脳内家族会議 ①
「母さん!?」
周りに母さんの姿はないのに、その声が聞こえてきたことに俺は驚いてしまう。
まさか近くにいるのかとあたりをきょろきょろと見渡すが、そこに母さんの姿はない。この部屋にいるのは俺だけである。
『咲人、私はそこにはいないよ。脳内に話しかけているだけ』
「……そうなの?」
『うん。直接言葉を送り届けることぐらい簡単だから』
そんな風に母さんは言う。
こうやって簡単に伝えることが出来るのなら、母さんにとって伝達の道具などは不必要なものなのかもしれない。
「ええっと、何の用?」
『家族会議しようと思って!! ちなみにね、博人は直接声を送り届けられないから私が博人の声を送るからね』
「家族会
『うん。博人にね、咲人に説明しなさすぎだってちょっと怒られちゃったの。私なりにサポート手厚くしたつもりだけど、まだ足りなさそうなんだって。あと博人は咲人のこと気にしているから、これから定期的に家族会議をしようって話になったの。だから時々こうやって直接咲人に話しかけるね』
母さんの言葉を聞きながら、絶対に父さんが言わなければこんな家族会議が開催されなかっただろうなと思った。
それにしても母さんが異世界の神様だって知っている上で叱れる父さんってやっぱり凄くないか?
俺が父さんと同じ立場だったらと思うと、難しいと思う。
『というわけで、家族会議開催! 華乃と志乃も呼んでいるからね』
母さんはとても元気である。
父さんを異世界に連れ帰れるのが嬉しくて仕方がないのだろうというのがよく分かる。
『咲人、異世界はどう? 無茶していない? 母様に無理強いされたんじゃないよね?』
『華乃、酷い。私も息子に無理強いしない! そんなことをしたら博人に怒られちゃうもん』
『母様にとって父様の言うことが絶対なのは知っているけれど、咲人は異世界のことなんて知らなかったんだから急に母様の基準で無茶ぶりしちゃ駄目』
『志乃もそんなこと言わないでよ! 私は凄く咲人によくしているよ! 息子じゃなきゃそのまま放置してたもん』
華乃姉と志乃姉の声が頭の中に響いて、びっくりする。
地球にいた頃は華乃姉と志乃姉の母様父様呼びをちょっと変わっているなぁとしか思っていなかったけれど、二人は色々知った上で敬意をもってそう呼んでいたのかもしれない。
「華乃姉、志乃姉、俺は無理強いはされてないよ。結局俺が異世界に居ることを決めたから」
『本当? ならよかったけれど、母様い無茶ぶりされたら言ってね』
『私たちじゃ母様をとめることは出来ないけれど、父様にいえば止めてくれるから。というか、母様、父様の声が聞こえないんだけど……』
『博人の声、私だけが堪能してたの! でも博人にちゃんとしてって言われたから、これから届けるね』
母さん、本当にマイペースだよなぁ。
自分で家族会議を開催しておいて父さんの声を届けないとか……、でもなんか憎めない感じが母さんらしい。
『咲人、いきなり異世界に来ることになって驚いただろう? 何か不安なこととかないか?』
「父さん、まだ来たばかりだから分からないけれど、今の所は大丈夫。父さんは異世界に来たころあるの?」
『いや、ない。乃愛には誘われたけれど僕は行く気なかったから一回も行ってない。僕は乃愛と一緒にそっちに行くけれど、咲人は一人だろう? 何かあったらすぐに乃愛のことを呼ぶんだよ。乃愛をすぐに行かせるから』
父さんは俺のことを心から心配している様子である。父さんっていい意味で全くぶれない人なのだと思う。
お嫁さんが異世界の女神だろうが、異世界に行こうと誘われようが……平坦な声で、平然としている。
俺もそのぐらい動じないようになりたいなとそんな風にも思った。
『えへへ、博人の頼みならいくらでも聞くよ。その代わり、ご褒美ね? 博人がご褒美くれるなら私もっと気合いれて頑張るよ?』
『乃愛、子供たちの前だから自重しよう?』
『うん。でもご褒美は頂戴? ほしいな』
『乃愛が頑張っているなら、僕があげられるものならあげる』
『やったー!!』
『でも乃愛、ご褒美が欲しいからって咲人に何かするのはなしだよ?』
『……博人が言うなら、そうする』
母さん、俺に何かする気満々だったの? 父さんは長い付き合いだからか、母さんの考えを先に読めていたらしい。母さんは自分の欲望に忠実で、本当に自由すぎる。母さんが俺に何かするにしても、酷いことはしないだろうけど……でもそういうことはされない方が助かる。
『父様は本当に凄いよね。母様にそんな物言いできる人っていないって他の神様も言っているのに』
『うん。母様が最愛を見つけて、首ったけで、言うことをなんでも聞いているって聞いて神様たち信じてなかったもん』
ああ、そういえば華乃姉と志乃姉は神界に行っているんだっけ??
他の神様の話をしているということは、もうこっちに移動しているようだ。
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