第4話誘ってみた

金曜日、現場仕事は若い衆に任せた清水は、1日中オフィスで書類と格闘していた。

サングラスを掛けているので、PCのブルーライトはカットされる。

来週の火曜日の輸出中古車のエンジンナンバーと、盗難車のナンバーを確認していたのだ。

昼は同期の山崎係長と昼食を摂った。

「山崎君、今夜の飲み会、総務課の若い女の子誘うんだけど、どこの店がいいかな?」

と、清水は酢豚を口に運び、くちゃくちゃと音を立てて食べた。

山崎は少し考えて、

「若い女の子は味には五月蝿くないから、適当な店でいいんじゃない?」

と、言う。

「馬鹿者、最初が肝心なんだ。『みち潮』にしようか?あそこは、味に失敗はないし、酒類はあるから喜ぶんじゃ無いかな?」

「えっ、みち潮?俺の財布には5万円しか無いぞ」

「皆まで言うな。俺は10万円持ってる。割り勘で2万円ずつで足りるだろ?」

山崎は、カレーライスに生卵を割って入れた。

そして、ズルズルとカレーを口に流し込んだ。

彼らは恥じらいの無い、オッサンなのだ。

昼めしを食べると、清水は総務課に行った。

石川が好きな女の子、寺島こずえに声を掛けると、返事は是非とも検査課の人間と飲みたいと言う。

そして、同期の2人にも寺島は声を掛けて今夜の飲み会に参加する許可をもらった。

20代で「みち潮」で飲めるのは光栄な事だ。

「みち潮」は、高級和食店で社会である程度成功した者しか行けない店である。

金曜日の午後5時半、清水、山崎、石川は定時でアガリ、会社のエントランスホールで女の子を待っていた。

5分くらい待つと、寺島と2人の女の子が現れた。1人は、田中瞳と言い、もう一人は弓削なつきである。3人は同期の22歳。

会社のちょっと離れた場所に、タクシーを2台呼び、「みち潮」へ向かった。

清水がみち潮の店員に声をかけると、個室に6人を案内した。

石川は寺島がいるので、緊張していた。

オッサン2人は生ビール、石川はハイボール、女の子達は聞いたこと無いような酒を注文した。

寺島はレッドアイで、田中と弓削はカクテルだった。

6人は乾杯すると、清水が刺し身の舟盛りと、フグの唐揚げを注文した。

「こうして、検査課の方と飲むのは、総務課では話題になりますよ」

と、寺島が言った。

「なんで?」

と、山崎が質問した。

「だって、ここのお偉いさんは、全員検査課出身じゃ無いですか〜。入社試験の2位までしか配属されない課ですよね」

「そうそう。私たち検査課の方にいつ飲み会に誘われるか、待ってました」

と、次々に総務課の女の子は検査課を褒める。

「清水さんの、右目のウワサ聴いたのですが残念でしたね」 

「うんうん」

まともに聴いているのは、石川だけだった。

清水と山崎は、そういう女の子の褒め殺しなぞ全く聴いていない。

舟盛りが運ばれてきた。

女の子は喜んで、刺し身をつついた。

2時間後、6人はほろ酔い気分で店を出て、またタクシーを呼び、移動した。はしご酒である。

みち潮の支払いは、山崎が2万円、清水が2万円の4万円でお釣りがきた。

次なる店は、割烹料理屋早水である。

タクシーの中で、石川と寺島は楽しく話していた。

それを、清水は黙って聴いていた。

この2人に恋が芽生えれば良いのだが。山崎チームは、山崎は女の子から羨ましながらこんな飲み会、いつでも誘って下さいと言われて、ニコヤカに笑っていたが、その分財布が寒くなる。

来月からお小遣いを増やして貰おうと考えていた。

2台のタクシーは早水前に停車した。6人は早水の暖簾をくぐった。

「オイッスー、もいっちょ、オイッスー」

店内はざわめいた。

「あら、清水さん。1ヶ月ぶりね」

と、カウンターに立つ中年の女性は言った。

6人はカウンター席に座り、有無を言わせず清水は生ビールを6つ注文した。

ここは、旬のモノが置いてある。11月の旬は寒ブリだ。

寒ブリのブリ大根を注文し、若い衆に食べさせた。

「清水さん、めちゃくちゃ美味しいじゃ無いですか!」

と、石川が言うと、

「だろ?ここは、もっと美味しいモンあるんだから」

と、言って、

「女将さん、いつもの6つ」

「あいよっ」

と、言葉を交わしアルバイト君に赤ワインを注文していた。

「山崎君も赤ワイン飲むだろ?」

「この店は、最高級の赤ワインだからな。980円だっけ?」

「うん」

「明日は、二日酔い覚悟で飲んでるから飲むよ」

「か、係長、僕もいいですか?」

と、石川が言ってきた。この前の飲み会で赤ワインにエラくハマったのだ。

「検査課の皆さんは、オシャレですね。私たちも、赤ワイン良いですか?」

と、田中が言うとバイト君にさらに2本赤ワインを追加した。

女の子達は、ここのワインを口にすると、ウワッと言って不味さを理解した。

だが、清水と山崎はグレープジュースのように飲む。

そんな、先輩と上司を持った石川は、2人が何と無くカッコよく見えた。

そして、例のモノが出てきた。

それは、俗に言う、キンカンだった。

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