異世界に召喚される ⑤

「このまま異世界で暮らす……? 帰ることは出来ないの?」




 異世界転移物だと、元の世界に帰れないと言う話はそこそこ読んだことがある。色んな関係があって、異世界から地球に戻ることは出来ないと……そのまま異世界に移住する物語。


 俺の場合もそうなのだろうか? そう思って母さんに問いかけた。






「咲人を帰すことは出来るけど、あんまり世界を渡りすぎるとただでさえ曖昧な咲人の存在が人の枠組みから外れちゃうからね」

「どういう意味?」

「咲人は仮にも私の息子なんだよ。父親である博人は人間だけど、咲人は神の子供なの。だから人間としての枠組みにかろうじて入っているみたいな感じなの。ちょっと何かがあれば神様に傾いちゃう感じ!」

「えええ? 俺、そうだったの……?」






 母さんの言葉に呆然とする。



 だって俺は今まで普通の人間だと思っていたのに、人間としての枠組みにかろうじて入っているだなんて……。いや、でも母さんが神様だってことを考えると、その子供が普通に考えれば人間である方がおかしいのか??






「うん。華乃と志乃はね、それこそ私のお腹にいる時から神としての意識があって、普通の半神って感じだったんだけど。咲人は私から産まれたにもかかわらず、普通の人間の子供みたいに産まれて、育ってきたけれど――それって本当にレアケースなんだよ。それでまぁ、咲人は本当にぎりぎり人間みたいな感じだったから、この世界に私を呼びだすためって呼ばれて人間の枠組みから離れつつありそうなの。地球に戻っても枠組みから離れたらちゃんと私みたいに擬態しないと、年を取らないとかになって浮いちゃうよ?」

「……あー、なるほど」

「それにね、咲人がこっちにきてくれるって行ったら博人もこっちにきてくれると思うの。だからね、咲人は異世界で過ごそ?」

「……母さん、そっちが本音?」






 母さんはなんだかんだ理由をつけて俺を異世界に留まらせようとしているけれど、一番の本音は父さんを異世界に連れていきたいってだけな気がする。もちろん、俺がギリギリ人間だっていうのは本当のことかもしれないけれど。



 あと俺は全然知らなかったけれど、華乃姉と志乃姉って半神だったの? 完全に俺だけ何も知らなかったのかと思うと、ちょっと面白くない気持ちになる。




「咲人、どうしたの?」

「……いや、母さんが神様で、父さんが色々効かない体質で、それで華乃姉と志乃姉が半神だって俺だけ知らなかったんだなって」

「拗ねてるの? 咲人は何も知らずに産まれたからね。いきなりこういうこと言っても信じられないでしょ? それに二十歳になったら言うつもりではあったんだよ」

「そう……」

「うん。話を戻すけれど、私は博人にこっちに来て欲しいの。元からね、人間としての博人が死んでもその魂は私が連れ帰る予定なんだけれど、博人がね、頷いてくれないと博人を新しい身体に入れられないもん!!」

「母さん、新しい身体って何」




 俺だけ何も知らなかったのかと正直面白くない気持ちでいっぱいだったけれど、母さんの言っていることが突っ込みどころが多すぎて思わず口にしてしまった。


 ……人間としての父さんが死んでもその魂を持ち帰る。

 死んでも離さないってなんだかヤンデレとかみたい。それを物理的にというか、本当にやれてしまうのは母さんが神様だからなのだろう。

 母さんが父さんを異世界に連れてきたいのは分かったけれど、新しい身体とは……。






「私ね、博人が頷いてくれたら、博人を新しく準備している身体に入れるって博人に言ってるの。人間としての博人が亡くなった後、魂だけ連れて帰ると博人と話せなくて寂しいでしょ? だから博人が頷いてくれたら、博人を新しい身体に入れて一緒にずっと過ごそうって言ってたの。でもね、咲人がこっちで過ごすって言ってくれるなら、博人は異世界に転移するの頷いてくれると思うの。華乃と志乃も前倒しでこっちに来るって言ってくれるだろうし。家族でこっちに来るなら、前倒しに出来るでしょ? 博人がね、力を使わないようにっていうから私は地球で力を使わずにしていたの。地球だと博人に近づく生物を遠ざけられないの。私だけが博人を独占出来るのが一番なのにね。でもこっちでなら私が力を使うのも当たり前のことだし、私が私の博人を独占するのもやりやすいの」





 やっぱり母さんでヤンデレ……? 地球では大人しくしていたのは、父さんが言ったからってだけなのか……。こっちが母さんの素なんだろうなと思う。

 父さんは死してもなお離さないって宣言されて、新しい身体というよく分からないものも作られている状況で恐怖心なども感じることなく平然と過ごしてたってこと??




 メンタルどうなっているんだろうか……。それだけ父さんも母さんを大切に思っているから、重すぎる気持ちでも受け止めているとかそういう感じ?






「だからね、咲人もこっちにいよう? 咲人も今回の召喚の影響もあって人間からは外れそうだしさー。ちょうどいいよ? 家族皆で仲良く過ごそう? 咲人が頷いてくれたらすぐに博人を説得しに行くから、いいでしょ?」



 凄く圧を感じる。

 というかおそらく母さんは、神様だからやろうと思えば俺を人間のまま地球に戻すことも出来ると思う。でも母さんは父さんを異世界に連れていきたいがために俺を人間じゃない何かにして異世界に留まらせたがっている。




 中々自分勝手な思想なのだけど、ブレなさすぎて逆に清々しい。

 俺が地球に戻ることを選択しても多分なんだかんだ母さんはそれを受け入れはすると思う。父さんは俺の意思を尊重してくれると思うから。ちょっと母さんはすねるかもしれないけれど。






 ただ……俺は家族のことをとても大切だと思っている。

 父さんのことも、母さんのことも、華乃姉と志乃姉のことも。それに家で飼っているペットの黒猫、クラネット――クラのことも。




 俺だけ人間として死んで、家族と会えなくなるのって寂しいと思う。





「……母さん、俺が異世界に来ることにしたらクラはどうするの?」

「こっちに連れてくればいいと思うの! ほら、異世界に転移ものだとペットと一緒もよくあるでしょ? クラもどうせなら普通の猫じゃなくして一緒に旅してもいいよ!」




 家族でこっちに来るという話をしていたので、クラはどうするのだろうかと疑問を口にする。

 軽く言われた言葉にやっぱり母さんって凄いんだなと思った。というか、普通の猫じゃなくするって何なんだろう……。なんか魔物的なものになるってこと?






「――それなら、俺は異世界にこのままとどまってもいいよ。俺も母さんたちに会えなくなるの嫌だし。人間としての枠組みから外れるっていうのはちょっと怖いけど、何かあったら母さんが助けてくれるんだろ?」

「うん。私、子供は助けるよ。博人との子供だもん。それより、とどまるって言ったよね? じゃあちょっと博人に話してくるから、待ってて!」

「え」

「ふふふっ、博人をこっちに連れて帰れるの楽しみ!」

「ちょ、ま――」








 母さんは俺の制止の声も聞かずにそのままその場から消えた。

 ……文字通り、存在が喪失した。え、何? 母さん、今何したの? 漫画や小説などでよく見る転移とかそういうやつ? 父さんに聞きに行くって今ので世界を渡ったってこと??




 というか、こんな場所に一人で置いていかないで!! 俺はそういう気持ちでいっぱいになったが、結局母さんが帰ってくるまでどうしようもないので大人しくその場で待つことにするのだった。



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