異世界に召喚される ⑥

 母さんはいつ頃帰ってくるだろうか、と少し心配になりながら待つ。

 ――その待っている時間は、そこまで経っていないのに凄く時間が経っているように感じられる。






 家族と一緒に居たいからというのと、異世界に興味があるからというのもあり、異世界に留まることを母さんに言ったけれど……ちょっと早まっただろうか? いや、でも結局のところ、俺は母さんにあんな風に頼まれたら頷いてしまったと思う。



 それにしてもいつ頃、母さんは戻ってくるだろうか。

 そんなことを考えながら近場を探索してみることにする。




 相変わらず母さんに操られたままだという黒いローブの男たちは心あらずといった様子でそのままだ。

 ……急に動き出したりしないよな? とちょっと心配になる。



 この薄暗い洞窟のような場所には、色んなものが置かれている。

 読めない文字で書かれているものだとか、大きな壺が置かれていたりとか、本当にここは異世界なんだなと実感する。






 一人で異世界に来るわけではなく、家族も一緒になら普通の異世界転移よりかは安心感がある気はする。……でもあれかな、母さんは父さんと二人で異世界を周りたいとか思ってそう。

 というか、母さんが神様なのは分かったけれど、この世界って他にも神様いるのかな? 流石に異世界で普通に暮らしていた母さん一人だけがこの世界の神ってことはないだろうけれど……。

 それに闇の女神って言ってたよな? 母さんってこの世界でどういう立ち位置の神様なんだろうか……。




 母さんが神で、華乃姉と志乃姉は半神で、俺も人の枠組みをかろうじて保っているとか母さんに言われていて……。そう考えると母さん曰くただの人間なのに普通に母さんをお嫁さんにしていた父さんは色々おかしいのかもしれない。さっき母さんは父さんから女神としての力を使わないようにって言われていたって言ってたし。神様的な立場の人にそういうことを望むって凄い事だよな。

 俺にとって母さんは神様である以前に、神様なんだけど……。でも父さんって別に最初から母さんと知り合いだったり、家族だったりしたわけではなさそうだしなぁ。




 そういうことを考えると普通だと思っていた父さんの異常性というか、凄さを実感した。








 そんなことを考えていたら、





「ただいま、咲人」

「うおっ!」




 いきなり母さんが目の前に現れて、本当に驚いた。














「びっくりしすぎ」

「いや、普通に驚くから! 前触れもなくいきなり来られると心臓に悪い。ええっと、それで父さんはなんて?」

「咲人も異世界に行くなら、異世界にきてくれるんだって。ふふっ、嬉しいな。ついでにね、博人は私とずっと一緒に居てくれるっていってくれたから、折角だから生きている人間としての身体とこっちで準備している身体掛け合わせていい感じにしようかなって」



 母さんはにこにこである。よっぽど父さんをこの異世界に連れてこれることが楽しみで仕方がないのだろう。




「でもちょっと準備したりしてからって言ってたから、もうちょっと後から来るって! 博人がこっち来てくれたら一緒にぶらぶらするんだ! 私のお気に入りの場所とか、博人に沢山紹介して、博人が行きたい場所に連れて行って、沢山遊ぶの。凄く楽しみ!!」






 うん、母さんはやっぱり父さんと一人でぶらぶらする気満々な気がする。華乃姉と志乃姉の事も一緒に連れていく気なさそう。




「咲人はどうする? 華乃と志乃たちは神界の方に顔を出してみるって言ってたけど」

「神界……って神様が沢山いるの?」

「うん。色々いるよー。大体私の名前を出せば手出しはしてこないと思うから安心してね!」

「……そっか。ええっと、折角の異世界だから一人で回ってみたいっていったら母さんは助けてくれる? 俺は正直いきなり放り出されたら生きていけないと思う」




 


 一瞬、華乃姉と志乃姉と一緒に行くことも考えたが、折角なので一人で回ってもいいなと思った。

 それに母さんが神様なこととかは受け入れざるを得ないけれど、いきなり神界とかに連れていかれるのは……ちょっとまだ心の準備が出来ていない。




 母さんがサポートしてくれるのならばどうにでもなる気がして、大丈夫な気もするし……。




「もちろん。死んでも蘇生させるし、安心してね。咲人が死んだら博人が悲しむからね。あとはそうだね、咲人の封印していた魔力は解放しとくね!」

「……ええと? 魔力?」

「うん。咲人は産まれた時からかろうじて人間ではあったのだけど、そういう力は携えてたから。地球だと使わないだろうし、制御も出来ないと大変だから一旦封印してたんだー。こっちで暮らすならあった方が便利だからね」




 母さんはそういうと、俺に手をかざした。それだけで何かされたというのは分かる。不思議な感覚のものが身体の中にあるので、これが魔力的なもの? それにしても俺ってそういう力持ってたんだ……。

 ということは、魔法とかも使えるのかな? そう思うとちょっとだけワクワクした気持ちにはなった。




 あと蘇生とかいう単語が聞こえてきたけど、母さんってそんなことまで出来るの……?




「魔力の使い方とか、必要な知識も植えちゃうね!!」

「え。それってどういう……?」

「あった方が便利だから」




 母さんはそういうとまた俺に何かした。……それと同時に一気に何かが頭の中になだれ込んでくる。

 これはあれか……?

 小説や漫画で時々見かける知識を授ける的なもの? 母さんってそういうことも出来るんだと驚いた。




 そういう必要な知識がないまま放り出されたら俺は大変な事態にはなったと思う。だっておそらくこの世界と、地球の常識ってかなり違いそうだから。






「あとは服もかなぁ。それだと目立つから、はい、これ」

「この服、どうしたの?」

「今、創った」

「……そう」






 流石に学生服姿はこの世界では目立つからと母さんが服までくれたが、これは今生み出したもののようだった。……召喚されてから本当に知らない母さんの姿が沢山見られて、びっくりすることだらけだ。




 ひとまずその服に着替える。




「あとはそうだね、クラに直接聞いてみたら咲人と一緒にいってもいいって言ってたから今、神獣化させてる」

「しんじゅうって??」

「神の獣って書くんだよー。私の力を分け与え、別の生物に書き換えてる感じ。力の制御できるようになったら咲人の所に送り込むから、それまで一人で頑張って! 他に聞きたいことある? ないなら人の街の近くまで送るよ」

「正直今すぐ質問が思いつかない!」

「じゃあ、後から聞いて。なんかあったらすぐに答えるから。それじゃあ、もういい? 私早く博人の所帰りたいの」

「……ああ、うん。大丈夫。何かあったら聞く」






 本当にもう、母さんはマイペースすぎる。

 父さんと離れているのが嫌なのか、凄く父さんの元へ行きたがっているし……。




 俺が頷いたら、母さんは笑った。





「じゃあ行ってらっしゃい。咲人」


 そんな母さんの言葉と共に、俺の目の前の光景は一瞬で変わった。




 瞬きした瞬間に視界に映ったのは、街道とそれを囲む森林だった。



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