第3話おでんの大番

清水と石川は隣の居酒屋夜明けから移動して、おでんの大番おおばんの暖簾をくぐった。

店内に味噌のいい匂いが漂っている。

「オイッスー」

「あら、清水さん。今日は、かっこいい子連れてきて」

店主の婆さんが切り盛りしているこの居酒屋は、赤味噌のおでんが有名な店。

おでんも旨いが、豚足が取り分け美味しい。

「お兄さん、何飲むの?」

と、婆さんが言うと、

「え、えっと、ファジーネーブルで」

「ふぁ、ふぁじいねいぶる?ちゃんと、日本語で注文してくれない?」

「婆さん、赤ワインとグラス2つ」

「あいよっ」

「石川、こんな婆さんの店にファジーネーブルがある訳ないだろ。ここの高級ワインも効くぞ」 

「さっきのお店で飲んだワインでだいぶ酔いますね」

「ダメだよ。そんな事言っちゃ。明日が休みなら、もう1軒くらい行きたいけど、ここで打ち止め。あっ、婆さん、豚足2つね」

「あいよっ」

この店は、10人入ると満席になる。

週末は座れない。人気のおでん居酒屋だ。また、店主な婆さんがいい出汁出してる。この前は、ウーロン茶を注文した女の子に、なにしに来たのか?と、説教していた。


「はい、お待ちどうさま。高級ワインと豚足ね」

「ありがとう」

豚足は真っ黒になるくらい煮込まれていた。

石川は恐る恐る、豚足を口に運んだ。

「!!清水さん。豚足が口の中で溶けました!めちゃくちゃ旨いじゃないですか!」

「石川、ここの豚足は手で持って、シャブリつく様に食べると美味しいんだ」 

石川は言われた通りに、手掴みして食べた。

「肉が骨から直ぐに取れます。じゃ、赤ワイン頂きます」 

石川は口の周りを豚足の脂でテカテカさせながら、赤ワインを飲んだ。

それを、清水は嬉しそうに眺めている。清水は、こうやって後輩や部下を店に連れて来ては、反応を楽しんでいるのだ。

石川は顔が真っ赤。

2人して、タバコを吸った。

「石川、その総務課の女の子はなんて名字?」

「……ま、まだ、言い辛いんですけど」

「ど?」

「寺島です。寺島こずえ。確か、22です」

「なら、飲めるな。金曜日、総務課に行って誘って来る」

「そ、そんな事出来るんですか?」

「俺を誰だと思ってんだ。総務課長は俺の後輩なんだ。その部下に声を掛けたくらいじゃ、問題ないよ」

「寺島ちゃん、来るかなぁ?」 

「1人はマズいから、何人か女の子に声を掛けてみるわ」

清水は灰皿に吸い殻を押し付けて、赤ワインをゴクリと飲む。この人が赤ワインを飲むと、グレープジュースを飲んでるようにしか見えない。

「清水さん、こっちも男を増やしましょうよ」

「やだ」

「女の子ばかりじゃ、緊張しますよ」

「男が増えると、まとまりが付かなくなるし、支払いは俺だよ。男は自分の金で飲めよな。石川は特別だよ。君はいつも仕事をきちんとこなす。来年辺り、主任をプッシュしてやろうと思ってんだ」

石川はハンカチで、口の周りを拭き、赤ワインを飲みながら考えた。

「ぼ、僕に主任が勤まりますかね?」

「俺は主任歴9年だから、別に辛くはないけど、主任は色んな事を担当するから、早い段階で主任になれば次は係長だよ。山崎はがっかり長だけど」

「山崎係長、今日、飲みたそうでしたよ」

「金曜日誘うか?」

「はい。何か、急に会社が楽しくなりましたよ」

「そうか、後1本赤ワイン飲んで帰ろう」

「はい」

2人の男は、グデングデンになりタクシーで帰った。

清水の次なる店はどこか?そして、総務課の女の子とはどうなるのか?

だいたいは、察しが付くだろう。

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