がいたの。あの時、お姉ちゃんが『勇者』のために一年間時を戻していたんだよね』

「何、時を戻していたって」

『こっちの世界の方が時間の進みが早くて、『勇者』が地球に帰ろうとした時、一年間過ぎていたの。それでお姉ちゃんが『勇者』に甘いから、向こうの時間巻き戻して常識改変してたんだよ。でもね、博人にはそれが効いてなくて。流石、私の博人だよねぇ』






 母さんが楽しそうに語る言葉に、色々と疑問が湧いてくる。『勇者』が地球から呼び出されていたのも、一年間時間が戻っていたのも……うん、色々と突っ込みどころが満載だ。

 それを父さんがきいていないっていうのも、どういうこと?






「父さんはその時、どうしていたの? ええっと、いきなり時間が巻き戻っているのに自分だけ気づいていたって状況?」

『そうだね。高校二年生が二回始まって、混乱していたね。だけどそのまま気づかないふりして過ごしていたなぁ』

「……父さん、何もリアクションせずに二度目の高校二年生やってたの?」

『うん。僕にはどうしようもないことだったから。行方不明になっていたはずの『勇者』が学園に居たり、異世界からやってきたお姫様などがいたりして混乱はしたけれど』




 やっぱり父さんのメンタルは色んな意味ですさまじい気がする。要するに自分一人だけが時間が一年巻き戻っていることと『勇者』や異世界人がやってきていることを知っている状況で普通の暮らしって出来ないと思う。




『それだけじゃなくて『勇者』関連で色んな異世界のモノが地球に紛れ込んでいたりしていたからあの時はちょっと大変だったなぁ』

「色んなものっていうのは?」

『魔物とか色々。乃愛もそれでやってきた神様だったし』




 その異世界のモノというのに、母さんも入るらしい。

 母さんと母さんが出会ったのってそういう経緯だったのか。他に全くない感じで出会っていてびっくりする。






『私ね、地球で色んな人操って遊んでいたの。漫画とか読んで、実際にそのシーンを再現させてみたりとか。そうやって遊んでいたら博人を見つけたの。私のおねがいは絶対的で、その身体が壊れたとしても皆疑問も持たずに行動するの。皆、私に魅了されて私に逆らうなんて出来ないはずだったのに、博人だけは自分の意思で私のお願いを拒否してたの。だから、博人はその時から私のダーリンなの!』




 ……遊んでたとか、シーンを再現とか、身体が壊れたとしても疑問を持たないとか。

 うん、母さん、日本の人たちに割と無茶ぶりなお願いしていたの? 気づかないふりをし続けている父さんが、そのままスルー出来ないレベルのお願いをしたってことだよな?

 本当に父さんが母さんの手綱を握っている状態でよかったのかもしれない。そうじゃなければもっと地球は混沌としていたかも……。






『私たち半神でも抗えないし、母様の話だと神様もお願い聞くんでしょ?』

『うん。お姉ちゃんとかにも効くものだから、これだけ私の力が効かないのは博人だけだよ』


 華乃姉たち半神やこの世界の神様にも有効なのに、父さんにだけ効かないって本当に凄いことだよな。






『それでまぁ、私は博人の傍に居たいって思ったから常識改変して幼なじみとして潜り込んだの。博人にね、幾ら改変出来ても郷に入っては郷に従えだよって言われて名前や見た目変えておいたの。その後に、異世界関連で博人が危険な目に遭ったから全員とっちめて、異世界関連のモノは全部異世界に帰したんだよ。博人は力は効かないけれど身体は人間で弱いから、その方が博人が傷つかずに済むなって思って。だから、今は異世界と地球の繋がりはないからね!』






 これ、父さんが危険な目に遭わなかったら異世界のモノが地球に入り込んだ状態のままだったってことだろうか? 母さんが怒るほどの何かがあったんだろうなとは察した。


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