異世界の、はじめての街 ①

 まっすぐに進めば街につく。

 それはなぜか頭の中に勝手にインプットされていた。




 母さんが俺に植え付けた知識の中にそれがあるのだろう。

 ……簡単に誰かに知識を植え付けられるって、本当にそれだけでも母さんは規格外すぎると思う。

 母さんと話していて受け入れてはいたけれど、母さんって本当に神様なんだなぁと思った。




 あと母さんは色々詰めたリュックも一緒に渡してくれていたので、それを背負う。

 ちなみにその中にはメモもついていた。




『必要そうなものは入れておいたから頑張って。異世界転移ものを参考に良さげな街の近くに転移させておいたから』




 父さんが小説や漫画を読むことが好きだから、母さんもそれらをよく読んでいた。あと父さんと一緒にゲームをしたりとかしていた。思えば母さんが好んで行っていたことって全部父さんに関わることばかりである。




 母さん基準で良さげな街ってなんなんだろう……と少しの不安はあるけれど、ひとまず進むしかない。




 ここで母さんの用意してくれた街に行かずに、他の場所に行くというルートも選択は出来るけれど……。ただ異世界の知識は母さんに埋め込まれているとはいえ、そういうルートに行って上手くやれる自信はないので街を目指す。




 そういえば、死んでも蘇生させるとかは言われたけれど……。ただ出来れば死なない方がいい。生き返らせてもらえたとしても結局死んだ時の感覚は残るだろう。でもあれか、この世界で生きていくのなら魔物を殺したりとかはしなければならないのかもしれない。

 それを思い浮かべてもあまり忌避感を感じていないのは、母さんが何かしたのか、それとも俺が母さんの息子だからこそ異世界に来たことで感覚が変わっているのか……。まぁ、どちらでもいいか。






 俺が街まで歩いている間、馬車などは一台も通らなかった。

 街と街は行商人や旅人が行き来しているものらしいが、たまたま誰も来なかったのだろうか?

 母さんは一瞬で俺のことを移動させたけれど、そういうことが出来るのは限られているようだ。

 ……というか今思ったけれど、俺を召喚したローブの男たちって結局どうなったのだろうか? あのまま放置? 母さんならそのくらいしそうな気がする。俺が気にしても仕方がないので、一旦気にするのはやめておこう。






 ――そんなことを考えながら歩いて、その街へと到着する。




 身分証などないと思っていたので、お金を支払って滞在権を得ようとしたらリュックの中に見覚えのない身分証があった。……母さんが用意してくれたそれには、俺の偽りの経歴が載っている。完全に偽装されたものであるのだが、それは簡単に入り口の審査を通ってしまった。

 母さんの力の一端を見てしまった……。

 母さんにとってみれば、そういうことが簡単にできてしまうのだなと実感する。




 あと異世界の文字も気づけば読めるようになっていたので、そのあたりも母さんが知識を与えてくれたのだと思う。






 街の名前は、イミラージュ。

 家族と一緒に訪れた海外の街のような壁に囲まれた街である。野生の魔物の脅威があるからこそ、大抵の村や街は柵や壁に囲われ、侵入を防いでいるもののようだ。






 ただやっぱり地球ではないのだなと感じるのは、そこにいる人々だ。

 人間ではない人たちが明らかにいる。所謂獣人と呼ばれる獣の耳や尻尾のついた人だったり、鱗のようなものを持つ人だったり、背の低い小人のような人だったり――知識としては母さんに頭に入れ込まれたので分かっているけれど実際に目にすると本当にここは異世界なのだと驚いてしまう。








 ただあまりにもその姿を見続けてもおそらく失礼なので、意識してその人たちを見ないようにする。

 あとはびっくりするぐらい肌が見えている服を身に付けている女性もいて、それには驚いた。そういう服もこちらだと当たり前だったりするのだろうか?




 街の入り口で宿を教えてもらったので、俺はそこに向かっている。

 結構この街は広くて迷いそうだけど、しばらくはこの街で過ごす予定なので街の地図は覚えた方がいいだろう。




 ……それにしても母さんが目立たないように服はくれたわけだけど、此処だと黒髪黒目はそこそこ目立つのか、それとも俺が他所から来たオーラでも出しているのか少しだけ視線を浴びていた。




 母さんが俺の見た目をいじらなかったのは、父さんと同じ黒髪黒目を隠させたくなかったからとかそういう感じなのかもしれない。まぁ、俺も見た目は変えたくないから提案されても断っただろうけれど。




 そんなことを考えながら目的の宿に到着する。

 宿によってはセキュリティがちゃんとしておらず、人が侵入したり、物を取られたりする恐れがあったりするらしい。そういうわけで、異世界ではじめて滞在する場所なのでしっかりとした宿に泊まることにする。

 それなりに宿泊費はかかるけれど、そのあたりは母さんがお金もくれているので問題ない。




 ……でもなんか母さんにもらったものだけで生活しているのはかっこ悪いので、自分で全て稼げるようになりたいなと思った。

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