いざアジアへと

僕は見つけてしまった。

理の外に確信を。

今日、僕はここを出ていく。


君は僕のために地獄に下っていったとか言ったけど、僕は葬式で泣けなかったんだ。

僕は別に死にそうでも何でもなかったんだ。

君にプロポーズしたのは君が好きだったからで、なにも生贄が欲しかったからじゃあない。


本の中に書いてある範囲でこじつけて理由を探すからお前らはいっつも馬鹿なんだよ。


神なんて、本当に居ると思うか。

太陽が地球の周りを回っていると、本当にそう思っているのか。


夫のために妻が死ぬなんて、本当に正しいと思うか。


階段を登って橋の真ん中を彷徨う。

川の底をみつめて、やっぱりやめた。

後ろから誰かに肩を叩かれたから。


「実用的な答えほどつまらないものってないと思うんだけど、君はどう考える?」


そいつは僕の目と片手に据えた本とで視線を行き来させながらそう問うた。

周囲をみるとみな、彼を避けて歩いている。この辺りで有名な奇人で、そういえばこんなのの噂を聞いたな。


「……つまらないものが事実世界を回している、と答えたら君は僕の代わりに飛び込んでくれるのか。」


初対面の人に瞳をすえて愚痴る。橋の柵を撫でながら。


「そうだな、川底に面白いものがあるならば、それもまた悪くないとは思うよ。」


君は天を仰いでそう言った。真似て見上げると空がいつもより高く見える。


君は絶望していないらしい。つまらないと世界を自分で断じてしまっても飛行船でも作って飛んでいくつもりらしい。


「僕に着いてくれば面白いものが見れる、と言ったら君は着いてくるのか。」


「なんだい。冥界下りの旅にでもでるのか。」


「そうだと言ったら。」


「もちろん、謹んでお受けしよう。」


僕が冗談を並べ始めてから君は激しく本のページをめくり始めた。いったりきたり、進み続けたり。勢い余って落としそうにすらなっていた。


「君は信じているのか。」


忙しない君にそう問う。


「自分を信じている。本に書いてあることは、ほどほどに。」


探している何かが見つかったように、急に手を止めて、1行1行救っていくように端からなぞっていく視線に変わった。

だから僕は夕方にボケない君の影の輪郭に俯いた。


「じゃあ、明日の10時頃ここで待ち合わせでどうだろう。」


「いいや、君に今必要なのは、これか。」


そう言って一冊手渡される。僕のいちばん嫌いなルールブックだった。


「今日は僕の質問に答えてくれてありがとう。じゃあ、また。」

ひらりと手を振って君は橋を登っていった。


「ああ、そうかもしれない。」


何ページかめくってみて、最後に祈って、橋のそこ目掛けて投げた。決別である。


「代わりに流れていってくれて、ありがとう……。」


橋を降りて、君を掘り起こしに行こう。

君を燃やしてしまって僕は船でも作ろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君が気づいた30のこと のーと @rakutya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る